■NHK交響楽団 第1857回定期公演(2/18NHKホール)
[指揮]パーヴォ・ヤルヴィ
[ヴァイオリン]諏訪内晶子*
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲 ニ短調*
(アンコール)バッハ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番より アンダンテ*
ショスタコーヴィチ/交響曲第10番 ホ短調
シベリウスのヴァイオリン協奏曲は、2年前のN響パーヴォ定期でも庄司紗矢香さんの独奏で聴いている。
この2年間に聴いたパーヴォ&N響のプログラムでは初めての重複曲だと思うが、そのサイクルがいささか早い気も。ただ、前回のシベコンの時もメインはショスタコーヴィチだったので、この組み合わせにはパーヴォなりのこだわりがあるのかもしれない。
第1楽章冒頭の微弱音の美しさは前回同様。そこに立ち上がるひんやりとした庄司さんのソロはまだ記憶に鮮やかだが、諏訪内さんのソロには冷気の中にも仄かな温かみが感じられる。前者がクールなモノクロームの世界なら、後者はより色彩感を伴った世界。ややポルタメント気味の左手の動きがしなやかな音色を裏付ける。次第に熱を帯びるソロにオケも共鳴し、彫りの深いダイナミックな響きが引き出される。この曲のヴィルトゥオーゾ・コンチェルトとしての側面が、特に最終楽章では顕著に感じられて、往年の巨匠たちの響きをも彷彿させるようなロマンチックでスケールの大きいシベコンを堪能させてくれた。
諏訪内さんを実演で聴くのはかなり久しぶり。ぴんと張り詰めるようだったかつての気迫がキャリアを重ねることで質的に変化して、今とても音楽性のバランスが良いという印象を受ける。コンチェルトなら、チャイコフスキーやブラームスをこのヴァイオリンで聴いてみたいと思う。アンコールで披露されたバッハもまた格別で、穏やかで慈しみ深く、心の奥までじんわりと沁み込んでくる。これまでほとんど聴いてこなかった彼女の無伴奏や室内楽も、機会があればじっくりと聴いてみたい。
後半はショスタコ10番。昨年10月に聴いたノット&東響だけでなく、このところ在京・地方問わず国内オケによるこの曲の演奏頻度が急上昇していて、ひと昔前のタコ5のポジションが今やすっかりタコ10になった感がある。この曲は昨秋の東響ヨーロッパ公演でのメイン・プログラムの1つでもあったが、奇しくも今月末から始まるN響のヨーロッパ公演でもメインの1つに据えられており、ノットとパーヴォがほぼ同時期に同一作品を勝負曲に選んだという意味でも興味深い現象である。
パーヴォ&N響のタコ10、結論から言えば貫禄十分の横綱相撲。第1楽章は、ともすると音に透明感がありすぎたり、輝かしすぎたりするのが不満だったりするが、このコンビはNHKホールの音響も味方に付けて、見事に艶消しされた鈍色のショスタコ・サウンドを実現する。ティンパニも、金管も、余裕のあるくすんだ音がする。第2楽章は、短い中にオケのポテンシャルが如実に表れてしまう恐ろしい楽章。そしてこれほど各セクションがニュアンス豊かに分離して、パーフェクトに統合された演奏は聴いたことがない。なるほど、これは本場の聴衆に問うに値する、精巧にして簡潔なオーケストラのショーケースだ。
第3楽章は、エリミーラの音列をくり返すホルン・ソロが抜群の安定感。カギを握るこのソロに信頼感がある分、むしろほかのパートの音がよく聞こえてきて、この楽章全体がいつになく有機的に感じられる。最終楽章は、なかなか説得力を持って聴かせるのが難しい楽章だと思うけれど、重戦車の如くゴリゴリと押しまくる厚みのあるアンサンブルは迫力十分。N響伝統の独墺系のサウンドに、一層の暗さと深さと強かさを注入したパーヴォ効果がしっかりと発揮されて、充実した手応えのあるフィナーレとなった。終わってみれば、総合力の勝利。このコンビの強みを知らしめるのに、タコ10は実にふさわしい選曲なのだった。