奇麗だね 
今日はこれだよ!
──有名監督、大人気スターを起用し、大々的に宣伝を仕掛けても、人々の記憶にさえ残らないような作品も多数ある。こうした大コケ映画は、なぜ生まれてしまうのか? 業界関係者を中心にその裏事情を調査すると、作品作りから配給・宣伝の過程で、さまざまな無理難題に振り回される”映画業界の労働問題”が垣間見えてきた……!?
どれほど著名な監督や大物スターを起用しようと、それが必ずしも興行成績に直結するとは限らないのが映画というもの。毎年封切られる1000本近い作品の中には、先ごろ「公開館73館で興行収入8600万円」という具体的な数字が出て”惨敗”とインターネット上で話題となった『苦役列車』【1】をはじめ、さまざまな理由で当初の想定を大きく下回ってしまう、いわゆる“大コケ映画”が少なからず存在する。
一般的にヒット作の目安とされているのは興行収入にして10億。とはいえ、当たり前の話だが、製作費を10億円かけて、13億円の興収を上げてもヒットとは呼べない。また、人気のマンガや小説を映画化したり、話題の監督や俳優を起用して、注目を集めても興行収入が1億円にも満たない場合も往々にしてある。
では、そんな”大コケ”の原因とは果たして何か。この稿では、現役の映画関係者らの声をもとに、知られざる業界の内実に迫ってみたい。
■KYプロデューサーに塚本高史事務所が激怒!
まず、大コケの理由として、最もタチが悪いのが、製作段階からその先行きが不安視されてしまうケース。とりわけ、陣頭指揮を執るべき監督やプロデューサーの現場での横暴な振る舞いや、演者たちの間で生じる不協和音は、ともすれば完成を待たずに”大コケ”を決定づける致命傷ともなりかねない。
さる配給会社の関係者A氏は、そうした現場の苦悩をこう語る。
「『苦役列車』のように作品の評判は決して悪くないのに、結果がまったく伴わないってだけなら、まだいいほう。作品がちゃんと評価されさえすれば、たとえコケてもスタッフやキャストにはある程度の達成感は残りますからね。
そういう意味では、ここ数年で群を抜いて過酷だったのが『カムイ外伝』【2】の現場。ただでさえVFX(視覚効果)への比重が高い作品なのに、崔洋一監督がスタッフの意向を無視してムチャなカット割りで撮影を続行したため、『ゲゲゲの鬼太郎』のVFXなどを手がけた某有名プロダクションが途中で白旗を揚げた。あとには700カット近い膨大な量の素材だけが残されました。
しかも、その素材というのも、例えば巨大ザメと格闘するというシーンで、どう考えてもサメより小さいサンドバッグを抱いて、俳優が転げ回っているだけだったり、模造刀の太さが、あとから合成する真剣の太さとまるっきり違ったりと、かなりお粗末だったよう。結果的にこの作品は、共演者だったマツケン(松山ケンイチ)と小雪の結婚というニュース以外には何も残らないほど大コケしましたが、関係者の間では、『残されたあの素材で、よくぞここまでカタチにした』と、最終的な合成処理を担当したイマジカを称賛する声も聞かれたぐらいです」
一方、監督と共に現場を取り仕切る立場のプロデューサーにも悪例は数多い。別の関係者B氏は、その体験を次のように語ってくれた。
「監督やプロデューサーが、やれあの番組に宣伝を入れろ、この雑誌に出演俳優のインタビューを出せと無理難題を言ってくるのはよくあること。ですが、ある批評家に『こんなの観るくらいなら、本屋で立ち読みしてたほうがマシ』とまで酷評された『恋するナポリタン ~世界で一番おいしい愛され方~』【3】の女性プロデューサーには心底、辟易させられました。
この作品は本来、塚本高史さんが主演だったんですけど、製作中から彼女が三番手のEXILE・MAKIDAIさんにいたくご執心で、もうべタベタ。これに塚本さんサイドが激怒されて、作品に関わるスタッフ・キャストの足並みがそろわず、結果的に評価もボロボロ。その上、塚本さんサイドは、完成後のプロモーションにもほとんど協力してくれなくなったんです。
