4月18日(木)、2016年大統領選挙へのロシアによる介入に関連するトランプ陣営の共謀疑惑とその捜査をめぐるトランプ大統領による司法妨害疑惑についてのモラー特別検察官の報告書(448頁)が「継続中の捜査にとって開示が支障となる」(Harm to Ongoing Matter(HOM))、「個人のプライバシー」、「大陪審事項」等を理由として一部黒塗りされた形で公表されました。
同報告書は二部構成であり、第Ⅰ部はロシアによる2016年選挙介入に関連したトランプ陣営による共謀についての捜査結果、第Ⅱ部は2016年大統領選挙へのロシアによる介入に関連するトランプ陣営の共謀疑惑とその関連事項に対する連邦捜査局(FBI)と特別検察官による捜査に対する大統領の行動捜査結果です。
開示前に懸念されていたものよりは黒塗りされていた部分は少なかったよう見受けられました。むしろ、黒塗りされた部分はあったものの、報告書は、これまで知られていなかった数々の事実を明らかにしています。報告書はきわめて膨大な量に及ぶため、ここでは、特に目立った点だけ指摘します。
まず、2016年のロシア政府の選挙介入に関してのトランプ陣営の共謀の可能性についての捜査結果についてですが、バー司法長官は、3月24日に議会側に通知した4頁の書簡の中で「特別検察官の捜査は、2016年大統領選挙におけるロシアの介入を認定したが、トランプ氏と同氏の選挙陣営のメンバーがロシアの選挙への介入活動でロシア政府と共謀し、あるいは調整をしたことについて立証していない」と述べていました[i]。これを受けて、トランプ氏がツイッターで「共謀はなかった」と述べたことはよく知られています。
しかし、実際には、報告書は、「捜査はまたロシア政府とトランプ陣営との多数のつながりを特定した。捜査は、ロシア政府がトランプ大統領になることから利益を得るだろうと認識し、そのような結果を確保するために工作したこと、さらにトランプ陣営がロシア側の努力を通じて電磁的に盗まれ、公表された情報から利益を得るだろうと期待したことを立証したが、トランプ陣営のメンバーがその選挙への干渉活動でロシア政府と共謀し、あるいは調整したことについては立証していない」となっています[ii]。
ここでは、アンダーライン部分での重要なポイントをバー司法長官が省いていたことが明らかになりました。
次に、司法妨害にかかわる第Ⅱ部においても、いくつかの新事実が明らかにされました。そのうちの重要なものは、トランプ大統領が、数回にわたり司法妨害にかかわる捜査に影響を及ぼそうとした事実です。しかしながら、「捜査に影響を及ぼそうとする大統領の試みはほとんど不成功であった。それは、大統領の周辺にいた人々がその命令を実行することあるいはその要求に応じることを拒否したからであった」と報告書は述べています[iii]。
その一例には、トランプ大統領がホワイトハウス法律顧問ドン・マクガーン氏にモラー氏を解任するよう命じたが、マクガーン氏がこれを拒否したことがあります。
報告書の記述は以下のとおりです。「2017年6月14日、プレスが司法妨害で大統領が個人的に捜査されており、大統領が特別検察官の捜査を批判する一連のツィートでこれに応じていると報じた。その週末、大統領はマクガーンに電話し、(特別検察官に)利益相反があると主張し、特別検察官を解任するよう命令した。マクガーンは、「土曜日の夜の虐殺」の再来になるとみられることをおそれて、その指示を実行せず、その代わりに辞任を覚悟した。マクガーンは最終的に辞任せず、大統領は特別検察官を解任させるという彼の要求についてマクガーンにさらに念押しをしなかった[iv]。」
次に、マクガーン氏にその指示を与えた直後に、大統領はロシア捜査の範囲を「将来の選挙干渉」だけに限定するようにジェフ・セッションズ司法長官に命じるメッセージを伝えることを彼の選挙陣営のマネージャーであったルワンドスキー氏に命じました。ルワンドスキー氏は、結局このメッセージをジェフ・セッションズ司法長官に伝えておらず、のちにホワイトハウス高官のリック・ディアボーン氏に伝達を託しました。しかし、ディアボーン氏はその内容に驚き、結局はそれを実行しませんでした。
また、トランプ大統領が当時司法省でナンバー3の地位にいたラケル・ブランドにロシア捜査の指揮をとらせることで、捜査を終わらせ、特別検察官を解任させようとしていると考え、補佐官のボブ・ポータにそのラケル・ブランドの意向を探らせようとしたが、ポーターは、そうすることに気が向かなかったので、これをやり過ごしたことも指摘しています。
その他多くの新事実が報告されており、極めて興味深い物語が展開されていますが、ここではスペースの関係上割愛いたします。
特に指摘しておきたいことは、大統領の司法妨害に関する捜査の結論の部分に関するものです。その部分は、以下のとおりです。
