ルイージ&N響 起点のトリイゾ、終点のペレメリ | 今夜、ホールの片隅で

今夜、ホールの片隅で

東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

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🔳NHK交響楽団 第2025回定期公演(12/1NHKホール)

 

[指揮]ファビオ・ルイージ

[ソプラノ]クリスティアーネ・カルク*

 

ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」より 前奏曲と愛の死

R.シュトラウス/「ばらの花輪」「なつかしいおもかげ」「森の喜び」「心安らかに」「あすの朝」*

シェーンベルク/交響詩「ペレアスとメリザンド」

 

よく晴れたこの日、いつもとはルートを変えて、原宿駅から代々木公園通りを歩いてみた。混雑する山手線に乗るのは億劫だが、駅を出てしまえば色付いたイチョウ並木が目に鮮やかで、3日前に来た時には夜闇に紛れて見えなかった晩秋の色彩を、落葉舞う中で味わえた。

 

師走のN響A定期は、岡田暁生氏のプログラム・ノートによれば「後期ロマン派の爛熟プロセスを辿るプログラム」。シェーンベルク「ペレアスとメリザンド」が後期ロマン派音楽の終点なら、ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」は20世紀音楽の起点であり、それを継いだのがR.シュトラウスである…と。

 

蕩けるように儚いチェロの音色で始まった「トリイゾ」は、前奏曲と愛の死を併せて一編の交響詩のような構成美。ルイージが振ると耽美的な濃厚さよりも、さっぱりとした清新さが漂う。

 

続いてクリスティアーネ・カルクの独唱で、R.シュトラウスのオケ伴付き歌曲を5曲。いずれも原曲のピアノ伴奏版からの編曲で、男女の愛の機微を歌った内容と言い、曲順と言い、この5曲で一連の歌曲集のようだ(「ヴェーゼンドンク歌曲集」よりもずっと穏当な…)。甘く円やかでリリックなカルクの歌声が心地よい。大好きな「あすの朝」をオケ伴の生演奏で聴くのは初めて。郷古コンマスのヴァイオリン・ソロと、ハープと、ソプラノのトライアングルが絶佳。

 

後半はシェーンベルク生誕150年の今年、演奏機会の多い「ペレメリ」。作曲家にも作品にも苦手意識があって、これまで通して聴いたことが無く、予習もサボってしまった。それでも簡にして要を得た岡田氏の解説を頼りに、「ペレアスの死」辺りまではかろうじて付いて行ったものの、いつの間にか迷子で森の中を彷徨い、やがてウトウトし…。これが後期ロマン派の爛熟なら、あまりロマンティックな音楽体験ではないな…と思いつつ、その世界観の一端に触れることはできた。

 

これがもし世界文学全集だったら、後期ロマン派の巻に「ワーグナー/R.シュトラウス/シェーンベルク」という1冊があってもいい。愛すべき短編あり、未読の難解な長編ありのそんな巻をどうにか読み通すことができたのも、エディター兼デザイナーたるルイージの垢抜けた編集と装丁のおかげだろう。

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