■第47回サントリー音楽賞受賞記念 シュニトケ&ショスタコーヴィチ プロジェクトⅢ(4/26トッパンホール)
[指揮]井上道義
[ヴァイオリン]山根一仁#
[ヴィオラ]ニルス・メンケマイヤー#/*
[チェロ]ピーター・ウィスペルウェイ#/**
[管弦楽]トッパンホール チェンバー・オーケストラ
シュニトケ/Concerto for Three ~クレーメル、バシュメット、ロストロポーヴィチのための~#
ヒンデミット/白鳥を焼く男*
ショスタコーヴィチ/チェロ協奏曲第1番 変ホ長調**
ワーグナー/ジークフリート牧歌
歴代受賞者でも異例の「トッパンホール」がサントリー音楽賞を受賞したのが2016年のこと。それから3年後、シリーズ企画「シュニトケ&ショスタコーヴィチ・プロジェクト」の第3回が、受賞記念コンサートとして開催された。受賞から開催までの仕込みと言い、用意されたプログラムの内容と言い、我が道を行くこのホールならではのものがある。
1曲目はシュニトケの60歳を記念してクレーメル、バシュメット、ロストロポーヴィチという名手3人によって委嘱された作品。最初の3楽章ではそれぞれ、チェロ、ヴィオラ、ヴァイオリンが交替でソロを弾き、伴奏の弦楽合奏もソロ楽器以下の音域のパート(例えば第1楽章ではチェロとコントラバス)しか参加せず、楽章ごとに楽器が増えていき、最後の第4楽章でようやく3人のソリストが同時に演奏する、というユニークな構成。井上さんの前説によれば、3人の委嘱者への当て書きであり、楽譜には発想記号の記載が無いため解釈は演奏者に委ねられており、今回がおそらく日本初演とのこと。
山根、メンケマイヤー、ウィスペルウェイの3人が一緒に登場し、各楽章で出番の無い2人はオケの同じ楽器のパートに用意された空席に座って待機する。ソリストたちの顔見世的な性格を持ちつつも、曲想はシュニトケらしく容赦無用のハードなもの。最終楽章では3人のソリストとその同族パートが競い合うようにバラバラに弾き始め、そのカオスな状況に絶望した(?)指揮者が、舞台上手奥に置かれたピアノの上に「バーン!」と身を投げ出して終曲。この曲とセットで書かれたソリストの三重奏によるアンコール・ピースが続けて演奏された。
次のヒンデミット「白鳥を焼く男」は、おそらく実演で聴くのは初めて。ヴァイオリンとヴィオラを欠く編成が新鮮で、左翼にチェロとコントラバス、中央に木管、ハープを挟んで右翼に金管、その奥にティンパニという布陣。録音で聴く印象よりも、さらにサウンドの重心が低い。独奏のメンケマイヤーも初聴きだが、音の密度が濃く、エネルギッシュな精悍さを感じさせるヴィオラ。ドイツ民謡を基にした素朴な曲調とは裏腹に、なかなか気骨のあるヒンデミットを聴かせてくれた。
休憩を挟み、後半最初はショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番。今週はチェロ・ソナタ、ヴァイオリン協奏曲第1番に続き、期せずして「ショスタコ週間」となった。このチェロ協奏曲第1番は、久しぶりの実演で改めて聴いてみて、ショスタコの全作品の中でも最も好きな曲の1つかもしれない。独奏のウィスペルウェイは、登場した時から舞台俳優のような存在感。演奏中も指揮者やコンマスなど周囲へ鋭い視線を飛ばし、声こそ出さないが吠えるように烈しくブレスし、若々しく活力旺盛なパフォーマンスを披露した。第2楽章後半のチェレスタは、珍しく舞台裏のバンダで演奏された。
ソリスト無しの「ジークフリート牧歌」で締めるのも選曲の妙。東響の水谷晃さんがコンマスを務めるトッパンホール・チェンバー・オーケストラは、弦セクションが[5-5-5-4-3]。この曲は、ワーグナーが苦手な私が例外的に好きなワーグナー作品で、編成は小さければ小さいほど良い。そしてこの日の演奏は、これまでに聴いた同曲中でも最小編成による、まさに理想的なもの。マスとしてのオーケストラ・サウンドではなく、個々のパート、個々の奏者の生(き)の音が、今この瞬間にアンサンブルとなって立ち現れる。ホールという楽器を美しく鳴らすのに、これほど相応しい音楽は無いだろう。