「我々は、伝統的な検察官としての判断を行わないと決定していることから、大統領の行動についての最終的な結論を下さなかった。大統領の行動と意図に関して我々が入手した証拠は、我々が伝統的な検察官としての判断をする場合には、解決されることが必要と思われる困難な争点を提起している。同時に、我々が事実の徹底的な捜査をした後に大統領が明白に司法妨害を犯していなかったことに確信を持ったのであれば、我々はそのように断言するであろう。事実と適用される法的基準に基づき、我々は、その判断に至ることができなかった。したがって、当報告書は、大統領が罪を犯したと結論づけるものではないが、彼の無実を証明したものではない[v]」としています。
バー司法長官は、報告書について4頁にまとめた議会への書簡では、結論のアンダーライン部分を省略したうえで、「法的な結論に達せず、妨害に関する捜査の事実を説明するという特別検察官の決定は、報告書に記載されている行為が犯罪であるかどうかを判断することを司法長官に任せるものである。・・・・・・私と、ローゼンタイン司法副長官は、特別検察官の捜査の間に発見した証拠は、大統領が司法妨害の罪を犯したとする確証を持つには十分ではないという結論に至った」と書いていました。私は、この点について前回のブログで「バー司法長官らが自らを長官に指名した大統領に有利となる方向で結論を出したと疑われても仕方がないのではないか」と指摘しましたが、その指摘が正しかったことが判明したと思っています。
なお、ワシントン・ポストは、モラー検察官は、報告書において10項目にわたり、弾劾の証拠を提示していることを報じています[vi]。詳細について、別の機会にご案内したいと思います。
いずれにせよ、一部を塗りつぶしたものであったとはいえ、モラー特別検察官の報告書の公開は、トランプ氏にとっては政治的に打撃を与える内容であったことは確かなようです。報告書の公表された4月18日の午後と19日午前に行われたロイター/イプソスによる世論調査の結果が4月20日に公表されました[vii]。
トランプ大統領に対する支持率は37%であり、3月25,26日に行われた調査結果43%よりも5ポイント低下し、今年の最低となりました。不支持率は56%となり、3月の54%よりも2ポイントの上昇となりました。
トランプ大統領の弾劾に賛成は40%であり、前回の39%よりも1ポイントの上昇、弾劾に反対は42%であり、前回の49%から6ポイント低下でした。わからないという回答は18%で前回の12%よりも上昇しています。
トランプ大統領は辞任すべきだという回答は47%であり、前回の46%よりも1ポイント上昇、辞任すべきではないという回答は37%であり、前回の46%よりも9ポイント低下でした。
「トランプ大統領あるいはその陣営の誰かが2016年選挙に影響を及ぼそうとロシアと連携したと考える」という意見に同意するかとの質問に対しては、(大いに・どちらかといえば)同意するが50%であり、前回の48%よりも2ポイント上昇、(大いに・どちらかといえば)同意できないが34%であり、前回の40%よりも6ポイント低下でした。
「報告書はどのようにあなたの考えを変化させましたか」という問いについては、「どちらかというとトランプ大統領あるいはその身近にいる誰かが法を破ったと考える可能性は高い」という回答は68%であり、前回の49%からは19ポイント上昇、「どちらかというとトランプ大統領あるいはその身近にいる誰かが法を破ったと考える可能性は低い」という回答は28%であり、前回の41%よりは13ポイント低下しています。
部分的に削除されたモラー報告書でしたが、下院民主党議員の多くは、この報告書をトランプ大統領の司法妨害等の不正行為に対する議会側の追求のためのロードマップを示したと受け止めているようです。民主党側の追求が弾劾まで発展するか否かについては、現時点で、民主党内が弾劾を進めるべきだとする側(2020年大統領選挙の民主党予備選挙に名乗りを上げているウォーレン上院議員、フリアン・カストロ氏等)と、2020年選挙までトランプ氏の不正に関する情報を洗い出すために追及をすべきとする側(ペローシ下院議長等)で割れている状況であり、予断は許しません[viii]。
その後の新たな展開として、下院司法委員会ナドラ―委員長は、すでに5月2日に予定されているバー司法長官の委員会での証言とその後のモラー特別検察官の証言に加え、4月22日、上記した元ホワイトハウス法律顧問ドン・マクガーン氏に資料提出(5月7日まで)と委員会での意見聴取(5月21日)を求める召喚状を発行しました[ix]。
同召喚状の発行に際してのプレス・リリースにおいて、「特別検察官報告書は、大統領が司法妨害とその他の多くの権限乱用を行ったことについての実質的証拠を示した。今や、違法行為の全範囲を議会自身が定め、我々自身の監督、立法そして憲法上の説明責任の責務を遂行するためにどのような措置を講ずるかを決定することは連邦議会の責任である。・・・・・マクガーン氏は、モラー報告書に記載されている司法妨害とその他の違法行為の疑いのある多くの例についての重要な証人である」と、ナドラー委員長は述べています[x]。
特別検察官報告書の公開は、米国政治に新たな展開をもたらす契機となったようです。
