初版:2020-07-23 13:38:01

完全な自己責任です。当方は一切の責任を負いかねます。
GID学会認定医の主治医の先生にWEB原稿をご確認いただきました。

 

2019年当時のことであることにご注意ください。
記録として意味があると考えています:私が選んだ抗男性ホルモン剤の自分の体への投与結果が第一です[5節]が、そこまでの経緯、思考過程も含めて。


上付きアルファベットが、出典・レファレンス#です。
出典・レファレンスを、基本、各節末に移動しました。
●が2022年10月の主要改訂箇所です(主に6節)。
リンク先の翻訳には、Chrome 画面中、右クリックで「日本語に翻訳」を選択。

 

目次

1.経緯
2.抗男性ホルモン剤の比較
3.抗男性ホルモン剤の副作用情報の深堀
4.リュープロレリン(リュープリン)GnRHa
5.自分の体へのリュープロレリン適用結果
6.初版後の主な追加情報

 

1.経緯
SRSをしたMTFの知人が自殺されたとMTF先輩から電話があり、
その際に話した下記の話を、MTF先輩が公開を希望されたので、ブログに上げますが、副作用のレファレンスHをご確認の上、自己責任でよろしくお願いします。
 
AKEMIさんのブログに、睾丸摘出後、死んでしまいたいほどの酷い鬱(10年)や過活動膀胱による頻尿で苦しまれたことが、書かれています。E
AKEMIさんは、LOH症候群(加齢に伴いテストステロン値(男性ホルモン)が低下→鬱などP参照)との診断で男性ホルモンを補充する生活になって過活動膀胱が直ったとのことです(さらに鬱については、鬱用の治療もされています)。E
 
長年男性ホルモン漬けにされた中高年MTFにとっては、SRSや睾丸摘出は、男性ホルモン値の変化が急激過ぎるのかもしれません(図1)。

 

男性ホルモンの補充は嫌なので、この状況を避けたく、抗男性ホルモン剤を使って徐々に男性ホルモン値を下げたいと私は思いました。
(エストラジオール(女性ホルモン)単独でも「70%以上」の人が男性ホルモン値抑制を達成したという論文もありますが、長い時間がかかっていました。D

H)    下記3節のレファレンスH参照

E)    AKEMIさんの精巣摘出後のブログの
SRSまでの道21(うつ病地獄の十年) と SRSまでの道20(思わぬ伏兵は過活動膀胱)

P)    例えば、LOH症候群(加齢性腺機能低下症) _ 順天堂大学・順天堂医院泌尿器科参照

D)    経口エストラジオールによるトランスジェンダー女性のホルモン治療 [Hormonal Treatment of Transgender Women with Oral Estradiol]
出典元:Leinung MC, Feustel PJ, Joseph J. Hormonal Treatment of Transgender Women with Oral Estradiol. Transgend Health. 2018;3(1):74-81. doi: 10.1089/trgh.2017.0035.
© Matthew C. Leinung et al. 2018; Published by Mary Ann Liebert, Inc.
This Open Access article is distributed under the terms of the Creative Commons License (http://creativecommons.org/licenses/by/4.0), which permits unrestricted use, distribution, and reproduction in any medium, provided the original work is properly cited.

 

2.抗男性ホルモン剤の比較
抗男性ホルモン剤として、MTF先輩は、アンドロクール(酢酸シプロテロン)で肝臓値が悪くなり高血圧になり酷かったと言っていました。

(これよりましですが、)スピロノラクトンには声が低くなるという副作用があるという話を聞いたことがあります。例えば、サイトL参照。

「英国では、GnRH アゴニスト」(GnRHa:ゴナドトロピンホルモン放出ホルモン作動薬)が、トランス女性に「国民保健サービス (NHS) によって十分に提供されています」Iが、上記2つの抗男性ホルモン剤に対して比較的副作用が少ないようです。

例えば、抗男性ホルモン剤の比較総説F

Table 2 の下半分Anti-androgensをご覧ください。

Chrome画面で右クリックすれば「日本語に翻訳」できます。 

 

I)   トランスジェンダー成人の内分泌管理:臨床的アプローチ [Endocrine Management of Transgender Adults: A Clinical Approach]  NHSの前後をご覧ください。
出典元:Iuliano S, Izzo G, Zagari MC, Vergine M, Brunetti FS, Brunetti A, Di Luigi L, Aversa A. Endocrine Management of Transgender Adults: A Clinical Approach. Sexes. 2021; 2(1):104-118. https://doi.org/10.3390/sexes2010009
© 2021 by the authors. Licensee MDPI, Basel, Switzerland. This article is an open access article distributed under the terms and conditions of the Creative Commons Attribution (CC BY) license (http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/).

