こんにちは!
乾ルカ『コイコワレ』を読んだ勢いで、この週末は螺旋プロジェクトシリーズの最後の一冊を読みました!


吉田篤弘『天使も怪物も眠る夜』(中央公論新社)

舞台は2095年の東京。
技術の進歩により各段に暮らしやすい世の中になったものの、人々は慢性的な不眠症に悩まされていました。

不眠症は全国に広がり、東京では不眠症改善ビジネスが急成長し、眠り薬の開発や「添い寝サービス」の普及、「面白くない本」がベストセラーとなり、逆に「面白い本」は焚書になる(面白くて徹夜してしまうことで不眠症を助長するため)ほど深刻化していました。

この物語の中心人物は眠り薬の開発会社に勤める男・フタミシュウ。
シュウはある日突然「バブルガム課」という訳のわからない部署に配属され、上からの特命を任されることになります。

それが「眠り薬」とは真逆の作用をもたらす「覚醒薬」の開発。

シュウは事態を呑み込めないまま覚醒薬・通称「王子」の開発のために手探りで動きだしますが、シュウのまわりでは様々な人の思惑と行動が渦巻いていて…。
というあらすじです。

この物語でもうひとつ重要なのが、2095年の東京では東京を東西に分断する「壁」が建設されている、ということです。

「壁」は「分断」と「争い」を象徴するものとして描かれています。

2095年の東京では「壁」自体が「ナンセンス」なものだと言われていますが、それでも取り壊されず、壁の境目付近では「バラ線地帯」と呼ばれる無法地帯ができ、なんだか得体の知れない近づきがたいものとしても描かれます。

この物語はフタミシュウの冒険譚と「壁」をめぐる人々の思いが「眠れる森の美女」というおとぎ話に乗せて描かれてゆきます。

内容が呑み込めるまで少し時間がかかりますが、この物語を読み進めながらある既視感を覚えました。

なんかこれ、ディズニーランドみたい!

アトラクションに乗る前に、アトラクションの世界観についての説明があり、アトラクションに乗りながら少しずつ謎が明かされ、ちょっとスリリングな展開があって、でも最後はハッピーエンドで…という感じが、この物語にもあるように感じられたのです。

『眠れる森の美女』はディズニー映画にもありますしね。

もちろん、この物語はディズニーで感じるような「ハッピーなおとぎ話」だけでは終わらず、対立すること、争うことへの意思表示をして物語は幕を閉じます。

この意思表示は「螺旋プロジェクトシリーズ」全体を通して伝えたいことなのだろうと読み取ることができます。

昔に比べてずいぶん豊かに暮らしやすい世の中になったとはいえ、大なり小なりの争いごとは止まず、苦しんでいる人がいます。

自分とは違う人がいる、合わない人がいる、ということは変えようのない事実です。
その事実に反発したり争ったりしてきたのがこれまでの歴史なのかもしれません。

なぜ人は争うのか?
なぜ対立しなきゃいけないのか?

ということについて書かれていたのがこれまでの作品だとしたら、
この物語からは、

これからは、対立の「壁」を超えていけないだろうか?

そんな未来への祈りを感じました。

今年の4月から8か月ほど経ってようやく読み終えた螺旋プロジェクトシリーズ。
謎が明かされるスッキリ感と、超大作を読み終えた達成感と、充実感と、祈りというおだやかな気持ちに包まれた素晴らしい作品集でした。

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