232,438円。
これは、わたしの今月のクレジットカードの請求額だ。

ちなみにわたしは28歳独身、ごく普通の会社員である。
「請求額のご案内」メールがきたときは、卒倒しそうになった。

ほえぇ!? こんなに使ってたっけ……!?
高級ブランドとか買った覚えないのに!?
まさか、スキミングされてるとか……!?

請求明細をみたら、どれも心当たりのあるものだった。
スキミングされていなかったのは良かったけれど、カード利用額史上最高を更新してしまった。すべて確認し終わった瞬間、猛烈に罪悪感が湧いた。

おしゃれは大好きだ。
できれば誰ともかぶらないひとクセある服を着て「え〜それどこで買ったの? かわいい!」と言われたい。
あわよくば、そんな「かわいい服」をなるべく安価に手に入れたい。

世の中の「かわいい」は結構いいかげんだ。
女性ファッション市場なら、小花柄のワンピースからスパンコールぎっしりのタイトスカートまで全部「かわいい」の範疇に入る。
わたしの琴線に触れる「かわいい」を探すために丸一日デパートをうろうろして、収穫がなかったことなんて日常茶飯事だ。
30代を目前にしてなにかと忙しくなって、「かわいい」に振り回されるのに疲れてしまった。そして収穫がないときの「時間を使ってしまった罪悪感」にも耐えられなくなって、最近はもっぱらネットショッピングを利用している。
その結果が冒頭の金額だ。ひとつひとつは少額だが「塵も積もれば山となる」を体現した金額だった。

これはわたしの経験談だが、女性なら同じような経験がある人は少なからずいるのではないだろうか
好きなブランドの新商品を見るだけでなく、店舗に在庫がなくてネットで買うとか、ネット限定のものを買うとか、そもそも実店舗のないネット上のアパレルブランドの服を買うとか、いろんな手段でネット上で買い物をすることがあるだろう。
いまや日常に溶け込んでいるけれど、こういう「eコマース事業」が主流になって10年ほどしか経っていない。

なかでも「ギルト」はニューヨーク発のショッピングサイトで、ファッション分野のeコマースのパイオニアだ。
まだアマゾンくらいしか流通していなかった2000年代後半のアメリカで、ふたりの女性が共同で創業した「ギルト」は瞬く間に広まり、爆発的な成長を遂げた。
2008年にリーマン・ショックがあって世界中が不景気で冷え込んでいた最中も成長を続け、2009年には日本にも進出した。

本書は「ギルト」の共同創業者、アレクシスとアレクサンドラのふたりの出会いからギルトの創業、爆発的な成長を遂げるまでのサクセスストーリーが書き尽くされた一冊だ。
ふたりの出会いはハーバードビジネススクールで、共にファッションが大好きですぐに意気投合した。
お互い一度は別の道に進み、自分のキャリアに迷ったころに再会し「ギルト」のアイデアを思い付く。
ハーバードビジネススクール出身という高学歴のふたりは自身の経験と人脈をフルに活かして「ギルト」をかたちにしていくのだが、このストーリーが面白くてのめり込んで読んでしまった。

正直「ハーバード!? はじめっから凄い人たちなんじゃん……次元が違うわ……」と思って引いてしまったが、その高学歴をフル活用してでも成功するまでの道のりがおそろしく長くかつ泥臭い道のりだったので、共感しないまでもかなり感情移入して読んでしまった。

友達におすすめされた一冊だったのでわたしはギルトの存在を知らなかったのだが、ギルトのアイデアに唸らされた。コンセプトにも共感するものがあり、すぐにスマホアプリをダウンロードした。

ギルトが提供しているのは「興奮」というエンタテインメントだ。
今でこそ様々なブランドを取り扱っているが、最初は「オンラインで高級ブランドのサンプルセールをする」というコンセプトで展開していた。
共同創業者のふたりは高級ブランドのサンプルセールめぐりが趣味で、それをオンラインでできないか、と考えたのだ。
定価では手の届かない高級ブランドの商品が、オンライン上でセール価格で買える。セールするのは1日のうちの数時間だけ。店舗のサンプルセールはかなりの争奪戦で疲れ果ててしまうが、オンラインならパソコンさえあればどこでもできる。
ギルトはショッピングの高揚感と「良いものをお得に賢く買えたわ!!」という付加価値まで消費者に提供してくれる。
これは絶対に需要があると確信したふたりは、さっそく知識と経験と人脈を活かしてギルトを素早くかたちにしていくのだ……。

「品質の良いものを、安く早く手に入れられる」
これこそ、最近わたしが一番求めていたものだった。
ギルトなら、丸一日デパートめぐりに時間を費やすことなく、好きなブランドの服をスマホでチェックして、お得な値段で買える。なかには知らないブランドの掘り出し物もあるだろう。そういうものを見つけたときの喜びたるや、想像するだけでニヤニヤしてしまう。

わたしはどんな買い物であっても、賢く使いたい。
自分が稼いだお金だから別に自由に使っていいんじゃない? という意見もあるだろうが、わたしは「限られた予算・時間内で自分の魅力を最大限に引き出す」ことに最上の喜びを感じる。
買い物ひとつとっても「いい女」「デキる女」に見られたいのだ。
アラサーはなにかと忙しいと書いたが、そもそもヒマ人だと見られたくない(これは男性側の視点として本書にも指摘があった)。
ネットの買い物でそれが全て叶った瞬間、わたしのテンションは最高潮に達する。
そしてなにかと調子に乗って、使いすぎてしまうのだ……。反省。
ギルトのサクセスストーリーを読みながら、「ギルトを作ってくれて、本当にありがとう!!」と心から思った。

本書はギルトのサクセスストーリーであるとともに、起業を志す人に向けた指南書でもあり、アレクシスとアレクサンドラの友情の物語でもある。
ふたりが何より大事にしたのは人間関係で、ギルトが大きくなり人員が増えていっても人間関係を大事にする企業理念はブレず、人事や採用面接に相当の力を注いだ。

仕事をする上で、熱量が同じ人とやれたらどんなに楽しいだろう、どんなにやりがいがあるだろう……と思った。
これまで6年間しか社会人をやっていないけれど、仕事の悩みの9割は人間関係の悩みだったし、人に恵まれたな〜と思うときもあればその逆もあった。というか、逆の方が多かった。だからアレクシスとアレクサンドラのように仕事ができたらどんなにいいだろうと羨ましくなった。

それから、インターネットもそうだけれど、AIのおかげでいままで人間がやっていた仕事がどんどん取られていっている。顕著なのは銀行だろう。
わたしが今やっている仕事(秘書)も、けっこう近い未来になくなるんじゃないかと思っている。
6年前はこんなこと微塵も思わなかったけれど、会社員として生き続けるのがむずかしくなりそうな時代を肌身に感じ、ちょっぴり起業欲が芽生えてきた。
本書を読んで、さらに起業熱が増した。

そんな時代を生き抜くためにはなにより「柔軟性」が大事だろう。
アレクシスとアレクサンドラは親友同士ということもあるが、会社の危機に直面したとき、お互いの信頼関係と人脈と柔軟な対応で乗り切っている。
わたしも、ギルトのふたりのように「柔軟性」をもって生きる道を探そうと肝に銘じた。

気合を入れなおす良い機会になった一冊だった。

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