で、宣伝マンがパブリシティに手を焼いていたら、今度は彼女のほうから『しょうがないから、私が雑誌やテレビに宣伝で出るわ』と言いだした。そんなに影響力があるわけでもないのに、セッティングには気を使わなくちゃいけないし、僕たちからすると完全にありがた迷惑なんですけど、彼女は『新聞なら読売か朝日にしてね』なんて平気で言うわけです。ちなみに、結局取材が取れたのは某女性向けポータルサイトのインタビューだけだったんですけど、そこでも彼女は『出るのはいいけど、メイクとスタイリストはちゃんとつけてね』と(苦笑)。しかも、そこまで要求しておきながら、最終的にはその取材自体を前日にいきなりドタキャン。理由を訊いたら『EXILEのイベントに行くから』とかって言うんですから、もうどうかしてますよ」
ちなみに、このプロデューサーというのは、講談社元社長・野間佐和子氏の長女“Katie NOMA”こと野間清恵氏のようだ。
さて、このB氏の言葉を借りるまでもなく、いかにメディアへの露出を集中的に行えるかも興収を左右する重要なポイントとなる。B氏が続ける。
「塚本さんの場合は多分に製作サイドに非があるとは思いますけど、キャスト同士の仲がもともと悪かったりすると、もうサイアク。それが女優さんだったりすると、なおさら手に負えません。最近で聞いた話だと、『ウタヒメ 彼女たちのスモーク・オン・ザ・ウォーター』【4】で共演した黒木瞳さんと真矢みきさんが、宝塚の先輩・後輩ということもあって、かなり大変だったとか。どうやら、舞台あいさつの登壇順にまで気を使わなきゃいけないほどピリピリだったみたいですよ」
■AKB48を起用でもダメ コケる映画は宣伝も不発
他方、しばしばあるのが、公開前の大規模なプロモーション展開がさらに傷口を広げてしまうケース。
記憶に新しいところでは、天下のスピルバーグ作品であるにもかかわらず、ヌメッとした質感のCGが敬遠されて大惨敗を喫した『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』【5】が挙げられる。事情をよく知る関係者C氏は言う。
「もともと日本では原作になじみがないのに、ヨーロッパでのヒットを頼みにして、配給の東宝東和は、あれを勝負作と位置づけて、800スクリーンという超拡大公開に打って出た。そのうえ、スピルバーグに匹敵するビッグネームをプロモーションに起用したいということで、かの宮崎駿さんにスピルバーグとの対談をオファー。わざわざジブリの試写室で観てもらうことになったんです。
ところが、当日は肝心の宮崎さんが来られず、代わりに観賞してもらったcさんには『タイトルに冒険とついているのに、血が通っていなくて、まったくハラハラしない。痛みを感じないこんなCG作品、宮さんには観せられない』とケチョンケチョンに言われる始末。結局、対談そのものも実現せず、かなりの手間と莫大な宣伝費をかけたわりには、興行的にも800スクリーンでわずか10億強と、まったくの期待ハズレにおわりました」
こうした『タンタン』のような日本になじみのない海外アニメや実写ファンタジーはコケる確率が比較的高く、直近では『ホビット 思いがけない冒険』【6】、少し前なら『ライラの冒険 黄金の羅針盤』【7】などが不振に終わっている。映画界最強のタッグともいえるディズニー&ピクサーが手がけた『メリダとおそろしの森』【8】も、AKB48の大島優子を起用した大々的なPRもむなしく大惨敗を喫している。
「ディズニーという会社は、ブランドマネジメントにうるさくて、プロモーションの融通が利かないことで有名なんです。最近では少し緩くなってきたみたいですけど、かつてはテレビで作品紹介をするだけなのに、その番組の台本を事前に見せろなどとムチャな要求をしてくることもあったぐらい。もとがそういう体質だから、いくら旬のAKB、しかもセンターの大島を使っても、ハマらないときはとことんハマらないんですよ」(C氏)
■最新VFX技術が震災から映画を救った!
