第6章「連邦議事堂に集合しよう、ワイルドになるだろう!」

はじめに

2020年12月14日、全米の選挙人たちが、彼らの選挙人団票を投票するために集会を行った。彼らの投票は、ジョー・バイデン前副大統領の勝利を確保し、ドナルド・J・トランプ大統領の敗北を確定した。アメリカ国民そして各州がすべてを語りつくした。トランプ大統領自身の政権の閣僚は、選挙が終わったことを知っていた。ウイリアム・バー司法長官は、これで「すべての問題は終わった」とみなした。マイク・ポンペオ国務長官とユージン・スカリア労働長官も同意した。同じ日に、スカリアは、トランプ大統領に敗北を認めるべきだと告げた。

トランプ大統領は、敗北を認める意図は全くなかった。権力の座に留まる方法を画策し、大統領は、支援を求めて大衆を招集した。

12月19日の午前1時42分、トランプ大統領は、ツイートした。「1月6日にワシントンDCで大きな抗議を行おう。「連邦議事堂に集合しよう、ワイルドになるだろう!」

トランプ大統領のツイートは、全米の多数の彼の支持者を奮い立たせた。トランプ大統領は、選挙日以降彼らに嘘をついており、彼が勝利し、民主党が彼から選挙を盗んだと主張した。今や、一回のツイートで、トランプ大統領は、彼の支持者の怒りを1月6日のワシントンDCにおける連邦議会の合同会議に向けて集中させた。

ツイッター社の「信頼・安全対策方針」チームで最も長い在職者であったアニカ・ナヴァロリは、トランプ大統領の「ワイルドになる」というツイートに対する反応をモニターしていた。トランプ大統領は基本的に彼の支持者がやってきて集会をするためにワシントンDCに旗ざおを立てていたと、彼女は特別委員会に告げた。ツイートは、合衆国政府を転覆させよという要求の「消火ホース」を 創り出した。トランプ大統領の支持者は、あたかも彼らの「最高司令官」が彼らを招集したかの如く感じたことから、新しい緊急性の感覚を感じたのだった。

多くの過激主義者と陰謀論者たちにとっては、大統領の声明は、武装への呼びかけであった。
「プラウド・ボーイズ」(より詳しい説明は後述。)とその指導者であるヘンリー・(エンリケ)・タリオにとっては、トランプ大統領のツイートが連邦議事堂に対する襲撃に直結する一連の出来事を開始させるものとなった。

その後の数日間、プラウド・ボーイズは、彼らの指導部を再編し、より厳格な指揮系統を採用し、支持者に対して1月6日に正体を隠して参加することを指示した。プラウ・ボーイズは、彼らの黒と黄色の服装を誇示し、路上での乱闘を行った「盗みを止めろ(Stop the steal)」集会をはじめとするそれ以前の親トランプ行事でその存在が知られるようになった。突然、彼らは群衆から目立つことを嫌うようになった。彼らは溶け込むことを望んだ。彼らは何か大きなことを計画していた。

タリオは2021年1月6日攻撃を企てるために暗号化されたメッセージを使ったと疑われている。2021年1月4日、タリオは、彼の仲間に彼らが「議事堂を襲撃すべきだ」と告げた。襲撃が行われていた間、タリオは、私的なチャットの中で「我々がこれを行った」と書いて自らの功績を主張していた。そして、1月6日の晩、タリオは、おそらく彼自身と思われる連邦議事堂の前に立っている奇妙な服装の男のビデオを公表した。その不気味なビデオ映像は、1月6日の事件の前に記録されたものであった。1月6日にはワシントンDCにはいなかったタリオは、そのビデオに「予告」というタイトルを付けていた。

極右の反政府民兵運動「オース・キーパーズ」(そのより詳しい説明は後述されている。)も同様に、トランプ大統領のツイートの後に、1月6日に関する計画を開始した。そのグループの指導者のスチュアート・ローズは、何年間も合衆国政府に反対する運動の扇動を行っていた。2020年大統領選挙の直後、ローズとその他のメンバーは、平和な政権移行を中止させることを企てていた。彼らは、トランプ大統領が彼らを彼自身の民兵組織として任命することを希望してワシントンDCの外側に武器を蓄えていた。オース・キーパーズの一人のリーダーであったケリー・メッグスは、トランプ大統領の12月19日のツイートを読み、フェースブックのメッセージで次のようにコメントした。「彼が我々全員に連邦議事堂に集まるよう呼びかけ、それをワイルドにしたいと欲した!サー、イエス・サー!!」1月6日、オース・キーパーズは、2列の軍隊式隊列を組み、連邦議事堂の階段まで行進した。メッグスはその1列を指揮した。

