■日本フィルハーモニー交響楽団 第778回東京定期演奏会(26/3/13サントリーホール)
[指揮]下野竜也
[ピアノ]野田清隆*
サミー・ムーサ/エリジウム
マイケル・ナイマン/ピアノ協奏曲(映画「ピアノ・レッスン」より/1993)*
(アンコール)リゲティ/ムジカ・リチェルカータより Ⅶ. Cantabile, molto legato*
シベリウス/交響曲第6番 ニ短調
サミー・ムーサ(1984~)の「エリジウム」は、2021年にサグラダ・ファミリアで初演されたという曲。長調の和音の総奏で始まり、電子音のように滑らかに音程を上下動させながら次第に変容していく。拍節感が希薄で、ひたすら横へ横へと音の帯が伸びてゆく曲想だが、聴き易い音楽。途中、映画音楽のようにも感じられたり、再び長調の和音へと回帰する終止がシベリウス7番を思わせたりするのは、後続のプログラムが頭にあるからだろうか。表題の「エリジウム」とは、死後の英雄だけが入れるというギリシャ神話の楽園を指すとのこと。
マイケル・ナイマンのピアノ協奏曲は、映画「ピアノ・レッスン」(1993年)のための音楽を再構成したもの。「ピアノ・レッスン」は懐かしい作品で、公開当時観に行って気に入り、サントラCDを購入した数少ない映画の1つ。今回そのCDを何十年かぶりに引っ張り出して聴き直した。サントラを聴き慣れた耳には、その素材を30分超の単一楽章に仕立て直した今作はいかにも冗漫で、ピアノ協奏曲としてはあまり良い出来とは思われなかった。ただ素材そのものはやはり名作だし、もし映画を知らずに聴いたら、また印象が違っていただろうか。
休憩を挟み、後半はシベリウス6番。インタビュー記事やプレトークによれば、下野氏がシベリウスの交響曲を公開演奏会で指揮するのは、意外にもこれが初めてなのだとか。これまで指揮するのを避けてきたというその理由が変わっていて、「南国(鹿児島)の生まれなので、自分が指揮しても寒い音が出ないと、半ば真面目に思っていた」のだそう。でも「あんなに知らない曲ばかり取り上げているくせに、シベリウスをいちども指揮しないで死ぬのもどうかな」と。
そんな話を先に聞いていたからだろうか、実際の演奏を聴いてみると、鳴っているのは確かにシベリウス6番なのに、何だか別の曲を聴いているような感覚がずっと付きまとった。同じ風景が描かれているのに、鉛筆画だと思ったら水彩画だったような。雪が積もっているのに、どんなに目を凝らしても雪の結晶が見えないような。そんな漠然とした印象が音楽的に言うとどういうことなのか、聴き終わってからしばらくたった今もまだ、うまく言語化できないでいる。