「マシアス・ギリの失脚」 池澤夏樹作 新潮文庫
この作品を再び読み返している。以前にもブログで紹介したこともあるかもしれないが、私が好きな世界を持つ作品だ。ゆえに再読しているわけだけれど。
「朝から話をはじめよう」から始まる、この物語には独特の色彩と匂いがある。「真夏の朝の成層圏」とともに、彼の描く世界が映像のように感覚的に受け止められる作品だ。
それにしても、この作家の作品については、素晴らしいものとダメなのものとの差が大きい。
これは大江健三郎などにも言えることだが、作品の良し悪しとかの問題ではなく、自分の感性にフィットするかしないかの問題なのだろう。
そして傑作と駄作(これは読み手である私にとってだろうが)の落差が激しい作家は案外と多いような気もする。
まずは、桐野夏生。
「グロテスク」「OUT」「柔らかな頬」といった素晴らしい作品と同時に、「メタボラ」「魂萌え!」「東京島」など読むに堪えない変な作品である。さらにはタイトルなども忘れてしまったようなダメな作品もある。
そして宮部みゆき。
初期の作品である「レベル7」、「理由」「火車」、そして長編の「模倣犯」、どれも素晴らしい。だが、彼女の書く多くの作品は、ダメなやつが多い。最近では「ソロモンの偽証」もダメだ。期待が大きい分、失望感も大きい。
まぁ、三島由紀夫など、どれも期待以上の一定のレベルの作品を生み出す天才という者は稀なのであろう。