雨の一日、上野の国立近代博物館に「マチュピチュ展」を見に行った。マチュピチュとは南米大陸にかつて栄えたインカ帝国の遺した、標高数千メートルに位置する、幻の空中都市の遺跡である。マチュピチュは現在でも遺跡としてペルーの国に現存している。

 数多くの展示品にも興味深いものがあったが、なんといっても3Dを駆使したマチュピチュの映像(15分程度)には感動を覚えた。映像技術のすごさというよりも、体験する臨場感に圧倒された。音や光だけでなく、風や匂い、温度まで感じられるほどだ。


 インカ帝国は高度な文明を築きながら、やがてスペインからの征服者によって滅亡する。この帝国に存在しなかった文明のひとつに、鉄器がある。そして車輪も存在しなかったと言われる。

 車輪とは不思議な文明だ。多くの文明は動植物など自然界にあるもを模倣して誕生するが、自然界には車輪に相当する物を有するいかなる動物もいない。

 それはなぜか、車輪が有効に機能するための平坦な道(舗装された道路)というものが、自然界には存在しないからだ。人間が建設する道があってはじめて、車輪は存在価値を与えられるのである。

 「すべての道はローマに通じる」ではないが、道というものは人類文明の基礎なのかもしれない。