L)    例えば、スピロノラクトン:アルダクトンA (interq.or.jp) の副作用欄参照

F)  トランスジェンダーの女性に対するエストロゲンと抗アンドロゲン療法 [Oestrogen and anti-androgen therapy for transgender women.] Tangpricha V, den Heijer M. Lancet Diabetes Endocrinol. 2017;5(4):291-300. doi: 10.1016/S2213-8587(16)30319-9.

 

3.抗男性ホルモン剤の副作用情報の深堀
より多くの副作用情報が欲しかったので、アメリカで最もよく知られ、広く使用されているGnRHaの製品名ルプロン(Lupron)Jの副作用を深堀しました。
★[重要] Lupronには長期的副作用が(骨減少、心血管症状、痛みなど)様々あるという研究結果のサイトHを見つけました。このサイトHで副作用をご確認ください。

この研究結果のまとめとして、Lupronによる副作用は、(エステラジオール合成抑制/枯渇→)ミトコンドリア合成損傷が共通経路の可能性と指摘されていますJ。カッコ内の確認を求めましたが、返答は得られませんでした。
 
しかし、ロイプロリド(Lupron相同品:GnRHa)とエステラジオール(女性ホルモン)を併用した論文Gを見ると、様々な検査をしたにもかかわらず、観察された副作用はごく限られていました。
直ぐ上のWEBデータHがLupron(ロイプロリド相同品:GnRHa)単独での結果なのに対して、後者Gはエステラジオール(女性ホルモン)を併用している点が異なるので、MTFではエステラジオール併用により、長期的副作用が抑えられたのかもしれないと私は考えました(図2)。

併用論文Gは2016年のものですが、その後患者さんがどうなったのかと思い、同論文のイタリアの第一著者に、「今でもMTFにロイプロリドを推奨しますか?」とメールでお尋ねしたところ、「私たちの経験とガイドライン*に従って、ロイプロリド+エストロゲンを推奨します。」との返事をいただきました(2019年9月19日、

*ガイドラインは文献Pのこと)。
 
以上をもって主治医のホルモン医の先生に相談しました。
同論文の男性ホルモン値の減少をグラフ化し外挿すると、5か月かかると想定されたので、SRS予約に間に合わせるため、直ぐ実施していただき、次項の結果が得られました。

 

J)     ルプロン、エストラジオールおよびミトコンドリア:副作用への経路-ホルモン問題 [Lupron, Estradiol and the Mitochondria: A Pathway to Adverse Reactions- Hormones Matter.] Marrs C (2015)  
タイトル自身がルプロン、エストラジオールおよびミトコンドリア:副作用への経路となっています、重要な原文:
“One has to wonder if there might be a final common pathway by which the elimination of estradiol could disrupt multiple physiological systems in a predictably discriminate manner. Indeed, there might be.
Estradiol Regulates Mitochondrial Function: Mitochondria Regulate Everything Else…および
The mitochondrial damage represents a possible final common pathway by which Lupron induces the myriad of side-effects and adverse reactions associated with this drug.“

H)   ルプロン副作用調査結果パート1:範囲と重大度-ホルモン問題[Lupron Side Effects Survey Results Part One_ Scope and Severity- Hormones Matter.] Marrs C (2017) 

G)   トランスの女性における経皮エストラジオールと組み合わせた酢酸シプロテロンと酢酸ロイプロリド:安全性と有効性の比較 [Cyproterone acetate vs leuprolide acetate in combination with transdermal oestradiol in transwomen: a comparison of safety and effectiveness.] Gava G, Cerpolini S, Martelli V, Battistat G, Seracchiolit R, Meriggiola MC Clin Endocrinol (Oxf) 2016;85(2):239-46. doi: 10.1111/cen.13050. 
結果のCholesterol [コレステロール] とLH Level [黄体形成ホルモン レベル]をご覧ください。

P)   性転換者の内分泌治療:内分泌学会臨床診療ガイドライン [Endocrine Treatment of Transsexual Persons:An Endocrine Society Clinical Practice Guideline]

 

4.リュープロレリン(リュープリン)GnRHa
ロイプロリドは日本ではリュープロレリンまたは製品名リュープリンとして知られていて、Lupronは相同品でいずれもGnRHaです。リュープロレリン自身は、二次性徴抑制ホルモン剤として ご存知の方もいらっしゃると思いますが、
女性ホルモンを併用するという点が重要です:この使い方は、不可逆な点にご注意ください:男性には戻れません。
 
