受付の際

夫とわたしで各々番号を振られた紙を渡された

この施設にいる間はこれが我々の名である

 

診療待合エリアの圧倒的場違い感にこの上なく挙動不審の我々もまた

他の目からみたら

この圧倒を形成する一部なのだ

そうわたしだってこの隣のおじさん(夫)だって

立派な患者なのだ

浮いている気がするのはただの自意識過剰で

地味極まりない我々など増して背景でしかない

たぶん きっと そうであれ そうであれよ

 

僅かな隙間をかいくぐって待合イスに座っていると

ほどなくして

モニターにわたしの番号がピロロンと現れた

こうしてお呼び出しの際はモニターに番号が現れるので

待合のひとびとは音が鳴る度に一斉に顔をあげる

ある意味非常に統制のとれた壮観な風景である

 

さてまずは採血

番号を確認され これはホルモンの検査でスラスラスラ〜と流れるような説明のあと

血を採った

注射に恐怖感も抵抗も一切ないので

針が刺されるようすを凝視しつつ

さすがにうめーなあと関心しているうちに

もう少しでーす気分悪くないですか

大丈夫でーす

もう少しでーす

を繰り返して

結果

6本採った

こんなに採るんかい

これで一体なにが解るんだい

 

ちょ 6本も採ったよ さっぱり痛くねえのすげえ

えー大丈夫なのそれえ?

夫はわたしに反してわずかな出血でも大騒ぎするヘタレなので青い顔でビビり散らかしていた

 

次にどれぐらい待ったかもはや忘れたが

わたしを含む何人かがまとめて内診中待合に呼ばれ

夫は採精窓口に

散り散りに出陣した

噂に聞く個室で採精である

借りてきた猫みたいになっている夫を

がんばってね!なんとしても出せ

と送り出し わたしは内診へ向かった

 

内診室は4つ並列してある

いざ中に入って単純にたまげた

 

まず部屋ではなくて左右に壁があるだけで

カーテンを隔てた前方

つまり先生側には仕切りがないので

横を移動しながら内診していくシステム

 

そして

わたしがこれまで健康診断などで経験のある内診は

こうリクライニングチェアみたいな立派なのに座って

電動で向き変え 角度を変え 徐々に脚が開きケツが浮き

そしてあられもない姿へ

みたいな感じだったが

いきなり己が力で全開になるように足をセットで完成形

 

これが壁を隔てて4つ 並んでいる

 

いやこれカーテンの向こう側たるや

などと想像‥してはいけない

それは女として いや ひととして

 

わたし側にもモニターがあるのはいい

往々にして内診は何されているのかわからない感があるが

モニターがあることで

はえーこれを診てるのねーほえー

ってなる

意味はわからないけれど

 

たまげたまま内診を終えて戻りしばらくすると

夫もまた帰還した

無言でわたしの横に座る

‥出た?

出た

ぶふぉっと思わず声に出さずにお互いに吹き出して

肩を震わせる

出るんかい あんた出せるんかい

出た!

 

聞けばやはりDVDセットみたいなものを渡されたらしいが

だいぶ古めだったのでちょこっとみただけで

あとは想像で勝負した とのことだった

なにそれおもろ

くっそ笑える

わたしはわたしでなんかすごかったんだよ

最初からこうだよこう

と身振り手振りでコソコソと会話し肩を震わせていると

これまでと違い

何番の患者サマ 診察室何番にお入りクダサイ

とモニターに番号が現れただけではなく自動アナウンス付きで

いよいよ診察室に呼ばれた

 

いかん

怒涛の署名までたどりつけなかった

 

次回

なにあれロボットだよあれ

と夫は言った