ところで、そんな強硬姿勢なディズニーだけに、独自の戦略がモロに裏目に出てしまうことも少なくない。最近では”ウォルト・ディズニー生誕110周年”と銘打ってメディアへの大規模なスポット投下も行われた大作『ジョン・カーター』【9】などがそれに当たる。配給会社勤務のD氏は、次のように解説する。
「あの作品は、若手イケメン俳優のテイラー・キッチュが主演で、日本ではまったく同時期に、彼と浅野忠信とが共演した超大作『バトルシップ』【10】の公開も控えてたんです。
テイラーはまだ日本では無名ですから、普通に考えれば共同キャンペーンを張るなり、相乗効果を狙った戦略を取るほうが得策ですよね。ところが、ディズニーの方針はまったく逆で、くだんの『バトルシップ』のジャパンプレミア直前にテイラーをわざわざ来日させて、暗に『バトルシップ』の話題性を薄めようとしてみたり、相手が”ユニバーサル映画100周年記念作”だと聞けば、取ってつけたかのように後から“110周年”と言ってみたり……。その挙げ句、結果的には『バトルシップ』にも負けるほど興行的には大コケだったんですから、かたくなすぎるのも考えものです」
むろん、こうしたディズニーの例を挙げるまでもなく、そこに巨額のお金が動く以上、作品が大きければ大きいほど、配給会社や製作委員会の恣意的な思惑がプロモーションに働くことは想像に難くない。
だが一方、そうした思惑とは別の次元で引き起こされた不測の事態によって、思わぬ局面を迎えた作品も中にはある。その典型例が、一昨年の東日本大震災によって、大幅な企画変更を余儀なくされた『聯合艦隊司令長官 山本五十六』【11】だ。D氏が続ける。
「東日本大震災は、事実上のお蔵入りになった『唐山大地震~想い続けた32年~』をはじめ、多数の作品の公開が中止や延期になり、映画業界にも深刻なダメージを与えましたが、11年そこそこのヒットを飛ばした『山本五十六』も、実はかなりの痛手を受けた作品なんです。
3・11の直前にすでにクランクインしていたこの作品は、当初、海上・航空の両自衛隊が全面協力をする予定でしたが、ご存じのように自衛隊の人員は大部分が救援活動に従事することになったため、予定されていた実物の戦艦などでの撮影は一転して不可能に。震災の影響で、大口のスポンサーも数社が撤退して、一度は企画そのものが頓挫しかけるほど状況は危機的なものだったようです。 そんな窮地を救ったのが、VFX監督を務めていた特撮研究所の佛田洋氏。彼が、同じ東映系の『男たちの大和 YAMATO』や『ローレライ』などの戦争映画を手がけていたおかげで、足りない素材をそこから抽出して流用。素人目には二次使用が判別できないほどのクオリティにまで仕上げることができたとか。
まぁ、東映としては『”大和”並みの大ヒット』を想定してスタートさせた企画だったわけですから、それを考えると大コケには違いないですけど、そんな裏技を駆使してまで映画を完成させたスタッフの熱意には正直、頭が下がりますよね」
大コケ映画の裏側には、監督のエゴに振り回されるスタッフの汗と涙や、ムチャぶりを職人技で見事切り抜けるなど、映画作品よりも感動的なエピソードがあるようだ。
(文/加納シズク)
【1】『苦役列車』
監督:山下敦弘/出演:森山未來ほか/発売:キングレコード(3990円)
西村賢太の芥川賞受賞作が原作。暗い過去を背負い、不遇な日常に怒れる青年の葛藤を描く。映像監督の大根仁がツイッターで前田敦子を絶賛するなど、作品評価は悪くない。(12年公開)
【2】『カムイ外伝』
監督:崔洋一/出演:松山ケンイチほか/発売:松竹(3990円)
主人公が非人部落の出身者であるなど、差別問題もテーマになっている。『血と骨』の崔監督らしい作品だが、主演の松山がケガをして、撮影が中断するなど不運もあり不発に終った。(09年公開)
【3】『恋するナポリタン ~世界で一番おいしい愛され方~』
監督:村谷嘉則/出演:相武紗季、塚本高史ほか/発売:Happinet(3990円)
