第7章 187分間の職務怠慢

はじめに

1月6日午後1時10分に、トランプ大統領は、「エリプス」での彼の演説を終えた。連邦議事堂に対する襲撃は、その時間までにすでに始まっていた。しかし、それは、さらにひどくなろうとしていた。トランプ大統領は、数万人の参加者に連邦議事堂までペンシルバニア通りを行進するように告げた。トランプ大統領は、彼らに対して、「必死に戦うのだ。必死に戦わなかったなら、国を失うことになるのだから」と告げた。「エリプス」を離れた全員が、米軍の最高司令官であるトランプ大統領が命じたように動いてはいなかったが、彼らの多くは命令に応じた。その命令に続く数時間中に戦いは、激しくなった。

午後1時21分には、トランプ大統領は、連邦議事堂が襲撃されていると報告を受けた。大統領は、直ちにその事態に介入することができたはずであった。しかし、彼はそうすることを選ばなかった。トランプ大統領が暴徒に対して帰宅するように告げたビデオを最終的にツイートしたのは、午後4時17分であった。

トランプ大統領の演説の終わった時間と群衆に対して連邦議事堂を離れるように最終的に彼が告げた時間との間の187分間は、職務怠慢であった。米軍においては、軍人は、「その者の職務の遂行を故意または不注意により怠ったか、非難に値するほどに無能な方法でその職務を遂行したとき、職務遂行に怠慢があったとみなされることになっている。」米軍最高司令官としてのトランプ大統領は、他のいかなる米国人よりも、合衆国の資源を使いこなして、議事堂に対する襲撃を終わらせる権限を有していた。トランプ大統領は、彼自身の副大統領を含む他の者たちが行動する間に故意に何もしないままで過ごした。

トランプ大統領は、司法省、国土安全保障省、国防総省、連邦捜査局(FBI)、議事堂警察あるいはワシントンDC市長室の責任者を招集し、彼らに暴動を鎮圧させることができたはずであった。彼は、そのような召集を行わなかった。そうはせずに、トランプ大統領は、ルドルフ・ジュリアーニと連邦議会内の親しい議員に接触し、連邦議会の合同会議を遅らせることに対する彼らの支援を求めた。そして、大統領は、暴力が行われていた最中に、彼自身の副大統領は行動する「勇気」を持っていなかったと午後2時24分にツイートしたが、その発言は、暴徒をさらに怒らせただけであった。

その間、マイク・ペンス副大統領は、命令系統の中に入ってはおらず、命令を出す憲法上の権限を有してはいなかったものの、大統領の職務を引き受け、それぞれの機関の責任者の支援を要請した。

特別委員会での証言で、統合参謀本部議長マーク・ミリー将軍は、連邦議事堂に対する攻撃が行われていた間に、トランプ大統領が連邦政府の資源を利用するために何も行わなかったと述べた。対照的に、ペンス副大統領は、暴徒が彼を探している間であってさえも、ミリー将軍やその他の軍高官と「2回から3回」ほど、電話で話し合った。これらの電話中、ペンス副大統領は「非常に活気に満ちていた。そして、非常に明白で、極めて直接的ではっきりした命令を出した。」

副大統領は、国防長官代行クリス・ミラーに対して、「米軍をここに展開させること。州兵をここに転嫁させること。そして、この状況を鎮圧すること。」と告げた。 トランプ大統領は、これらの同じ要求を行うことができたはずであった。トランプ大統領は、そうしないことを選択した。それは、トランプ大統領自身の首席補佐官のマーク・メドウズがすぐに取り繕うとした非常に不利な事実であった。「副大統領がすべての決定を行っているという言説を封じなければならない。分かっているように、我々は、大統領が依然として状況を掌握しており、万事が着実に安定しているという言説を確立する必要がある。」ミリー将軍は、メドウズがそう述べていたことを思い起こした。そのことを、ミリーは「赤旗(危険信号)」であると述べた。

