■東京交響楽団 第738回定期演奏会(26/3/28サントリーホール)
[指揮]原田慶太楼
[カウンターテナー]彌勒忠史♭
[合唱]東響コーラス♯
コープランド/アメリカの古い歌 第1集♯
バーンスタイン/チチェスター詩篇♯♭
ショスタコーヴィチ/交響曲第5番 ニ短調
原田慶太楼氏の東響正指揮者としての最後の公演(翌日の新潟もあるが)。コロナ禍と前後するように活躍し始めた原田氏に白羽の矢を立てたのも早かったが、次のステップへ切り替える時期も意外に早く訪れた。前半にバーンスタインを含むアメリカ作品、後半にショスタコーヴィチの交響曲というプログラムは、正指揮者就任披露公演だった2021年4月の定期を踏襲している。
前半は声楽入りの2曲。コープランド「アメリカの古い歌」は、アメリカの民謡やミンストレル・ソング、子どもの歌などを編曲したもの。独唱とピアノのための原曲が管弦楽版にも編曲され、全10曲のうち第1集は5曲構成。第1曲「船乗りたちの踊り」から、東響コーラスが身体を揺らしながら歌うざっくばらんでノリノリの合唱を披露。第5曲「私は自分に猫を買いました」では、猫、あひる、ガチョウ、鶏、豚、牛、馬、奥さん…と歌詞が進むごとに鳴き声の擬音が増えていくコミカルな展開が楽しい。
「チチェスター詩篇」は、バーンスタイン70歳のバースデイ・コンサート(1988年・タングルウッド)で小澤征爾が第1楽章を振った演奏が記憶に残るが、実演で聴くのも全曲を聴くのもこれが初めて。木管とホルンを欠く特殊編成で、クリスピーな打楽器陣と、ダブルハープの妖しい響きが印象的。3楽章構成で、合唱に加え第2楽章にはボーイソプラノまたはカウンターテナーの独唱が入る。第3楽章後半に現れる、伊藤首席のソロを中心としたチェロ4本による息の長いアンサンブルがひときわ美しい。
ヘブライ語の歌詞に込められたメッセージも、現下の世界情勢で聴くと様々なことを考えさせられる。未だアクチュアルな意味を失っていない、作曲家・バーンスタインの独自の美学が凝縮された傑作であり、アメリカの楽壇と縁の深い原田氏ならではの感性とも相まって、オケとコーラスの実力を存分に引き出したこのコンビ屈指の名演となった。後日、ニコ響の見逃し配信で聴き直そうと思ったら、この日のプログラム中この曲のみ「権利上の理由により」音が消されており、実演で聴けたのは貴重だった。
後半はショスタコーヴィチ5番。若々しくフレッシュで、全編に覇気が漲る原田氏らしい演奏。最も良かったのは第2楽章のスケルツォで、細部まで見直されデザインし直されたアーティキュレーションに、バージョンアップしたばかりのOSのような新味がある。この楽章のラストのテンポの動かし方ではウルバンスキ&都響の演奏を思い出したが、最近の流行りなのだろうか。全体としては5年前のショスタコ10番の印象とほぼ変わらず、それがこの指揮者の個性であり「現在地」ということなのだろう。
この5年間に聴いたこのコンビの演奏で最も印象に残っているのは、実演ではなく、ニコ響で視聴した2025年2月の「名曲全集」でのチャイコフスキー5番。その大胆不敵な解釈に、この人の指揮で定番のレパートリーをもっと聴いてみたいと思ったものだ。当面、その機会は減ることになりそうだが、今後の指揮者と楽団の進路と進化次第では、今度はさらに大きなポストで戻ってくる未来があってもいいのでは…と思っている。