自殺者の下敷きになり、イタリアンのシェフが死亡。一方、自殺者は一命を取り留めたが、彼にはシェフが乗り移っていた……という入れ替わりモノ。とにかくウケそうな要素を盛り込んだダケという評価も。なぜか茂木健一郎が出演している。(10年公開)
【4】『ウタヒメ 彼女たちのスモーク・オン・ザ・ウォーター』
監督:星田良子/出演:黒木瞳ほか/発売:ポニーキャニオン(4935円)
五十嵐貴久の小説『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』(双葉社)の映画化。暇を持て余した主婦たちがバンドを結成、コンサートに出る。南海キャンディーズしずちゃんや木村多江などクセのある女優が揃っているのも見どころ。(12年公開)
【5】『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』
監督:スティーヴン・スピルバーグ/出演:ダニエル・クレイグほか/発売:角川書店(1890円)
世界を飛び回る少年レポーター・タンタンが、17世紀に姿を消した船の模型を手に入れたことで騒動に巻き込まれる。ベルギーやフランスなど、ヨーロッパではわりとヒットした模様。(11年公開)
【6】『ホビット 思いがけない冒険』
監督:ピーター・ジャクソン/出演:マーティン・フリーマンほか/配給:ワーナー・ブラザーズ
架空の妖精であるホビット族の青年の冒険に出る物語で、大人気映画『ロード・オブ・ザ・リング』の前日譚となっている。(12年公開)
【7】『ライラの冒険 黄金の羅針盤』
監督:クリス・ワイツ/出演:ダニエル・クレイグ、ニコール・キッドマンほか/発売Happinet(1980円)
人々が守護精霊と生きるという世界で、子どもたちが次々と失踪する。少女ライラは持ち前の好奇心で捜索に乗り出す。世界的に興行不発で続編の製作も打ち切られた。(08年公開)
【8】『メリダとおそろしの森』
監督:マーク・アンドリューズほか/出演:ケリー・マクドナルド、(声)/発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン(3360円)
おてんば王女のメリダは、しつけに厳しい母に反発して出奔。彼女の考えを変えようと魔女に頼むが、なんと母は熊にされてしまった。母を元に戻すため、二人は森へ向かった。(12年公開)
【9】『ジョン・カーター』
監督:アンドリュー・スタントン/出演:テイラー・キッチュ、リン・コリンズほか/発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン(3990円)
『スター・ウォーズ』や『アバター』もここから着想を得たというSFの古典的名作「火星のプリンセス」の実写化映画。ディズニーが、110周年記念作と銘打って2億ドル以上を投じたが、不発に終わった。(12年公開)
【10】『バトルシップ』
監督:ピーター・バーグ/出演:リーアム・ニーソン、浅野忠信ほか/発売:ジェネオン・ユニバーサル(1500円)
14カ国合同の軍事演習中、突如海上に浮上した謎の戦艦が日米合同艦隊を襲う! 2億ドル以上の製作費に対し、アメリカでの興行収入は6500万ドルと苦戦。日本では14億円と、まずまずであった。(12年公開)
【11】『聯合艦隊司令長官 山本五十六』
監督:成島出/出演:役所広司、坂東三津五郎ほか/発売:バンダイビジュアル(3990円)
1939年、景気低迷に喘ぐ日本では戦争待望論が蔓延していた。海軍次官・山本五十六が、聯合艦隊司令長官として辞令を受けた翌年、三国同盟が締結し、日本は対米戦へと突入していく。(11年公開)
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──有名監督、大人気スターを起用し、大々的に宣伝を仕掛けても、人々の記憶にさえ残らないような作品も多数ある。こうした大コケ映画は、なぜ生まれてしまうのか? 業界関係者を中心にその裏事情を調査すると、作品作りから配給・宣伝の過程で、さまざまな無理難題に振り回される”映画業界の労働問題”が垣間見えてきた……!?
