アメリカ政治の断想(11)‐ロシア疑惑捜査報告書の司法長官による取り扱いに対する問題点の浮上と激しくなる連邦議会民主党による追及
モラー特別検察官によるロシア疑惑と司法妨害の捜査が終結し、モラー特別検察官のチームによる捜査に関する報告書のバー司法長官による結論部分の要約が発表され、トランプ大統領サイドでは、疑惑が解明され、容疑が晴れたとして2020年の大統領選に弾みをつけたい構えであるように受け止められています。日本国内での受け止め方もそれに近いものが大方であるかのように思われます。しかしながら、司法長官による同報告書の取り扱いについての問題点も浮上しています。はたしてそのような受け止め方は正しいのでしょうか。以下、これまでの経緯を検証してみます。
モラー特別検察官のロシア疑惑と司法妨害に関する捜査が終結し、その報告書がバー司法長官宛に提出されたことを同長官が連邦議会関係者に通知したのは、3月22日でした[i]。その通知を受けて、議会側はその報告書に関して全面的な公開の即時開示を求めました。これに対し、バー司法長官は、全面公開はできないとして、取り急ぎ結論部分に関して、3月24日に4頁の書簡にまとめ、議会に通知し、それを公開しました[ii]。
その書簡の重要なポイントは、いくつかあります。
第一に、ロシア政府による2016年大統領選挙への介入にトランプ氏本人あるいはトランプ氏の選挙陣営が共謀したか否かに関する捜査の結果についてです。
「特別検察官の捜査は、2016年大統領選挙におけるロシアの介入を認定したが、トランプ氏と同氏の選挙陣営のメンバーがロシアの選挙への介入活動でロシア政府と共謀し、あるいは調整をしたことについて立証していない」とバー司法長官は述べています。
すなわち、特別検察官は、ロシア政府との共謀や調整があったかどうかは立証できなかったということをバー司法長官が認定したということです。これを疑いが晴れたと受け止めるのか、まだその疑いが残されていると受け止めるかは、その立場によって意見が異なることになると思われます。
第二に、その捜査に関連したトランプ大統領による司法妨害の疑いについてのバー司法長官の判断です。
同司法長官は、「特別検察官の報告書は、この問題に関する両方の証拠を示し、『法律上の困難な争点』と特別検察官がみなしているものと大統領の行動と意図を妨害とみなすことができるか否かということとに関する事実とを未解決にしたままにした。特別検察官は、『この報告書は大統領が罪を犯したと結論づけるものではないが、彼の無実を証明したものではない』と述べている」と同書簡で議会側に伝えています。
そして、「法的な結論に達せず、妨害に関する捜査の事実を説明するという特別検察官の決定は、報告書に記載されている行為が犯罪であるかどうかを判断することを司法長官に任せるものである。・・・・・・私と、ローゼンタイン司法副長官は、特別検察官の捜査の間に発見した証拠は、大統領が司法妨害の罪を犯したとする確証を持つには十分ではないという結論に至った。私たちの決定は、現職の大統領に対する起訴と刑事訴追に関する憲法上の配慮に基づくことなく行われた」と続けています。
つまり、「モラー特別検察官は、『この報告書は大統領が罪を犯したと結論づけるものではないが、彼の無実を証明したものではない』と述べている」と司法長官は断言しているにもかかわらず、トランプ大統領が司法妨害を犯したとする確証は得られなかったとの結論を、バー司法長官とローゼンスタイン副長官の2人が認定したということです。言い方を変えるなら、モラー特別検察官が両サイドの証拠を示していることを明らかに利用して、バー司法長官らが自らを長官に指名した大統領に有利となる方向で結論を出したと疑われても仕方がないのではないかということです。
