「胃」は何をする臓器? って聞かれたら、たいていの人がきっと「食べ物を消化するところ」って答えると思う。

 

もちろん、それで正解だ。

 

では、この質問はどうだろう。

 

「胃は、いつ働いてるの?」

 

これ、自然に考えるなら、「食べ物を消化するのが仕事なんだから、当然、食べたあとに働くんでしょ?」という答えを思いつくだろう。

 

この答えも、もちろん間違いではない、、、けれど、それだけでは、ちょっと足りない。

 

実は、一番大事な仕事が、抜け落ちている。

 

胃が最も活発に働くのは、実は「空腹時」。食事のあとよりも、お腹が空っぽのときに、一番働いているのだ。

 

そして、この空腹時のお仕事こそが、健康な胃腸を保つために、とても大切な役割を担っているのである。

 

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胃の収縮は電気生理的な現象なので、お腹に電極を貼り付けて電気シグナルを測れば、収縮の強さがわかるという。

 

それによると、胃は24時間休みなく、だいたい3分に1回ぐらいの周期で収縮している。

 

ちなみに心臓の収縮は、1分に60〜70回。それに比べたらはるかにスローペースだが、絶え間なくリズミックに収縮するという意味では、胃と心臓の働きぶりは、案外似ている。

 

もっとも、胃の動きは、普段はごく微弱。しかもこんなにスローペースなので、手を当てれば拍動を感じられる心臓と違って、胃の動きをリアルに感知することは難しい。

 

でも、実は心臓のように、休みなく脈動し続けているのだ。

 

そして、食事をして食べ物が入ってくると、収縮がグワッと強くなる。それによって内容物を粉砕し、消化・吸収を図るのだ。

 

砕かれた食べ物は、幽門という胃の出口を通って、順次、十二指腸→小腸へと流れていく。

 

食べたものが全部流れ出るのにかかる時間は、だいたい3〜5時間(食事の量や中身によって大きく違う)。その間、胃は強い収縮を継続する。そして胃がカラになれば、胃の収縮はいったんおさまる。。というのが、食事に伴う胃の収縮の概要である。

 

 

さて、、、本題はここからだ。

 

胃がカラになってからさらに70〜80分後。

 

微弱だった胃の収縮が、おもむろに、再び強まり始める。

 

空っぽなのに、強烈な収縮が始まるのだ。

 

収縮はぐんぐん強さを増し、やがて、消化のための食後の収縮を上回る、強い収縮活動が現れる。

 

そんな強烈な収縮が、通常、5〜10分ほど続く。収縮の波は胃の区間を超え、腸管全域にまで及ぶという。

 

これが、「空腹期強収縮」と呼ばれる現象だ。

 

いったい、何をしているのか。

 

これは、消化管の大掃除作用だという。

 

強く収縮することで、粘膜にこびりついた食物の残渣や、古くなった粘膜のカスを削ぎ落とし、便として体の外へ排出するのだ。

 

それで粘膜や組織の新陳代謝を促し、胃腸の健康を守っている、と考えられる。

 

胃が空っぽのとき、カラダはそんなことをやっているのである。

 

「空腹期強収縮」は、空腹状態が続けば、その後も90分に一度ぐらいの周期で現れる。

 

このとき、消化管の中でよくガスが動いて、お腹がぐーっと鳴る。あの音を恥ずかしいと感じる人もいるようだが、あれは胃腸が一生懸命に掃除をしている証し。あなたの健康を守るための働き、なのだ。

 

もしグーっと鳴る音に気づいたら、できれば、「頑張ってるね、ありがとう」と声をかけてあげてほしい。

 

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さて、1日の中で、「空腹期強収縮」が起きるのは、いつか?

 

日中は、食事の間の時間が短い。収縮は、食間にせいぜい1、2回。インタバルが短ければ一度も起きないかもしれない。

 

一方、睡眠中はものを食べないので、空腹状態が長く続く。一晩の睡眠中、4〜6回ぐらいは起きると考えられる。

 

つまり、一般に空腹期強収縮は、夜間によく起きる現象なのだ。眠っている間のカラダメンテナンスの一環と理解して、ほぼ差し支えないだろう。

 

ところが、、、である。

 

もしあなたが、夜、床に着く直前までものを食べていて、胃に食べ物が詰まった状態で眠ったとする。

 

睡眠中は、通常の消化作用があまり進まない。だから、胃の中は朝まで食べ物が詰まったままになる。

 

そうなると、睡眠中に「空腹期強収縮」が全く起きないまま、朝になってしまうのだ。

 

すると、どうなるか。

 

これは、多くの人が実際に経験していると思う。飲み会などで深夜まで飲み食いをしてそのまま寝ると、翌朝、カラダがズシーンと重くて、お腹がムカムカして、食欲が全くない、そんな状態だ。

 

大抵の人はそれをアルコールの作用、つまり「二日酔い」と考えているが(まあそういう側面も多分にあるだろうが)、それだけではなく、あの不快な胃もたれ感には、就寝中の「空腹期強収縮」ができなかったことも、かなり加担しているのである。

 

夜間の胃腸の大掃除を実現するためには、寝るときに「胃の中が空っぽ」になっていることが、不可欠なのだ。

 

よく、ダイエットのコツとして「寝る前3時間は、ものを食べない」なんて言われる。

 

これは実は、痩せるコツ、にとどまらない。睡眠時の空腹期強収縮を誘導して元気な胃腸を保つための極意なのである。

 

寝るときは、胃を空っぽに。

 

 

、、、ただ、まあ、そうはいっても、いろいろ付き合いもあるし、どうしても遅くまで飲み食いすることもある。

 

そんなときはどうするか。

 

答えは単純。

 

翌朝、お腹が空くまで、何も食べないこと。

 

朝ごはん、なんなら昼ごはんもパスすることになるかもしれない。でも、前日たっぷり食べてるし、そもそも人間は、(健康な大人であれば)半日〜1日ぐらい食事を抜いて、栄養失調になることはない。
 

消化作用が進んで胃が空になり、そのあと空腹期強収縮が起きて胃腸の大掃除が進む。そのあたりまで行けば、自然に食欲も湧いてくるだろう。

 

「お腹が空いた」と感じてから、食べる。

 

お腹が空くまでは、食べない。

 

これが、胃腸の大掃除作用を最大限に活用するためのポイントだ。

 

ぜひ、心がけてみよう。