どれほど著名な監督や大物スターを起用しようと、それが必ずしも興行成績に直結するとは限らないのが映画というもの。毎年封切られる1000本近い作品の中には、先ごろ「公開館73館で興行収入8600万円」という具体的な数字が出て”惨敗”とインターネット上で話題となった『苦役列車』【1】をはじめ、さまざまな理由で当初の想定を大きく下回ってしまう、いわゆる“大コケ映画”が少なからず存在する。
一般的にヒット作の目安とされているのは興行収入にして10億。とはいえ、当たり前の話だが、製作費を10億円かけて、13億円の興収を上げてもヒットとは呼べない。また、人気のマンガや小説を映画化したり、話題の監督や俳優を起用して、注目を集めても興行収入が1億円にも満たない場合も往々にしてある。
では、そんな”大コケ”の原因とは果たして何か。この稿では、現役の映画関係者らの声をもとに、知られざる業界の内実に迫ってみたい。
■KYプロデューサーに塚本高史事務所が激怒!
まず、大コケの理由として、最もタチが悪いのが、製作段階からその先行きが不安視されてしまうケース。とりわけ、陣頭指揮を執るべき監督やプロデューサーの現場での横暴な振る舞いや、演者たちの間で生じる不協和音は、ともすれば完成を待たずに”大コケ”を決定づける致命傷ともなりかねない。
さる配給会社の関係者A氏は、そうした現場の苦悩をこう語る。
「『苦役列車』のように作品の評判は決して悪くないのに、結果がまったく伴わないってだけなら、まだいいほう。作品がちゃんと評価されさえすれば、たとえコケてもスタッフやキャストにはある程度の達成感は残りますからね。
そういう意味では、ここ数年で群を抜いて過酷だったのが『カムイ外伝』【2】の現場。ただでさえVFX(視覚効果)への比重が高い作品なのに、崔洋一監督がスタッフの意向を無視してムチャなカット割りで撮影を続行したため、『ゲゲゲの鬼太郎』のVFXなどを手がけた某有名プロダクションが途中で白旗を揚げた。あとには700カット近い膨大な量の素材だけが残されました。
しかも、その素材というのも、例えば巨大ザメと格闘するというシーンで、どう考えてもサメより小さいサンドバッグを抱いて、俳優が転げ回っているだけだったり、模造刀の太さが、あとから合成する真剣の太さとまるっきり違ったりと、かなりお粗末だったよう。結果的にこの作品は、共演者だったマツケン(松山ケンイチ)と小雪の結婚というニュース以外には何も残らないほど大コケしましたが、関係者の間では、『残されたあの素材で、よくぞここまでカタチにした』と、最終的な合成処理を担当したイマジカを称賛する声も聞かれたぐらいです」
一方、監督と共に現場を取り仕切る立場のプロデューサーにも悪例は数多い。別の関係者B氏は、その体験を次のように語ってくれた。
「監督やプロデューサーが、やれあの番組に宣伝を入れろ、この雑誌に出演俳優のインタビューを出せと無理難題を言ってくるのはよくあること。ですが、ある批評家に『こんなの観るくらいなら、本屋で立ち読みしてたほうがマシ』とまで酷評された『恋するナポリタン ~世界で一番おいしい愛され方~』【3】の女性プロデューサーには心底、辟易させられました。
この作品は本来、塚本高史さんが主演だったんですけど、製作中から彼女が三番手のEXILE・MAKIDAIさんにいたくご執心で、もうべタベタ。これに塚本さんサイドが激怒されて、作品に関わるスタッフ・キャストの足並みがそろわず、結果的に評価もボロボロ。その上、塚本さんサイドは、完成後のプロモーションにもほとんど協力してくれなくなったんです。
