前回のリセット3を読んだ人から、「白紙状態とか、本私的な物の見方とか、脈絡がなくて言いたいことがよくわからない」という感想をいただいたので、もう少し解りやすく例などをあげながら書いていきたいと思う。


 リセットすることに心理的な抵抗を感じる最大の原因は、今ある現状にとらわれすぎることにある。誰でも、現在の状況が良くも悪くも、愛着を持つものである。親しみといってもいいし、安心感といってもいい。だからすべてを白紙にしてリセット状態で考えることは、多くの困難を伴うものだ。習慣だけでなく、生きる現状についても、人は愛着を持つことは、紛れもない事実なのだ。


 ここで、一つの例をあげて考えてみよう。政治的な判断とは別だが、ここに1人のトレーダーがいるとする。名前は「嶋ちゃん」ということにしよう。嶋ちゃんはある株式を購入しようとしている。少し前は価格が下落して80万円まで下値があり、現在は100万円の値段である。そして嶋ちゃんはなんとか、この株式を買いたいと思っている。たしかにテクニカル的には底値をつけて、値段が上昇する気配がある。しかし欲の深い嶋ちゃんはもう少し安い値段で購入したいと思っている。ただこのまま株価が上昇して、現在より高い値段で購入するはめになるのは嫌だとも思っている。さて、どうしたものか。


のづ;「嶋ちゃん、なんで今、買わないの?」

嶋ちゃん;「80万で買えばよかったんだけど、いま100万円でしょう。もう少し安く、たとえば90万なら買いたいな」

のづ;「それじゃあ、90万まで、あと10万円下がったら、買うの?」

嶋ちゃん;「そうなったら、買いたいな」

のづ;「じゃあ、逆に値段が上がって110万円になったら、どうする?」

嶋ちゃん:「それなら、この上昇トレンドはテクニカル的に本物だし、さらに値段が上がるから、急いで買うよ」

のづ;「それじゃあ、値段がこの先、下がっても上がっても、結局買うことになるのでは」

嶋ちゃん:「そうかもしれない」

のづ;「それならば、いま現在、買えばいいことじゃないか」

嶋ちゃん;「そうかもしれない」


 まさに、正解は現在の100万円の値段で買うことだろう。だけど、人はそれがなかなかできない。心理的な壁が邪魔するのだ。だから、ここは嶋ちゃんの気持ち、(結局は欲ボケした心理状態であるが)、手持ち資金の半分で100万円の値段で購入して、下がったら、または上がったら、残りの半分の資金で株式購入するのが良いのだろう。値段は下がった場合、半分は現在より安い値段で購入できたという納得感が残るし、値段が上がった場合、とりあえず100万円で購入した分は利益が発生しているわけで、まあ、めでたし、めでたし。


 リセット、まさに政治や社会システムのリセットにしても同じだろう。日本の国が破局を迎えれば、好むと好まざるとにかかわらず、リセット状態になるわけだし。案外、奇跡的に幸運に恵まれてうまく新しい発展を遂げれば、それはそれで、その奇跡的な幸運が新たにもたらした、新しい枠組みの中で考えなくてはいけないのだし。

 一番よろしくないのは、あくまでも現状維持を望んで、問題の先送り、思考停止の状態に陥ることだろう。しかし劇的な変化が予想されていても、多くの者たちは現状維持を望むものだ。なぜなら、愛着があるから。


 若いころの猪瀬直樹氏の著書に「昭和16年夏の敗戦」という名著がある。暇な人は、ぜひ一読をお薦めします。戦前の若きエリートたちは、日米開戦の前から日本の敗北、そして終戦後についてシュミレーションを立てていたという話だ。もちろん実話に即したものだ。

 リセット状態を考えるのなら、いま平成24年が終戦の焼け野原状態と創造すればいい。もし、現在がその状態、まぎれもない白紙状態なら、私たちは何を考え、どうのような行動をするのだろうか。ここからスタートしなければならない。極端だけれど。幸いなことに、近い将来にどのような政治的、経済的、文化的な崩壊を迎えたとしても、すくなくとも終戦直後の状況よりはましなはずだ。