ピンクリボンシンポジウム2017の講演レポート、2回目は高野利美先生(虎ノ門病院臨床腫瘍科部長)の「がんとともに、自分らしく生きる」を支える医療です。
高野先生の3つの目標
1.腫瘍内科を日本中に広める。
2.世界をリードする臨床研究を行う。
3.HBM(人間に基づく医療)を実践する。-全ては患者さんの幸せのために。
腫瘍内科って何?
「がん」を診るのは何科?
乳がん→乳腺外科
それぞれのがん種→ぞれぞれの専門外科や内科
原発不明がんや希少がんは何科?
日本では、今まで主に外科医が薬物療法を含むがん治療全般を担って来た。薬物療法が進歩する中で腫瘍内科の必要性がいわれるようになってきた。
手術は外科、放射線治療は放射線科、薬物療法を担うのが腫瘍内科と、それぞれの診療科と腫瘍内科が連携していくことが必要である。(腫瘍内科は原発不明がんや希少がんも治療する)
☆腫瘍内科の役割
1.がんに対する薬物療法
腫瘍内科医の本来的な役割。専門家としての知識と患者さんの価値観に基づいて最適な薬物療法を選択し安全かつ確実に実施する。
2.がん患者さんの全身管理
3.緩和ケア
がんに伴う症状を緩和したり、治療に伴う副作用を軽減したりすることで、患者さんが自分らしく生きるのを支える。
4.がん医療のコーディネート
患者さんにとっての道案内役になり、各診療科の医師や看護師、薬剤師などがん医療の専門家たちが集まるチーム医療の「舵取り役」をする。
薬漬けにしたがる内科医。切りたがる外科医。当てたがる放射線科医など縄張り争いをしていることも。真の専門家が最適な治療のために役割分担しなければいけない。
5.臨床研究
腫瘍内科医は、がん薬物療法に関する臨床研究の中心的な役割を担っている。
この10年での社会の動きが腫瘍内科に追い風となっている。
2007年にがん対策基本法が施行され全国で「がん診療連携拠点病院」の整備が進められるなど国をあげてがん対策への取り組みがなされる中で腫瘍内科医の必要性が認知されてきた。
(がん薬物療法専門医数の推移)
2005年 47人→2016年 1138人→現在 1233人
腫瘍内科医全体の60%が30代(若手に医師が多い)
また腫瘍内科医の地域偏在もある。
東京都が192人に対し沖縄県では2人しかいない。また400施設のうち、38%の施設ががん薬物療法専門医が0である。
腫瘍内科医の必要性が認知されてきたにも関わらず、まだまだ少ない状況。真の腫瘍内科医を広めなけらばいけない。専門医の育成を競い合う時代へ。
臨床研究の未来
クレオパトラ試験:世界で800人が参加した。
抗がん剤+ハーセプチン+パージェタ群と抗がん剤+ハーセプチン群を無作為に分けたランダム化比較試験を行った。その結果、生存期間中央値が40.8ヶ月から50.5ヶ月に延長した。(抗がん剤のみだと20.3ヶ月)
このように臨床研究が非常に重要である。
☆臨床研究にご協力ください。
診療の安全性の有効性を調べるのが臨床研究。臨床研究の結果がエビデンス(科学的根拠)になる。最新エビデンスに基づく最先端の治療が標準治療である。標準治療が確立しているのは臨床研究のおかげである。
日本の臨床研究グループ…WJOG JCOG JBCRGなど
臨床研究の文化を作り、よりよい治療を開発しよう!
抗がん剤論争を越えて
例)診察室にて。患者は針生検にて浸潤性乳管がん・トリプルネガティブタイプと診断され手術前に抗がん剤治療を主治医から勧められる。
患者:「がんだったの?!どうしてすぐに手術しないで抗がん剤治療をしなければならないの?先生の言っていることもよく分からないわ…」
☆迷える患者さん
インターネットで検索→膨大な情報。中には気を引く情報もあって情報の波である。一方で担当医の説明は良く分からない。任せてよいのか?あの医師でよいのか?
