こんばんは~!

インド系文学の次は
アフリカ文学に手を出しました!
ここ最近、頭の中が世界中を飛び回っています🌀


チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『なにかが首のまわりに』(河出文庫)

表題作ほか11編の短編小説集です。

本書はタイトルに惹かれて買ったのですが
(この意味深な感じが好き)
自分の知らない世界に連れていかれ、めちゃくちゃたくさんの刺激と衝撃を受けました。

著者はナイジェリア出身の作家で、本書もナイジェリアが舞台となっているものが多くあります(もしくは移住先のアメリカ)。

ナイジェリアをインターネットで検索すると、
外務省危険情報でレベル4(退避勧告)が出ているエリアがあります。

アフリカ全土でそうなっているわけではありませんが、
紛争が続き、混乱が続く地域も多くあるようです。

本書に登場するのは
そうした環境下で育ち、なんらかの理由で「抑圧」されている人々。

政治、宗教、民族、階級、ジェンダー…それらが混ぜこぜになった理由から抑圧を受けている人々の苦悩と葛藤が描かれています。

各編のあらすじを簡単に紹介します。

「セル・ワン」
やんちゃな兄がカルト集団の一味として誤認逮捕され、刑務所へ入れられる。
そこは言わずもがな劣悪な環境だが、冤罪で捕まるお爺さんと出会い兄の態度は変わり…。

「イミテーション」
アメリカとナイジェリアを往復する夫に愛人がいると知らされる妻の物語。妻はアメリカにいて、愛人はナイジェリアに囲っているという。妻は自分の立場とそうなった経緯といまそこにある事実を振り返り、ひとつの結論を出す…。

「ひそかな経験」
暴動に巻き込まれ、見知らぬイスラム教徒の女性と一晩を共にするキリスト教徒の女性の物語。
イスラム教徒とキリスト教徒が争い合うなかで、ふたりはひっそりとお互いの優しさに触れる…。

「ゴースト」
ずいぶん昔に死んだと思っていた男と再会した。久しぶりの邂逅は、懐かしさと、切なさと、ぎこちなさがあり…。古傷をなぞったことで湧き上がる感傷が描かれた一編。

「先週の月曜日に」
アメリカ人家族のベビーシッターとして雇われたナイジェリア人女性の物語。
ベビーシッターとしての日常が描かれながらアメリカ人家族とナイジェリア人夫婦の暮らしの差が浮き彫りになる一編。

「ジャンピング・モンキー・ヒル」
キャビンを借りて行われるアフリカ作家ワークショップというイベントで浮かび上がる、抑圧と反抗の物語。
「なぜいつも私たち、なにもいわないの?」(157頁)
という、胸を突く問いが印象強い一編。

「なにかが首のまわりに」
アメリカに移住しはじめたナイジェリア人女性の戸惑いと葛藤の物語。
アメリカでの暮らしに順応しようと努力しながら、その一方で故郷への思いも募り…。

「アメリカ大使館」
アメリカ大使館で難民ビザを取得しようとする女性の物語。難民ビザを申請するきっかけとなった「あの日」を思い出し、彼女は言葉を無くしてしまう…。

「震え」
アメリカでお互いの傷心を癒し合うナイジェリア人男女の物語。
彼らは祈り合い、話し合い、相手の話を聞き合い、そして祝福し合う…。

「結婚の世話人」
身分も経済力もある夫と結婚したけれど、窮屈な暮らしぶりを強いられる新妻の物語。
故郷にいたころよりもすごく余裕のある暮らしができている。けれど、名前や言語や食事をアメリカ流に変えさせられ、「自分」であることを抑えなければならず…。

「明日は遠すぎて」
兄といとこと遊んでいたあの頃、「きみ」はひとつの後ろめたい秘密を抱えていて…。
ジェンダー的問題が背後にうっすらと描かれる一編。

「がんこな歴史家」
自分の息子を守るため、息子を異教徒にさせ英語を覚えさせた母の物語。
母の思いとは裏腹に、息子はキリスト教徒としての人生を全うし、息子としての立場を離れようとしてしまい…。

取り上げているテーマはいろんな問題がからむ複雑なものではありますが、この物語は「重くて暗い」読後感はあまりありません。

抑圧された人々は怒りをあらわにしたり、逆に冷ややかになったり、行動を起こしたり、神に祈ったり(日本人が「神」という言葉を使うと、なんだかすごく浅く感じます)して、彼らは現実を生きようとします。

なんというか、「底なしのたくましさ」と生命力があるような、そんなエネルギッシュさを読み取ったのです。

立場的には弱いかもしれないけれど、その人自身はぜんぜん弱くない、そんな印象を受けたのです。

それは、どれほどの抑圧を受けても自分を失わない気高さがある、と言い換えることができるかもしれません。

全体を通して感じたのは
やはり自分は世界を知らなすぎる、ということと
多民族国家の想像以上の複雑さ、
内紛・暴力・理不尽が蔓延するために抱える抑圧、
抑圧を受けながらもなお生きている人たちが持つ「凄み」でした。

そういう「凄み」がないと自分を保てないほどの環境下であった、ということもあるかもしれませんが、
遠く離れた平和な日本で暮らすわたしには、ものすごく刺さるものがありました。

この「凄み」に気圧されない自分でありたい。
そう思わせる作品集でした。


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