手段と目的を混同してはいけない。 | 若き親友への手紙

手段と目的を混同してはいけない。

この10月、僕と鈴木健一さんの会社、
P&Cコネクションが直接経営する
最初の飲食店がオープンする。

その準備を進めているからではないけれど、
こんな本を読んだんだ。

『トマトが切れれば、メシ屋はできる 栓が抜ければ、飲み屋ができる』

「楽コーポレーション」さんという、
居酒屋の会社の社長、
“居酒屋の神様”といわれる宇野隆史さんが書かれた本。

そのなかで、
僕が抜き書きしたいくつかの言葉を
君にも読んでもらいたいと思った。

「「今日五〇〇円のかつ丼食った」と言っても誰も興味を持たないけど、
 「今日、五〇〇円のバーガー食ったぞ」って言ったら
 周りは「へぇ」って思うし、絶対友達に自慢したくなると思うんだ。」

これは、ただ値段を下げればいいわけではないという、
宇野さん流のアドバイスだけど、
なるほどと思うよね。

宇野さんの言葉をつづけよう。

「クーラーなんて涼しくて当たり前だけど、
 お母さんがあおいでくれる「うちわの風」には、
 涼しさだけではなく幸せを感じるじゃない。」

そう、今年の夏は、
エアコンよりもうちわだね。

「うちでやっている「とろ角ソーダ」も、
 やっぱり「接客をするためのメニュー」だ。

 うちでは、随分前から
 ウイスキーの「角瓶」を売ろうと考えて
 ハイボールに力を入れてたんだけど、
 もっと力強いメニューができないかと考えたのがこれでね。

 瓶を冷凍庫に入れて、ウイスキーをトロトロの状態にして出すんだ。

 お客さんに液体のとろみが見えないと意味ないから、
 客席まで瓶を持って行ってグラスに注ぐ。

 炭酸は別の小瓶に入れて出して、
 お客さんの好みで割ってもらうようにした。

 こうするだけで、ハイボールが俄然魅力的なメニューになる。」

「アイスクリームを、キッチンの中で
 デザートにただ盛り合わせていてはダメ。

 そんなのを席に運んで、
 「サービスしときました」なんて言っても、
 お客さんは得した気持ちにならない。

 そうじゃなくてさ。

 アイスクリームのカートンを席まで持っていって、
 「サービスしときます!」って、その場で盛り付ける。

 そうすれば、お客さんの感動は俄然、大きくなる。
 同じ内容でも、絶対、すごく得した気になるはずだ。」

「居酒屋にとって、当たり前のサービスを
 あえて言葉にして口に出してみるといい。
 「ビール、キンキンに冷やしときました!」とかね。

 それだけで、店の価値はグンと上がるはずだ。

 個性では勝負できないような子でも、これならできると思うんだ。」

いま、君のまい日の仕事は、
接客業といえるだろう。

そこで必要なことも教えてくださっている。

「どんな時代でもさ。
 オレが接客で一番大切だと思っていることがある。
 店に来るお客さんの名前を一人ひとり覚えることだ。」

「もう一つ、大切にしたい接客術の基本がある。
 それは、相手に自分の名前を覚えてもらうことだ。」

「よく、「客の身になって考えろ」と言うでしょ。

 あれは、「客の身」と考えるからよく分からなくなる。

 「客」ではなくて、「自分」なんだよね。

 どんな店だったら自分が楽しいか。それを考えれば、おのずといい店ができる。」

また、こんな事例は、
ほんとうに頭が下がるよね。

「ちなみに、クレームとは違うけど、
 店でトイレから店の男の子が出て来たところに、
 女性のお客さんが出くわしたとするでしょ。

 女性は自分の前に同じトイレで
 男性が用を足しているのはイヤなもんだよね。

 従業員ならなおさらだ。

 だから、うちでは店の子がトイレに行くときは、

 入り口に「ワンミニッツクリーニング中」という
 札を掛けることにした。

 こうしておけば、
 お客さんが嫌な気持ちにならないだけじゃなく、
 「掃除してくれたんだ」ってかえって好印象を持ってくれるでしょ。

 もちろん、汚れていないかはちゃんとチェックして、
 スプレーで臭いも消してから出るようにしているよ。」

だけど、
この本のなかで
君にいちばん読んでもらいたいのは
次の一節だ。

「独立する子には、 
 最初に出す店は「手段の店」であって
 「目的の店」はダメだよと言っているんだ。

 「目的の店」というのは、
 自分がこういう店をやりたいという最終目標となるような店のこと。

 例えば、静かで落ち着いた雰囲気でうまいものを食わせたい、
 というような店だ。

 でも、最初は生きていくために、頭をひねって
 とにかく売り上げを上げる努力を積みながら、
 多くのお客さんを呼べる店をやらなきゃいけないからね。

 だから、自分の理想とは違っても、
 一軒目はお客さんを呼び込める
 「手段の店」を考えなくちゃいけない。

 そうして、最初の五年は
 次のステップに進むための店を成功させる。

 まず、その店を土台として力を付け、
 それから「目的の店」を目指すべきだと思うんだ。」

君はいつも、自分のいまの仕事場のことを
いろいろ文句いっているけれど、
いまの君の仕事場は、
君がこれから君がいちばんやりたいことをやるための
そのステップアップのための仕事場だ。

君がいまの仕事場でするべきことは、
君のステップアップのためにいまの仕事場を
最大限活用することに違いない。

けれど、君はいまいる仕事場が
君に与えてくれる機会を
君の人生のステップアップのために
とことん活用しているだろうか。

いまの君の仕事場は、
決して君が一生いる仕事場ではない。

君は、いまの仕事場を踏み台にして、
より上の世界にいかなければならないし、
それはいまの仕事場のひとたちも
望んでくれていることだ。

むしろ、君は君のいまの仕事場から
羽ばたいていくことが
君のいまの仕事場のひとたちへの
いちばんの恩返しにもなる。

だが、君はそんな得難い環境を、
かけがえのないチャンスを
最大限活用しているだろうか。

いまの仕事場は、
「目的」ではなく「手段」だ。

何度も同じことをいって申し訳ないけれど、
君は、この「手段」を
最大限に活かしているだろうか。

君が、君の「目的」のステージにあがるために、
いま君の「手段」を大切にすることくらい
大切なことはない。


いい本を読むと、いい気持ちになれる。

この本を読むと、
居酒屋のオヤジになりたくなるよね。

でも、
僕も君も、
居酒屋のオヤジになる前に、
しなければならないことがある。

また、近々、
乾杯できることを楽しみにして。



$若き親友への手紙