で、宣伝マンがパブリシティに手を焼いていたら、今度は彼女のほうから『しょうがないから、私が雑誌やテレビに宣伝で出るわ』と言いだした。そんなに影響力があるわけでもないのに、セッティングには気を使わなくちゃいけないし、僕たちからすると完全にありがた迷惑なんですけど、彼女は『新聞なら読売か朝日にしてね』なんて平気で言うわけです。ちなみに、結局取材が取れたのは某女性向けポータルサイトのインタビューだけだったんですけど、そこでも彼女は『出るのはいいけど、メイクとスタイリストはちゃんとつけてね』と(苦笑)。しかも、そこまで要求しておきながら、最終的にはその取材自体を前日にいきなりドタキャン。理由を訊いたら『EXILEのイベントに行くから』とかって言うんですから、もうどうかしてますよ」
ちなみに、このプロデューサーというのは、講談社元社長・野間佐和子氏の長女“Katie NOMA”こと野間清恵氏のようだ。
さて、このB氏の言葉を借りるまでもなく、いかにメディアへの露出を集中的に行えるかも興収を左右する重要なポイントとなる。B氏が続ける。
「塚本さんの場合は多分に製作サイドに非があるとは思いますけど、キャスト同士の仲がもともと悪かったりすると、もうサイアク。それが女優さんだったりすると、なおさら手に負えません。最近で聞いた話だと、『ウタヒメ 彼女たちのスモーク・オン・ザ・ウォーター』【4】で共演した黒木瞳さんと真矢みきさんが、宝塚の先輩・後輩ということもあって、かなり大変だったとか。どうやら、舞台あいさつの登壇順にまで気を使わなきゃいけないほどピリピリだったみたいですよ」
■AKB48を起用でもダメ コケる映画は宣伝も不発
他方、しばしばあるのが、公開前の大規模なプロモーション展開がさらに傷口を広げてしまうケース。
記憶に新しいところでは、天下のスピルバーグ作品であるにもかかわらず、ヌメッとした質感のCGが敬遠されて大惨敗を喫した『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』【5】が挙げられる。事情をよく知る関係者C氏は言う。
「もともと日本では原作になじみがないのに、ヨーロッパでのヒットを頼みにして、配給の東宝東和は、あれを勝負作と位置づけて、800スクリーンという超拡大公開に打って出た。そのうえ、スピルバーグに匹敵するビッグネームをプロモーションに起用したいということで、かの宮崎駿さんにスピルバーグとの対談をオファー。わざわざジブリの試写室で観てもらうことになったんです。
ところが、当日は肝心の宮崎さんが来られず、代わりに観賞してもらったcさんには『タイトルに冒険とついているのに、血が通っていなくて、まったくハラハラしない。痛みを感じないこんなCG作品、宮さんには観せられない』とケチョンケチョンに言われる始末。結局、対談そのものも実現せず、かなりの手間と莫大な宣伝費をかけたわりには、興行的にも800スクリーンでわずか10億強と、まったくの期待ハズレにおわりました」
こうした『タンタン』のような日本になじみのない海外アニメや実写ファンタジーはコケる確率が比較的高く、直近では『ホビット 思いがけない冒険』【6】、少し前なら『ライラの冒険 黄金の羅針盤』【7】などが不振に終わっている。映画界最強のタッグともいえるディズニー&ピクサーが手がけた『メリダとおそろしの森』【8】も、AKB48の大島優子を起用した大々的なPRもむなしく大惨敗を喫している。
「ディズニーという会社は、ブランドマネジメントにうるさくて、プロモーションの融通が利かないことで有名なんです。最近では少し緩くなってきたみたいですけど、かつてはテレビで作品紹介をするだけなのに、その番組の台本を事前に見せろなどとムチャな要求をしてくることもあったぐらい。もとがそういう体質だから、いくら旬のAKB、しかもセンターの大島を使っても、ハマらないときはとことんハマらないんですよ」(C氏)
■最新VFX技術が震災から映画を救った!