ミリー将軍は、彼の特別委員会に対する証言において、危機時において大統領が行動を起こさないことにはどのような意味があるのかを考察した。「よくわかっていると思うが、大統領は米軍の最高司令官だ。アメリカ合衆国の議事堂に対する襲撃が起こっている。そして何も行わないのか? 呼び掛けることもないのか?何もないのか?ゼロなのか?そして、つまり、判断を行うことは私の立場ではできないのだ。しかし、国防長官を呼ぼうとするいかなる試みもなかった。アメリカ合衆国の副大統領を呼ぼうとする試みもなかっただろうか、副大統領はその先に居た。私の知っている限り、そうならなかった。」

ホワイトハウス内であるか外であるかを問わず、トランプ大統領の側近たちは、大統領がすぐに行動することを要請した。その週の早い時期に、トランプ大統領の最も信頼している二人の補佐官であるエリック・ハーシュマンとホープ・ヒックスは、1月6日が平和な抗議であることをトランプ大統領が強調することを望んだ。しかし、トランプ大統領は拒否した。

1月6日に、暴動がエスカレートし始めたとき、ある同僚がヒックスに携帯電話のメールを送った。「君がこれ(暴動)を見ているということは知っている。しかし、彼(大統領)は、暴力的とならないことを本当にツイートすべきだ。「私は現場にいない。私は、月曜日と火曜日に何回もそれを提案した。しかし、大統領が拒否した。」と、ヒックスは答えた。


襲撃が行われていた間、トランプ大統領は、彼自身の家族、政権メンバー、共和党政治家、「フォックス・ニュース」の親しいパーソナリテイーたちの忠告を無視した。
イヴァンカ・トランプとドナルド・トランプ・ジュニアの二人ともに、彼らの父親が暴徒たちに対してすぐ帰宅するようにと告げて欲しいと思った大統領の行動は遅かった。午後2時38分、トランプ大統領は、次のツイートを送った。「我々の議事堂警察と法執行機関を支援してください。彼らは、本当に我が国の側に立っている。落ち着いてください。」

ホワイトハウスの副報道官のサラ・マシューズは、大統領は「落ち着いて」という言葉を使うことに抵抗したと、特別委員会に証言した。大統領は、イヴァンカ・トランプが「落ち着いていて欲しい」と述べた後になってようやくその言葉を追加した。
トランプ・ジュニアは、彼の父親のツイートが不十分であったことをすぐに認めた。 「彼は、この事態を非難すべきだった。議事堂警察に関するツイートは十分ではない」と、トランプ・ジュニアは、大統領首席補佐官マーク・メドウズに宛てたテキストメッセージの中で書いた。トランプ大統領は、彼の午後2時38分や午後3時13分のいずれのツイートの中でも、暴徒たちに対して解散するように告げてはいなかった。

複数の証人は、少数党院内総務のケビン・マッカーシーが大統領とその周辺に接触し、大統領に行動を起こすようにと懸命に働きかけたと、特別委員会に証言した。マッカーシーの懇願は無駄となった。「これらの人々(訳注:議事堂襲撃に参加している人々)は、選挙が盗まれたことに対して君よりも憤っているのだと思うよ」と、トランプ大統領は、マッカーシーに告げた。ホワイトハウスの法律顧問室の2名の弁護士は、これをとりなそうと試みた。常に非常に卑屈であった「フォックス・ニュース」のゴールデンタイムのパーソナㇼティの2名も、トランプ大統領の周辺にいる人々に対して彼にもっと動くようにすべきだと要請した。しかし、トランプ大統領は、動かされることはなかった。

トランプ大統領に反乱を終わらせる権限があったことには疑問はない。彼は、米軍最高司令官であっただけではなく、暴徒の最高司令官でもあった。群集の一人であったステファン・アイレスは、大統領が彼らに対して帰宅せよと最終的に告げた後、彼とその他のメンバーがすぐにこれに応じたと特別委員会に証言した。

