アメリカの指揮者のジェームズ・レヴァインさんが亡くなりました。享年77歳。ユダヤ系の家庭に生まれジュリアード音楽院卒業後、1975から40年の長きにわたって、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場の音楽監督・芸術監督を務めました。オーケストラではミュンヘンPOやボストンSOの主席指揮者などの重要ポジションを歴任。

多数の音盤を残したが、個人的には一連のマーラーの交響曲が印象的。特にフィラデルフィアOとの5番(LP)は信じられないほどうまくて明るい音色のオケと、文明的、実存的な苦悩にのたうちまわらない即物的な解釈が非常に新鮮だった。

実演では、89-90のメトのシーズンに聴いたアイーダ、リゴレット、ドン・ジョヴァンニ、ニーベルングの指環が印象深い。当時のメトのオケは素晴らしくうまいという印象はなく、凡百の指揮者がふるとスカスカの演奏を聞かされることもあったのだが、音楽監督が登場するや、必ず気合の入ったカロリー高めの音響を叩き出すのはさすがと思わせた。一度最前列、レヴァインから5Mくらいのところで聞いたことがあったのだが、3時間に渡って指揮棒からほとばしる続ける裂帛の気迫が凄まじく、やはり一流指揮者のオーラと集中力がはすごいものだと感服したものです。

晩年は病気もあり、また過去のセクハラ訴訟などで十分な活躍ができなかったのは、本人としても悔いが残ったのではないだろうか。メトの来日公演などはあったものの、日本の音楽ファンには音楽家としての真価が十分に伝わっていないような気がするのは少し残念な思いです。心からご冥福をお祈りします。