ところで、そんな強硬姿勢なディズニーだけに、独自の戦略がモロに裏目に出てしまうことも少なくない。最近では”ウォルト・ディズニー生誕110周年”と銘打ってメディアへの大規模なスポット投下も行われた大作『ジョン・カーター』【9】などがそれに当たる。配給会社勤務のD氏は、次のように解説する。
「あの作品は、若手イケメン俳優のテイラー・キッチュが主演で、日本ではまったく同時期に、彼と浅野忠信とが共演した超大作『バトルシップ』【10】の公開も控えてたんです。
テイラーはまだ日本では無名ですから、普通に考えれば共同キャンペーンを張るなり、相乗効果を狙った戦略を取るほうが得策ですよね。ところが、ディズニーの方針はまったく逆で、くだんの『バトルシップ』のジャパンプレミア直前にテイラーをわざわざ来日させて、暗に『バトルシップ』の話題性を薄めようとしてみたり、相手が”ユニバーサル映画100周年記念作”だと聞けば、取ってつけたかのように後から“110周年”と言ってみたり……。その挙げ句、結果的には『バトルシップ』にも負けるほど興行的には大コケだったんですから、かたくなすぎるのも考えものです」
むろん、こうしたディズニーの例を挙げるまでもなく、そこに巨額のお金が動く以上、作品が大きければ大きいほど、配給会社や製作委員会の恣意的な思惑がプロモーションに働くことは想像に難くない。
だが一方、そうした思惑とは別の次元で引き起こされた不測の事態によって、思わぬ局面を迎えた作品も中にはある。その典型例が、一昨年の東日本大震災によって、大幅な企画変更を余儀なくされた『聯合艦隊司令長官 山本五十六』【11】だ。D氏が続ける。
「東日本大震災は、事実上のお蔵入りになった『唐山大地震~想い続けた32年~』をはじめ、多数の作品の公開が中止や延期になり、映画業界にも深刻なダメージを与えましたが、11年そこそこのヒットを飛ばした『山本五十六』も、実はかなりの痛手を受けた作品なんです。
3・11の直前にすでにクランクインしていたこの作品は、当初、海上・航空の両自衛隊が全面協力をする予定でしたが、ご存じのように自衛隊の人員は大部分が救援活動に従事することになったため、予定されていた実物の戦艦などでの撮影は一転して不可能に。震災の影響で、大口のスポンサーも数社が撤退して、一度は企画そのものが頓挫しかけるほど状況は危機的なものだったようです。 そんな窮地を救ったのが、VFX監督を務めていた特撮研究所の佛田洋氏。彼が、同じ東映系の『男たちの大和 YAMATO』や『ローレライ』などの戦争映画を手がけていたおかげで、足りない素材をそこから抽出して流用。素人目には二次使用が判別できないほどのクオリティにまで仕上げることができたとか。
まぁ、東映としては『”大和”並みの大ヒット』を想定してスタートさせた企画だったわけですから、それを考えると大コケには違いないですけど、そんな裏技を駆使してまで映画を完成させたスタッフの熱意には正直、頭が下がりますよね」
大コケ映画の裏側には、監督のエゴに振り回されるスタッフの汗と涙や、ムチャぶりを職人技で見事切り抜けるなど、映画作品よりも感動的なエピソードがあるようだ。
(文/加納シズク)
【1】『苦役列車』
監督:山下敦弘/出演:森山未來ほか/発売:キングレコード(3990円)
西村賢太の芥川賞受賞作が原作。暗い過去を背負い、不遇な日常に怒れる青年の葛藤を描く。映像監督の大根仁がツイッターで前田敦子を絶賛するなど、作品評価は悪くない。(12年公開)
【2】『カムイ外伝』
監督:崔洋一/出演:松山ケンイチほか/発売:松竹(3990円)
主人公が非人部落の出身者であるなど、差別問題もテーマになっている。『血と骨』の崔監督らしい作品だが、主演の松山がケガをして、撮影が中断するなど不運もあり不発に終った。(09年公開)
【3】『恋するナポリタン ~世界で一番おいしい愛され方~』
