オルランド体験 ウルフ、ポッター、ノイヴィルト | 今夜、ホールの片隅で

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東京在住クラシックファンのコンサート備忘録です。

 

ヴァージニア・ウルフの小説「オーランドー」は、かなり前から興味がありつつも未読のままだった。何度か書店で手に取りパラパラと立ち読みしてみたのだが、なかなか手強そうで怯んでいたのだ(もちろん日本語訳版の話)。それがこの夏、オルガ・ノイヴィルト作曲のオペラ「オルランド」を知ったのがきっかけで、思い切ってちくま文庫版を購入、ようやく読破した。

 

事前の勝手な予想では、両性具有の主人公が男性と女性を行ったり来たりする話なのかと思っていたら、性の転換は男性→女性の1回だけなんですね。エリザベス朝の16世紀から小説刊行時の1928年まで、時代を超越して生き続ける主人公の数奇な遍歴の語り口は、しばしば本筋を逸れ寄り道をくり返し、語り手自身の感懐が饒舌に挿入され、改行も少なく決して読み易くはない。しかしこれは訳者・杉山洋子氏の労作でもあり、この取っ付きにくそうな原文をよくぞここまで生き生きとした日本語に置き換えたものだと思う。

 

個人的に好きなのは、大寒波に襲われたロンドンで、川が生きた人々を閉じ込めたまま氷結し、それが再び溶け出して氷塊と共に様々なものが流されてゆくファンタスティックな場面。それも含め、オーランドーが赴任先のトルコで女性へと変身し、ロンドンへ帰るまでの前半は概ね面白く読めるのだが、それ以降は展開が停滞気味で冗漫な感が否めない。それでもこのジェンダー/セクシュアリティ/クイアのテーマを先取りしたかのような大胆な物語が、刊行後約100年を経て、ますます存在感を増し続けていること自体がファンタスティックだと思う。

 

これを原作にサリー・ポッター監督が映像化したのが映画「オルランド」(1992年)。この監督の「耳に残るは君の歌声」は好きな作品だが、「オルランド」は未見だったのでこの機会に観てみた。93分という尺に収めたこともあり、原作を読んでから観ると、小説「オーランドー」のよく編集されたプロモーション映像/ダイジェスト/予告編のようだ。それでも主演ティルダ・スウィントンの魅力もあり、この美しい映像詩(大寒波の氷結シーンも!)は、原作とウルフへの入門編としての役割を十分に果たしたのではないか。

 

 

そして2019年、ウィーン国立歌劇場でオペラ「オルランド」が初演された。作曲したオルガ・ノイヴィルト(1968~)は、この劇場150年の歴史上初めて新作を委嘱された女性作曲家となった。ノイヴィルトは今年のサントリーホール・サマーフェスティバルのテーマ作曲家でもあり、このオペラ関連の作品が演奏予定ということもあるのだろう、2019年の初演の舞台が先月NHKBSで再放送され、これを録画して視聴した。順番で言うとオペラをまず観て、小説を読み映画を観た後に、もう一度オペラを復習したことになる。

 

こちらは2時間40分超の長尺だが、映画よりも原作のダイジェスト感が強い。ラストシーンが現代だった映画同様、オペラでも初演時の2019年まで拡張された物語が続く。原作のテーマに現代性を持たせたこの部分にこそ新作オペラの眼目があったと言えそうだが、20~21世紀編のこの第2幕がけっこう長く、あと30分短くても…。映像を多用した演出などビジュアル的にはエンタメ性に富み、コム・デ・ギャルソンの川久保玲が手掛けた衣装も愉しい。その他、スタッフの多くを女性が占めていたそうである。

 

このオペラを作曲者自身が編曲したのが、今回初演された「オルランド・ワールド」。登場人物を主人公オルランド1人に絞り、主にオルランドの歌唱部分のみを切り貼りし、それを35分ほどのメゾ・ソプラノ&管弦楽版に再構成したもの。正直、これを聴いただけではオリジナルのストーリーはほとんど分からないし、ノイヴィルトの音楽も、視覚的要素が無くなった分、尖がって聞こえる。もしこれを予備知識なく最初に聴いていたら、オペラ、小説、映画へと遡ろうとは思わなかったかもしれない(オペラを初演したマティアス・ピンチャー指揮、作曲家臨席)。

 

ともあれ、オペラが初演された2019年からの4年間で、日本でもLGBTQに関する社会的関心が一気に高まった感があり、まさにタイムリーな企画だった。サントリーホールのメンバーズ・クラブの招待券(無料)で有難く鑑賞。思えばこの招待券が、この夏の「オルランド」を巡る旅へのチケットでもあった。

 

🔳サントリーホール・サマーフェスティバル2023 テーマ作曲家 オルガ・ノイヴィルト オーケストラ・ポートレート(8/24サントリーホール)

 

[指揮]マティアス・ピンチャー

[メゾ・ソプラノ]ヴィルピ・ライサネン*

[管弦楽]東京交響楽団

 

ヤコブ・ミュールラッド/「REMS」(短縮版)オーケストラのための(2021/23・世界初演)

オルガ・ノイヴィルト/「オルランド・ワールド」(世界初演・サントリーホール委嘱)*

オルガ・ノイヴィルト/「旅/針のない時計」オーケストラのための(2013/15・日本初演)

スクリャービン/交響曲第4番「法悦の詩」