もう25年ぐらい前の事です。
私は音楽雑誌ショパンに記事を毎月書いてい
て、当時のショパンの編集者の皆さんが、長野
の私が経営していた小さなホテルに、よく遊び
に来てくれました。
そのおかげでいろいろな音楽家の事、
普通の人は知らないような裏話、CD会社が
出す見本品のCDのおすそ分け、などを
いただけました。
その中でプロ意識として、お聞きできた
興味深い事があります。
それはピアニスト中村紘子さんのお話です。
2016年にお亡くなりになり、本当に残念でした。
さて随分前、中村さんは赤いドレスで
幻想即興曲を演奏するという、ネスカフェの
CMに出演されました。
これはたぶん、それまでのクラシック界は
あり得ない事で、音楽家がテレビのCMに
出るなんて、と言う時代のかわきりでした。
そんな中村さんを当時の雑誌ショパンの
スタッフは、「すごい人」と褒めたたえました。
ピアノがお上手なのはもちろんですが、
中村さんはそれまでの音楽家がやって
いないような事を、どんどんされたのです。
例えば写真を撮る時は、女優さんを撮る
カメラマンを使ったり、そのポーズや
どちら側から写真を撮ると、自分がきれい
に見えるかにこだわられたり、舞台では
自分がなるべく大きく見えるように、ドレス
の後ろのすそを長めにするなど、
「自分を演出する」と言う点を、非常に
大切にされたのです。
それまでの演奏家は、「演奏が良ければ
見栄えにこだわるのはナンセンス」という
人がほとんどだったと思います。
その点中村さんは、お母様が画廊をされて
いた(と思います)ので、美的感覚、見た目
の感覚がすぐれていたのだと思います。
きっと美術的センスがおありだったんですね。
演奏会に行くお客の立場でも、演奏が
良いのはもちろんですが、見た目がきれい、
清潔感や品がある方が良いですね。
これは科学者や医者、音楽家などの
専門家にありがちな、専門的な事は
ずば抜けてできるけれど、それ以外は
だめという、社会性、ファッション性が
なかった時代に、求められていたこと
かもしれません。
ショパンのスタッフは、
「だから中村さんはすごい人気なんだ」
とよく話されていました。
今だからきれいな女医さんがいたり、
かっこいい科学者がいたりしますが、
やはり「見た目」も大切で、これは
社会性が高いか、プロ意識が長けて
いるか、に尽きることだと思います。
プロ意識、いろいろな意味で必要
な意識ですね。