最近インスタグラムをはじめた。

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本の表紙をそれっぽい背景とともに撮影して、キャプションに短めの感想文を書いて、ほぼ毎日更新している。

同じような読書系アカウントは腐るほどいて、「#読書記録」で検索すると、本、本、本、片手に本、カフェと本、スイーツと本、酒と本などなどあらゆるバリエーションで本が写っている。

本だけ撮ってもみんなのインスタに埋もれてしまう。
いろいろ考えた末に「自分が好きなデザインの背景と一緒に撮る」ことにしたのだった。

しかし、ここである問題が出てきた。

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…俯瞰してみると、うるさい!

ひとつひとつの投稿はいい感じなのだが、プロフィールページに飛ぶと「うわっ」となる。
ひとつひとつの主張が激しい。背景がカオス。統一感があるようで、ないような……。

インスタは4月からはじめたばかり。
やりながら軌道修正していくしかないので、背景カオスからどうなっていくのか、ぜひこれからの成長を見届けてほしい(なにとぞフォローよろしくお願いします…!)。

いまのところ今村夏子『こちらあみ子』と何の関係があんのさ?という文章だが、
いまのわたしには『こちらあみ子』が“売れないインスタグラマー”の物語として読めてしまった。

…なんだそりゃ?だろう。
それが伝わるように、これから感想文をなるべく丁寧につづっていきたい。

今村夏子『こちらあみ子』の主人公は、15歳の少女・あみ子。
 
あみ子の視野はおそろしく狭い。おそらく半径50センチもない。
ひとつのことに夢中になると、まわりが見えなくなり、話が聞こえなくなる。
そしてこだわりがおそろしく強い。「インド人のまね」と言ってカレーを手で食べたり、お母さんのほくろは手で取れると思っていたり。
 
あみ子の世界はあみ子以外には共有されず、まわりから見ると「なにあの子」状態なのだが、あみ子はまわりがそう思っていることにまったく気づかないのだ。
 
さらにインパクトを与えるのが、あみ子の外見。
あみ子は前歯が3本ない。
『こちらあみ子』はなぜあみ子の前歯が3本欠けるに至ったのかを、あみ子の視点とあみ子のまわりを俯瞰して見た視点で淡々と描いてゆく。
 
あみ子には両親と兄がいて、彼ら家族があみ子を外の世界へとつなげる唯一の存在だった。
家族たちもあみ子の挙動には手を焼いていて、兄はとうとう不良になってしまう。母親もしつけに手を焼き、とある事件をきっかけにすっかりやる気をなくしてしまう。
 
家族たちがやる気をなくすと、あみ子はどんどん自分の世界へのめり込むようになる。
時間の流れもわからなくなり、幻聴のようなものが聞こえはじめる。
学校へは気分次第で行く。あみ子はしばらくお風呂に入っていないためまわりから気味悪がられているのだが、それすらも全く気づかない。
 
万事がそんな感じなのだが、あみ子にはなんと好きな男の子がいる。
母の習字教室に来ていた「のり君」だ。のり君の字に惹かれ、会う度に熱烈アピールをする。
もちろんあみ子は相手の反応に気づかない。
のり君の反応はわたしの思った通り。
あみ子とのり君の思いは一向に交わることなく、とうとうあみ子の前歯がなくなる一大事に発展してしまうのだった…。

読み終わった瞬間に
「あみ子ーーー!!」と叫びたくなった。
というか、心の中では叫んでいた。
 
あみ子の視野は狭いけれど、ものごとを斜に構えたり意地悪く思ったりすることなく、ひとつひとつ真剣に受け止めている。
 
インスタグラムでたとえると、一枚一枚の投稿はとても真剣なのだが、それまでどんな投稿をしていたかを一切忘れてしまうため、俯瞰してみると支離滅裂で「うわっ」となる感じだ。
そしていままでキャプション付け(補足)をしていた家族がやる気をなくすと、あみ子の世界はますます隔絶されてゆく。
 
「友達を大切にしなくてはという思いがある。休日の度に顔を見せにやってくるさきちゃんはきっと、あみ子のことが好きなのだ。あみ子も同じように、さきちゃんのことを好きだ。(中略)
「なんだつまんない」とさきちゃんは言ったけれど、あみ子のむきだして見せる空洞をよほど気に入ったのか、更に顔を近づけてきた。こんなことならお安い御用だ。見たいぶんだけ、いくらでも見せてあげられる。イーッ。」(14頁)
 
冒頭の文章は、さわやかできれいな文章だ。
読後にふたたび冒頭を読み返し、その後の展開に胸がつぶれそうになる。
 
あみ子の視野の狭さゆえの純粋さは、悲しいことにまわりにとっては「毒」だった。
あみ子が熱を帯びれば帯びるほどまわりは冷めていく。
個性は際立つけれど、まわりと共有できない個性はただの脅威でしかないのだ。

あみ子は誰にもないものを持っているはずだ。けれど、今のままではインスタグラマーになれない。
 
物語に「キンポウゲ」という毒花が出てくる。
黄色い花で見た目はさわやかだが、猛毒のある花だ。
『こちらあみ子』はキンポウゲのように、わたしにさわやかに毒を染み込ませてくる。
読み終わったころには毒がすっかり効いていて、読後の余韻から抜け出せないのだった。