「きみはだれかのどうでもいい人」
というタイトルといい、内容といい、
もう、とにかく、ガツンときました。
この物語の登場人物は県税事務所に勤める女性職員。
本庁でバリバリに働き出世街道まっしぐらだったにもかかわらず、県税事務所に「飛ばされた」エリート職員・中沢環。
環の同期で、県税事務所で環の前任職を勤めていたが「心が折れて」総務課に異動した染川裕未。
環と同部署のベテラン職員、「意地悪なおばさん」と自称する田邊陽子。
田邊の同期であり、裕未の上司。職場のみんなから「嫌われている」総務課主任・堀セイコ。
県税事務所のアルバイト兼「問題児」の須藤深雪。
この物語が描いているのは、積み重なった「悪意」のバトンと、そのゆくえです。
税金が払えない「お客様」のクレーム対応に追われて。
「お客様」から受けたストレスを発散したくて。
プライベートもうまくいかなくて。
嫌なことがたまたま立て続けに起こってしまって。
仕事をする以上、ささいなストレスは日常茶飯事。
こんなことでいちいちくじけていられない。
そう思っていたのに、わかっていたのに
「悪意」のバトンリレーは続き、ひとりの女性を完全に追い詰めてしまいます。
この物語は「だれが悪い」ということを明らかにしません。
わかるのは、彼女たちがそれぞれの事情を抱えて仕事をし、積み重なったストレスに耐えきれずに「悪意」のバトンリレーをしてしまったことです。
このバトンリレーのリアリティがありすぎて他人事とは思えず、読みながら心からゾッとしてしまいました。
この物語にはトドメの一言が登場します。
「そんなの、知らねえよ」
強い。
強くて、厳しくて、冷たい言葉がおなかにズシンときます。
相手に向けてはいけない銃のような言葉です。
心をくじくにはぴったりの言葉でしょう。
ですが、この言葉と無縁な人はいるのでしょうか?
さまざまな事情が積み重なったら、思わず「そんなの知らないよ!」と叫びたくなるときだってあるのではないでしょうか。
この言葉は裏返せば
「自分のことでいっぱいいっぱいなの!」
という叫びにも聞こえます。
そう思えば自分を守る護身術のようにも思えてしまいます。
わたしはこの物語を読んで、「人にはいろんな事情がある」ということの一番最悪のパターンを垣間見た気がしました。
悪い歯車がきれいに噛み合ってしまった悲劇だと思いました。
そしてもうひとつこの物語がわたしにもたらしたものがあります。
それは想像力の拡張でした。
それはピアスの穴をあけるときのような、ぐぐ、と痛みのある拡張のされ方で、思った以上の痛みに「なんだよ!」と謎の怒りがこみあげました。笑
けれど、この想像力の拡張は意味のあるものだったと思いたいし、たとえ「だれかのどうでもいい人」と認定されてもかかわっている間は「だれか」の役に立ちたいと思いたい。
みんなしんどいし、抱えたってしかたない。
割り切ったほうが楽。なんだけど
でもやっぱり相手を信じていたいし、
やっぱりどうしても祈らざるをえない。
そんな気持ちになりました。
それってイノセント(無垢)すぎるんですかねぇ?
…という、謎の問いかけで締めたいと思います。笑
読みながらいろんな気持ちがあふれてきましたし、いろんな意見を聞いてみたいと思いました。
この本で読書会やりたいですねぇ。
やります!って言ったら、どなたか参加してくれますか??(さらなる問いかけ笑)
いつかやれたらいいなと思いつつ、今度こそほんとうにブログを締めたいと思います。