[i] The Special Counsel’s investigation did not find that the Trumpcampaign or anyone associated with it conspired or coordinated with Russia inits efforts to influence the 2016 U.S. presidential election.
[ii] The investigation also identified numerous links between theRussian government and the Trump Campaign. Although the investigationestablished that the Russian government perceived it would benefit from a Trumppresidency and worked to secure that outcome, and that the Campaign expected itwould benefit electorally from information stolen and released through Russianefforts, the investigation did not establish that members of the Trump Campaignconspired or coordinated with the Russian government in its electioninterference activities.
[iii] The President’s efforts to influence the investigation were mostlyunsuccessful, but that
is largely because the persons whosurrounded the President declined to carry out orders or accede to hisrequests.
[iv] On June 14, 2017, the press reported that the President was beingpersonally investigated for obstruction of justice and the President respondedwith a series of tweets criticizing the Special Counsel’s investigation. Thatweekend, the President called McGahn and directed him to have the SpecialCounsel removed because of asserted conflicts of interest. McGahn did not carryout the instruction for fear of being seen as triggering another Saturday NightMassacre and instead prepared to resign. McGahn ultimately did not quit and thePresident did not follow up with McGahn on his request to have the SpecialCounsel removed.
[v] Because we determined not to make a traditional prosecutorialjudgment, we did not draw ultimate conclusions about the President’s conduct.The evidence we obtained about the President’s actions and intent presentsdifficult issues that would need to be resolved if we were making a traditionalprosecutorial judgment. At the same time, if we had confidence after a thoroughinvestigation of the facts that the President clearly did not commitobstruction of justice, we would so state. Based on the facts and theapplicable legal standards, we are unable to reach that judgment. Accordingly,while this report does not conclude that the President committed a crime, italso does not exonerate him.