「告白」 町田康作 中公文庫
なぜか、この作品に出会ってしまった。町田康の作品は「くっすん大黒」というやつを読んだことがあったが、その時は面白いがくだらない作品だぐらいにしか考えていなかった。
この小説は凄い。作品自体の完成度がどうのというよりも、個人的に魂を揺さぶられる作品だった。
読むのがつらくなった。それほどまでに感情移入した作品は久ぶりだ。
800ページ以上ある分厚い長編なんだが、一晩で読み遂げた。
最後のところで、まさに胸が痛く、思わず泣けてくるような作品だった。
題材は明治初期の河内地方に実際起こった「河内十人切り」という、現代でも河内音頭のスタンダートナンバーにもある、無頼者の「熊太郎」の話である。
世間に同化できずに、知らず知らずに道を踏み外し、さんざんな目に遭いながら、最後は凶悪犯にならざるをえない自己を持て余した愚か者の話だ。
主人公、熊太郎は幼少から追いつめられる、彼が殺害したエグイ連中、強欲婆とかもけっして極悪人ではない、むしろ憎めない欲望人である。
何が、彼を追い詰めたのか。これは悪意ある世間の人々、ごく普通の市井の連中である。
この作品を読んだ時、日本のもっとも暗いネガティブな部分を感じてしまった。そして私が学生の時代から、それこそ何度も読み返した作品、まさに名作の域を有する高橋和巳の「邪宗門」を想起したものだ。
邪宗門で描かれる世界観は、この河内の告白の熊太郎とは異なるが、その根の部分は同一のような気がする。
そして、私は再び、「邪宗門」を読み返している。
そして、曲を聴く。
川島英五の名曲、「酒と泪と男と女」か。