リュープロレリン添付文書に基づくと、

日本では、中枢性思春期早発症、女性の子宮内膜症などには使われていますがA参照、成人MTFへの適用データは見いだせませんでした。

A) ●リュープロレリン酢酸塩注射用キット3.75mgの添付文書(サイト内左下の「PDFファイル」)参照


5.自分の体へのリュープロレリン適用結果
リュープロレリンの副作用の少なさと有効性が、若くない自分の体に対して確認されたので、ここに記録します。参考になればと思います。
 
有効性(図3中)
私は、たった1回の注射でテストステロン(男性ホルモン値)が徐々に下がり、4週間後、女性標準値上限以下になりました。
さらに2週後その値は下がり、さらにその5週後もほぼそのままの値でした。 


   * 穏やかな「かかと落とし」:

動画https://youtu.be/-Hq1ARwVqFM?t=118 を参照

図と説明https://ddnavi.com/review/560867/a/2/ を参照

どうして骨密度改善に有効なのかついてはhttps://youtu.be/gZAIz8sdORY?t=254 を参照         
 
副作用
私には副作用は火照りのみでした。

骨密度(図3下)、健康診断、各種血液検査で、他の副作用は観察・検出されませんでした(下記検査項目は標準範囲内でした):血圧、尿糖、尿蛋白、尿潜血、血糖値、hbA1c、アルブミン、AST、ALT、γ-GT、クレアチニン、eGFP、尿酸、総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、LDLコレステロール、Non-HDLコレステロール、血色素量、赤血球数、ヘマトクリット、白血球数、血小板数、胸部X線、心電図、電解質( Na , K、CI ) Na、K、Cl、凝固機能( PT、APTT、PTINR)、打聴診、視診、口腔内視診、触診などの診察、身長、体重、BMI、胸囲を測定。
 
リュープロレリンの米国相同品Lupronの火照り対策薬剤B参照

ノルエチンドロンは敬遠して(酢酸ノルエチンドロンでFDAに文書があるAgestinに「視神経炎(視力の部分的または完全な喪失につながる可能性があります)」Cとあったため)、使用しませんでしたが、十分耐えられました。
 
★エステラジオール(女性ホルモン)注射のみでも、男性ホルモン値は下がり始めていたので、抗男性ホルモン剤を使わなくても下がったのかもしれません。

女性ホルモンのみで時間をかけて男性ホルモン値を下げる方がより安全です。
ただし、より時間がかかったと想定されます。
 
リュープロレリンは高価です。私は、より安価な後発品(あすか製薬)を使用しましたが(ニプロも同価格)、それでも主治医のクリニックで3万円+消費税かかりました(2019年当時の1回当たりの料金、私は1回で目標達成)。(子宮内膜症の場合ではありますが、)6カ月を超える投与は原則として行わないこと。A参照 

 

A)    ●リュープロレリン酢酸塩注射用キット3.75mgの添付文書(サイト内左下の「PDFファイル」)参照

B)    ●リュープロレリン薬LUPRON DEPOT 11.25 mgのFDAのHighlights of Prescribing Information [処方情報のハイライト] のTable 5参照。PDFのため日本語で確認しにくいという方はRxListサイトのLupron Depot (Leuprolide Acetate for Depot Suspension)を参照。

C)    ●酢酸ノルエチンドロン薬AYGESTIN® (norethindrone acetate tablets, USP)のFDA情報を参照。PDFのため日本語で確認しにくいという方はRxListサイトのAygestin (Norethindrone Acetate)を参照。

 

6.初版後の主な追加情報
6-1:リュープロレリンは二次性徴抑制剤として思春期のGIDへ単剤使用されているものです。
上記副作用リンクHを添えて、GID学会でホルモン療法にお詳しい先生に伺ったところ、
「LeuprorelinなどのGnRHaの長期使用による副作用は,調べられたように知られています.このため,長期間にならないように,診断が確定され,身体的,社会的に性ホルモンが使用可能であることが確認されれば,男性ホルモン,女性ホルモンへ移行することになります.」と配慮されていました。
しかし、2年ぐらいであれば問題ないかもしれませんが、

副作用サイトHのOlivia Bさんのコメントに、Lupron 9か月で極度の渇き、脱毛、発疹等があり止めた、というように個人差があるので、
本人が副作用に注意し、異変があれば直ぐ先生に相談しましょう(特にFTMの方)。
 成人に、抗男性ホルモン剤として、エステラジオールと併用する場合でも、長期間使えばリスクが大きくなるので、男性ホルモン値が目標を達成したら直ぐ止めましょう。
(2020年9月19日)

6-2:●エストラジオール単独やスピロノラクトン併用より、リュープロレリン [ロイプロリド] などのGnRHa併用、酢酸シプロテロン併用、酢酸メドロキシプロゲステロン併用は、血清中の総テストステロン濃度の抑制に効果的である可能性があります。例えば、ナラティブレビューOを参照(ここで併用はエステラジオールとの併用を示します)。