プラウド・ボーイズとオース・キーパーズ の双方ともに、「扇動共謀罪」と「連邦手続き」に対する妨害共謀罪を含むその他の重罪で起訴されている。スチュアート・ローズを始めとする数名は、有罪となっている。合衆国法は、扇動共謀罪を「合衆国政府を転覆し、あるいは暴力で妨害し、または合衆国の何らかの法律の執行を妨げ、妨害し、あるいは遅らせる目的で暴力を利用することを企てること」と定義している。両グループのメンバーの何名かは、それが彼らのやろうと意図していたことであることを既に認めている。

その他の過激派や陰謀論者もまた、トランプ大統領のツイートを受けて、動員を行った。これらの運動については、次の章でより詳細に論じられる。もうひとつの極右、反政府運動である「スリー・パーセンターズ」は、「#OccupyCongress」というインターネット・ミーム(インターネット を通じて人から人へと、通常は模倣として拡がっていく行動・コンセプト・メディア)を共有し、連邦議事堂での暴動を計画した。白人ナショナリスト「グロイーパーズ(Groypers)」のリーダーであるニック・フェンテスは、彼の信奉者を1月6日のために集会に参加させた。フェンテスは、後で、「連邦議事堂襲撃は最高に素晴らしかった」と自慢していた。

トランプ大統領のもっと熱心なファンの一部が利用しているウェブサイトの「The Donald.win」は、連邦議事堂の周囲を取り巻き、占拠することを公然と話題にしていた。

突拍子もない危険な陰謀論カルトである「Qアノン」の信者は、1月6日が「Q」としてだけ知られているオンライン上の神秘なパーソナリティによって約束されている、民主党員と政府職員の暴力による追放である予言されていた「嵐(Storm)」をもたらすと信じた。Qアノンの熱心な信者は、トランプ大統領のツイートとそれに続くレトリックを理由にワシントンDCに集合した。彼らは、連邦議事堂が二つに割れた絵を描いた「議事堂占拠作戦(Operation Occupy the Capitol)」というデジタル・バナーを共有した。

特に悪名高い陰謀論者であるアレックス・ジョーンズは、彼のサイトである「インフォワーズ(InfoWars)」の視聴者に、1月6日は最後の審判日となるだろうと、繰り返し告げた。ジョーンズは、サンディ・フック小学校での児童の大虐殺は米国政府によって仕組まれた「偽旗作戦」であるという根拠のない主張を始めとする突飛もない陰謀論を利用していることで知られていた。もちろん、ジョーンズの悪意のある嘘は法廷で間違っていることが証明されたが、ジョーンズは、「ディ―プステート」という陰謀論にとらわれており、しばしばそれらを拡散していた。2020年選挙が終わった後、ジョーンズは、トランプ大統領がアメリカ国民に対する戒厳令を発令するために政府の権限を使うべきだと主張した。

彼の「インフォワーズ」の共同ホストと共に、ジョーンズは、トランプ大統領の「大きな嘘」を増幅させ、トランプ大統領の「ワイルド」な抗議運動を執拗に促進した。ジョーンズの共同ホストの一人は、「連邦議事堂そのものに対する襲撃」というアイデアを提案した。

ジョーンズ自身は、1月6日に連邦議事堂に行進した。ジョーンズの影響はまた、1月6日の計画を水面下で進めることにも役立った。特別委員会は、イベント主催者とホワイトハウスのスタッフがどのようにホワイトハウスの南側にある公園である「エリプス」でのトランプ大統領の集会を計画したのかについて調査した。このイベントは、連邦議会の両院合同会議の直前にトランプ大統領の支持者を激怒させるよう意図されていた。ある富豪の女性相続人が、トランプ大統領のツイートの重要性に関してジョーンズの「インフォワーズ」を聴いた後に、そのイベントの費用の支払いを行った。彼女は、「できる限り多くの人々がそこに集まること」を目標に3百万ドルを使った。それは、うまくいった。選挙が盗まれたことを信じたアメリカ国民が米国の首都に集合した。

1月5日までに、大規模で、指示に応える準備ができた群衆が、ワシントンに集まった。その日の晩、トランプ大統領は、ホワイトハウスから遠くない集会の場での騒々しい彼の支持者の声を聞いた。

トランプ大統領は、彼の支持者が「怒っていた」ことを知っていた。そして、彼らが連邦議事堂に行進することを呼び掛けることを計画した。トランプ大統領は、行進に加わることさえ望んだ。当局者を威嚇し、連邦議会の合同会議を妨害することは、すべてトランプ大統領の計画の一部であった。
「我々は、死に物狂いで闘うだろう。」トランプ大統領は、2021年1月6日に「エリプス」に集まった群衆に告げた。「そして、死に物狂いで闘わないなら、君たちはもはや国を失うことになるだろう。」集会に参加した者たちとその日ワシントンのどこかにいた者たちの一部は、既に闘う準備ができていた。彼らは、トランプ大統領が彼らに「それはワイルドになるだろう!」と告げたときよりも早く、2週間半ほど前にその準備を開始していた。

(「6.1 極右過激派と陰謀論者は、どのように1月6日の「盗みを止めろ」連合の準備を計画したのか」に続く)