「われわれは、(トランプ大統領の午後4時17分の)ビデオが出た直後、文字通りこれに従った。そうだね。彼がその日のもっと早い時間に、例えば、午後1時半にこれを命じていれば、おそらく、このような悪い状況には陥ってはいなかっただろう。」と、アイレスは述べた。「Qアノン・シャーマン」と一般的に呼ばれている、もう一人の暴徒のジェーコブ・チャンスレーは、連邦議事堂に最初に侵入した30名の暴徒の一人であった。チャンスレーは、「トランプが皆に帰宅しろと述べたので、議事堂を離れた」と記者に告げた。トランプ大統領が彼のビデオをツイートしたわずか8分後、エド・バㇾオという名前の「オース・キーパー」が、その多くが連邦議事堂に居た彼のグループの他のメンバーにメッセージを送った。「諸君、たった今、我々の最高司令官が我々に帰宅せよと命令した。何かコメントはあるか?」。

その時であってさえも、トランプ大統領は、暴徒たちを非難しなかった。 トランプ大統領は、彼らの大義を支持し、公然と彼らに同情し、彼の「大きな嘘」を再び繰り返した。「あなたたちの痛みを私は分かっている。あなたたちが傷付いていることを分かっている。我々の選挙が盗まれたのだ。」トランプ大統領は、彼の午後4時17分のビデオの冒頭で述べた。「それ(選挙での我々の勝利)は、地滑り的であった。そして、それは、だれでも知っていることだ。特に、我々の反対側はそのことをよく知っている。しかし、今は、皆さんは帰宅すべきだ。我々は平和でなくてはならない。我々は、法と秩序を守らなければならない。我々は、法と秩序の中で、我々の偉大な人々を尊重しなければならない。我々は、だれも傷つけてはならない。」大統領は、暴力を彼の政敵が彼に対して行使するものとして描き、述べた。これは、違法な選挙であった。しかし、我々は、これらの連中の術中にはまることはできない。」

大統領は、連邦議事堂を制圧した男女を再び称賛して彼の短いビデオを終了した。 「我々は、平穏でなくてはならない。だから帰宅して欲しい。我々は、あなたたちを愛している。あなたたちは、特別な人々だ。」トランプ大統領は、語った。「あなたたちは何が起るかを見ている。他の人たちがひどい取り扱いを受けたやり方を見た。あなたたちがどのように感じているかを私は知っている。しかし、帰宅して欲しい。平穏に帰宅して欲しい。」

1月6日の午後6時過ぎ、トランプ大統領はその日の最後のツイートを行い、再び、暴徒を称賛し、彼らの大義を正当化した。トランプ大統領は、暴徒のために言い訳をし、「これは、聖なる地滑り的選挙勝利が非常に長期にわたって手ひどく、かつ不公平な取り扱いを受けた偉大な愛国者たちからあっさりかつ悪質な形で奪い取られるときに起こるものである」と、告げた。大統領は、さらに続けた。「愛と平和と共に帰宅してください。この日を永遠に記憶して欲しい!」

翌日、トランプ大統領の補佐官たちは、彼が連邦議事堂襲撃を非難する短い演説を行うように促した。トランプ大統領は、準備された彼の演説原稿を読み上げることを避けようとした。ハッチンソンによれば、トランプ大統領は、暴徒たちを恩赦することになるだろうと発言したがったとのことであった。ホワイトハウス大統領顧問室の弁護士たちが反対したことから、この文言は原稿に盛り込まれなかった。ホワイトハウス大統領府人事局長のジョン・マッケンティもまた、襲撃の数日後に、トランプ大統領が1月6日の出来事に関与したすべての人々に関する「全面的恩赦」の可能性について言及したことを耳にしたと証言した。

トランプ大統領は、その可能性を決してあきらめなかった。大統領を辞して以降、今や前大統領となったトランプ氏は、彼が大統領に再選された場合、1月6日事件の被告の「多くの人々に対してお詫びと共に完全な恩赦を行うことを検討すると述べた。


( 7.1「マイク・ペンスに関する文を挿入せよ」に続く。)