6-3:●2021年のレビューMでも、
リュープロレリンのようなGnRHaの成人への適用については、追加で問題となる副作用は見いだせませんでした。
このレビューでは抗アンドロゲンの第一選択は、上記2節の3薬剤で、黄体ホルモンは補助療法と位置付けられています。
抗男性ホルモン剤の選択理由は、その国での入手のしやすさ、金銭的・経済的理由によっているようです。

 

6-4:●この後、さらにその後見つけた副作用と長期的影響の情報を示しますが、

何か重大な副作用が見つかったら直ぐに知らせるためだけではありません

私のブログのスタンスは、基本的に、現在私が最良と思う選択肢を提示した上で、副作用/デメリットも示して、読み手が自分で対応できるかどうかを判断し、対応できるなら予めそれに備えるというものです。この副作用/デメリットがあるからと、その選択肢を否定するものではありません。元々副作用のない薬などありません。

 

6-5:●中枢性思春期早発症に対するGnRHaの長期的影響と副作用の2019年の論文Qに、「GnRHaの使用に関連する薬物有害反応(ADR)
骨痛、排尿障害、過敏症(かゆみ、かぶれ、発熱)、女性化乳房、顔面紅潮、うつ、怒りっぽくてすぐに怒り出す、頭痛、吐き気、筋肉痛、関節痛、多汗症、疲労感、睡眠障害、注射時の痛み部位、高血圧の素因、および血栓症は、成人で観察される副作用 (ADR) です( 52-57 )。小児では、GnRHa が一般に安全で長期的に有効であることが入手可能な証拠によって示されています ( 58 , 59 )。しかし、CPP
[中枢性思春期早発症] のために GnRHa で治療された小児におけるいくつかの重大な significant ADR [重大な薬物有害反応、Google翻訳では重大と訳されますが、この文献60R参照中の症状は、上記と似たレベルの症状] が報告されています ( 60 )。」とあります。

(括弧内の数値はこの論文のレファレンス#)(ピンク字は私の注釈)

より重い副作用については、青年期子宮内膜症に対するGnRHaの長期的影響の2018年の論文S参照。

 

6-6:●約6か月後SRSを受け、さらに2年半経ちましたが、

1回の注射のみの成人の私については、注射後約1か月以内の火照り以外、

リュープロレリン関連と考えられる副作用は観察・検出されませんでした。

 

O)    トランスジェンダー女性における抗アンドロゲンと女性化の系統的レビュー [A systematic review of antiandrogens and feminization in transgender women] 3.3節かTable 2参照 

M)    内分泌疾患の管理: トランスジェンダーの人々における最適な女性化ホルモン治療 [MANAGEMENT OF ENDOCRINE DISEASE: Optimal feminizing hormone treatment in transgender people]
性別適合ホルモン治療法選択の指針はTable 2参照
抗男性ホルモン剤の選択理由は、choice of anti-androgenで始まる節参照
思春期の人への適用については、early puberty [思春期初期] を含む分と次の文をご確認ください。

Q)  中枢性思春期早発症に対するゴナドトロピン放出ホルモンアナログ(GnRHa)の使用に関連する長期的影響と重大な薬物有害反応(ADR):文献の簡単なレビュー Long-term effects and significant Adverse Drug Reactions (ADRs) associated with the use of Gonadotropin-Releasing Hormone analogs (GnRHa) for central precocious puberty: a brief review of literature.
出典元:De Sanctis V, Soliman AT, Di Maio S, Soliman N, Elsedfy H. Long-term effects and significant Adverse Drug Reactions (ADRs) associated with the use of Gonadotropin-Releasing Hormone analogs (GnRHa) for central precocious puberty: a brief review of literature. Acta Biomed. 2019;90(3):345-359. doi: 10.23750/abm.v90i3.8736. 
© 2019 ACTA BIO MEDICA SOCIETY OF MEDICINE AND NATURAL SCIENCES OF PARMA
This work is licensed under a Creative Commons Attribution 4.0 International License

R)  小児期における GnRH アナログ治療の副作用 [Side effects of GnRH analogue treatment in childhood]参照

S)  青年期子宮内膜症における性腺刺激ホルモン放出ホルモン作動薬とアドバックの長期的影響 [Long-Term Effects of Gonadotropin-Releasing Hormone Agonists and Add-Back in Adolescent Endometriosis]参照

 

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注意.3節のレファレンスHで副作用をご確認ください。

御主治医または適切なホルモン医とご相談ください。
完全な自己責任です。当方は一切の責任を負いかねます。