サっちゃんは会うと必ず、私に手を差し伸べてくれそして、私とハグしてくれる。
ダウン症で、言葉がはっきり言えないのだけれど、その眼の輝き、柔らかなまなざし、そしてギュッと抱きしめた時のほんわかした温かさ。ああ、こんなにも気持ちの良いことなのだ、
とホントに、サっちゃんと出会うまで気が付かなかった。
私は子育ての時に子供を抱いていたので、その感覚はあるはずだけれど、もう、はるか忘却のかなたに行ってしまっていた。サっちゃんが思い出させてくれたその感覚が心地よくて、町でサっちゃんを見かけたり、おうちに行って会ったりするたび、ハグしている。
私も子供たちをしっかり抱きしめて育てただろうかと、この年になってグッと胸に来たが、まあ、おかげ様でそれぞれ、まともな生活をしている。
ともかく、今そんなことを反省してもしかたがないのだが、サっちゃんとのハグは私に新鮮な感覚を呼び起こしてくれたとともに、言い知れない懐かしさを与えてくれた。
私は幼いころ、父に抱いてもらった覚えがない。父が、一度だけ、私をあぐらの膝の中にすっぽりと入れてくれたことが、おぼろげに思い出される。あの時、父は幸せだっただろうか。
若いころの私は、プライドが高くて生活能力のない父を恨んでばかりいたのだった。
父が、老残をさらしたくないと自らの命を絶ってしまったのだが、もう何年になるだろうか。
そんなことを長い間忘れていたが、サっちゃんとのハグは、父も母も、サっちゃんの中にいるのだと、感じさせてくれる、小さなサっちゃんの、大きな贈り物なのだ。
ありがとう、サっちゃん。