本やインターネットには○○療法が良いと書いてある。
☆メディア(情報の送り手)の考え方
重視されるのは分かりやすい・センセーショナリズム(感情を煽る)・白黒ハッキリ(善悪二元論)。視聴率や売上げが重視されることも少なくない。
☆抗がん剤論争
抗がん剤は効く…勝俣範之先生 上野直人先生
抗がん剤は効かない…近藤誠先生
不毛な議論が続いている。
抗がん剤否定の3つの問題点
①抗がん剤否定原理主義:思考が停止している。
②エビデンスの偽装:エビデンスも生存曲線も都合よく改変している。
それでももてはやす「メディア」
③がん患者放置療法:「がん」を放置するとしても患者や患者を苦しめている症状を放置することはあってはならない。
※一般論で効く・効かないを議論しても意味がない。
抗がん剤は道具のひとつ。治療目標にプラスになるなら使う。マイナスになるなら使わない。やろうがやるまいが、患者さんの幸せになるならそれでよいのではないか。
☆情報の波に乗る
根拠を見極める。(信頼できるエビデンスかどうか)
情報そのものの意図を見抜く。
強い言葉を使っている情報は疑う。(100%~、絶対に~、奇跡的に~)
自分の価値観で良く考え、医療者と語り合う。
がんとともに自分らしく生きる
抗がん剤を使うということ
使える抗がん剤があるなら使えばよい。使える抗がん剤は多ければ多い方がよい。これは全て「抗がん剤中心」で考えている。
抗がん剤をやりたい→なぜ?何のために?
抗がん剤が希望の全て。抗がん剤が使えない→絶望
がんを巡るイメージとして
抗がん剤治療…希望 緩和ケア…絶望
辛い治療が「希望」になっている。
誤ったイメージで治療自体が目的化している。「治療のための治療」になっている。
まずあるべきは「治療目標」
抗がん剤は道具のひとつである。がんと上手く付き合うことが大切である。
がん難民
「あなたにはまだ使える薬がある。」
使える薬があるうちはまだ希望があり、使える薬が無くなったら絶望なのか?
この単純な発想が「がん難民」を生んでいる。抗がん剤治療(希望)と緩和ケア(絶望)の間に「絶望の壁」というイメージがある。
治療が増えるとがん難民が増える。
希望・安心・幸せを医療が提供できないことが問題。
溺れる者…がん難民
藁(わら)…みせかけの希望(助けにならない)
がん患者は荒波の中にいても、決して溺れているわけではない。
自分のペースで泳げばよい。辛い時は波を避けて休めば良い。それをサポートするのが医療の役割である。そしてそれは緩和ケアである。
緩和ケアとは?
いつでもそこにある希望の医療である。緩和ケアは医療そのもの。緩和ケアこそ医療の中心でがんと上手く付き合うのに必要。緩和ケアは治療が始まった時から(手術や薬物療法、放射線治療など)そばにある。緩和ケアは絶望の医療などではなく、必要な時にすぐに手を差し伸べてくれる希望の医療である。
もっとよい薬があるはず…
医学が進歩したゆえの「不全感」
アメリカだったら。10年後だったら。
解決策:①アメリカに移住する ②タイムスリップする
※今、ここで受けられる医療を最大限活用しながら自分らしく生きることが大切である。
-キセキ-
奇跡に期待…ある意味自然なこと。
でも奇跡は滅多に起きない。奇跡が無ければ絶望というわけではない。思い詰めないことが重要。
奇跡は起きて欲しいけれど、起きなくても大丈夫!
今ここにある医療だってキセキ。
今ある医療の恩恵を最大限受けよう。多くの人に支えられて今があるのもキセキ。
人生において小さな幸せや小さな出会いを積み重ねてきた軌跡こそ奇跡!
治療は病気への向き合い方の一部。
病気は人生の一部。
治療方針を決めるものは生き方や価値観。
HBM(ヒューマン・ベースド・メディシン)の実践
患者さん一人ひとりが直面する問題点から出発し、エビデンス(科学的根拠)とともに患者さんの価値観も考慮して、患者さんの利益が最大となるような判断・治療を実践していく。
(感想)
高野先生の講演は何度か聴講していて、先生の書かれた書籍も読んでおり内容はほぼ同じでした
患者一人ひとりの生き方や価値観に合わせた医療を全国どこの医療機関でも同じように受けられたらどんなに良いだろう…と思うけれど、実際の臨床の現場で治療されている先生方の考え方に大きな差があることも日々感じるので
私たち患者へ伝えるのも大切だけど、医療者へも『患者主体の医療』ができるよう教育して欲しいなぁとも思います
特にコミュニケーション力を(笑)