監督:村谷嘉則/出演:相武紗季、塚本高史ほか/発売:Happinet(3990円)
自殺者の下敷きになり、イタリアンのシェフが死亡。一方、自殺者は一命を取り留めたが、彼にはシェフが乗り移っていた……という入れ替わりモノ。とにかくウケそうな要素を盛り込んだダケという評価も。なぜか茂木健一郎が出演している。(10年公開)
【4】『ウタヒメ 彼女たちのスモーク・オン・ザ・ウォーター』
監督:星田良子/出演:黒木瞳ほか/発売:ポニーキャニオン(4935円)
五十嵐貴久の小説『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』(双葉社)の映画化。暇を持て余した主婦たちがバンドを結成、コンサートに出る。南海キャンディーズしずちゃんや木村多江などクセのある女優が揃っているのも見どころ。(12年公開)
【5】『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』
監督:スティーヴン・スピルバーグ/出演:ダニエル・クレイグほか/発売:角川書店(1890円)
世界を飛び回る少年レポーター・タンタンが、17世紀に姿を消した船の模型を手に入れたことで騒動に巻き込まれる。ベルギーやフランスなど、ヨーロッパではわりとヒットした模様。(11年公開)
【6】『ホビット 思いがけない冒険』
監督:ピーター・ジャクソン/出演:マーティン・フリーマンほか/配給:ワーナー・ブラザーズ
架空の妖精であるホビット族の青年の冒険に出る物語で、大人気映画『ロード・オブ・ザ・リング』の前日譚となっている。(12年公開)
【7】『ライラの冒険 黄金の羅針盤』
監督:クリス・ワイツ/出演:ダニエル・クレイグ、ニコール・キッドマンほか/発売Happinet(1980円)
人々が守護精霊と生きるという世界で、子どもたちが次々と失踪する。少女ライラは持ち前の好奇心で捜索に乗り出す。世界的に興行不発で続編の製作も打ち切られた。(08年公開)
【8】『メリダとおそろしの森』
監督:マーク・アンドリューズほか/出演:ケリー・マクドナルド、(声)/発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン(3360円)
おてんば王女のメリダは、しつけに厳しい母に反発して出奔。彼女の考えを変えようと魔女に頼むが、なんと母は熊にされてしまった。母を元に戻すため、二人は森へ向かった。(12年公開)
【9】『ジョン・カーター』
監督:アンドリュー・スタントン/出演:テイラー・キッチュ、リン・コリンズほか/発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン(3990円)
『スター・ウォーズ』や『アバター』もここから着想を得たというSFの古典的名作「火星のプリンセス」の実写化映画。ディズニーが、110周年記念作と銘打って2億ドル以上を投じたが、不発に終わった。(12年公開)
【10】『バトルシップ』
監督:ピーター・バーグ/出演:リーアム・ニーソン、浅野忠信ほか/発売:ジェネオン・ユニバーサル(1500円)
14カ国合同の軍事演習中、突如海上に浮上した謎の戦艦が日米合同艦隊を襲う! 2億ドル以上の製作費に対し、アメリカでの興行収入は6500万ドルと苦戦。日本では14億円と、まずまずであった。(12年公開)
【11】『聯合艦隊司令長官 山本五十六』
監督:成島出/出演:役所広司、坂東三津五郎ほか/発売:バンダイビジュアル(3990円)
1939年、景気低迷に喘ぐ日本では戦争待望論が蔓延していた。海軍次官・山本五十六が、聯合艦隊司令長官として辞令を受けた翌年、三国同盟が締結し、日本は対米戦へと突入していく。(11年公開)
「この記事の著作権はサイゾー に帰属します。」
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