さらに、「私たちの決定は、現職の大統領に対する起訴と刑事訴追に関する憲法上の配慮に基づくことなく行われた」と述べている点も気になるところです。現職の大統領に対する起訴と刑事訴追に関する憲法上の配慮なしに司法省がその決定を行ったのであれば、憲法上の配慮をすべき責任と役割は連邦議会にあることになり、連邦議会はその責任を果たすためにも、モラー・チームの報告書の全容を知る必要があると考えるのは当然のことのように思われます。
このようなバー司法長官によるモラー報告書の問題性をはらんでいる要約の公表を受けて、トランプ大統領は、さっそく同日、ロシア疑惑と司法妨害に関する疑惑について、「共謀なし、司法妨害なし、完全に容疑が晴れた! アメリカをずっと偉大な国に!」とツィートしています[iii]。
しかしながら、連邦議会下院サイドは、バー司法長官によるモラー報告書の取り扱いに関して全く納得はしておらず、一斉にモラー報告書の全面公開を要求する展開になっています。3月24日、ペローシ下院議長とシュマー民主党上院院内幹事は、モラー氏の調査に対するバー氏の偏見の公的な記録に鑑みるなら、同氏は中立的な観察者ではなく、モラー報告書についての客観的な判断を行う立場にないと指摘、さらに議会各委員会がモラー報告書の提起する問題に対処するための監督・立法行動を含む独立した作業を進めることができるよう、付属書類を含む報告書が必要であると共同で声明を発表しました[iv]。また、3月25日には、下院の司法委員会、監査・政府改革委員会、情報委員会、金融サービス委員会、歳出委員会そして外交委員会の6委員会が各委員長の連名で、4月2日までに、報告書を全面公開することを要求する書面をバー司法長官宛に提出しました[v]。
これに対して、3月29日、バー司法長官は、①法律によって公表が許されていない材料、②機微な情報源等に打撃を与える可能性があると情報機関コミュニティが判断する材料、③特検察官が司法省の他の部門に委ねたものを含む他の捜査に影響を及ぼす材料、④周辺の関係者の個人的プライバシーと評価を不当に侵害する情報を特定し、消去する過程にあり、同報告書がほぼ400頁(表や付属文書を除く)あるため、遅くとも4月半ばまでに開示すると議会に回答をしています[vi]。
一方で、民主党サイドは、下院6委員会委員長名で、4月2日までにモラー報告書の引き渡しが行わなければ、4月3日にも下院司法委員会が報告書の議会への提出を求める召喚状(subpoenas)の発行をナドラー委員長に許可することを審議に入ること等をあらためて4月1日にバー司法長官に通告し[vii]、同4月3日には、実際にこれを24対17で可決しています[viii]。
そのような状況下で、4月3日、ニューヨークタイムズ[ix]とワシントン・ポストが、モラー特別捜査官のチームで捜査を実際に担当した捜査官のうち数名が、特別検察官の報告書は、バー司法長官が議会に提出した4頁の要約版の内容よりもトランプ大統領にとってはるかに打撃となるものであると関係者に話していることをそれぞれ報じています。特に、ワシントン・ポスト[x]は、モラー・チームの捜査官らが彼らの収集した妨害に関する証拠は憂慮すべき、重要なものであり、また、バー司法長官が示唆したもよりもはるかに深刻なものであると関係者に話していると報じています。また、特別検察官チームは、報告書の概要を公表に備えて作成していたが、バーが彼らの作成した概要を公表しなかったことに特に失望したとも述べています。
このような報道を受けて、ナドラー下院司法委員会委員長は、バー司法長官宛に、4月4日に書簡を送付し、これらの特別検察官チームが作成した要約版も直ちに公開することを要求しました[xi]。その内容は、以下のような指摘と要求とになっています。
〇 モラー特別検察官の報告書についての貴職による取り扱いに関する厄介な新聞報道に関し、特別検察官によって作成されたと思われる、同報告書に含まれているいずれかの「要約版」を直ちに公表することを要請する。
〇 ニューヨークタイムズとワシントン・ポストの両紙が、特別検察官チームのメンバーが特別検察官の捜査結果を要約したバー長官の3月24日付書簡に関して懸念を表明して いると報じている。ポスト紙は、「(司法)妨害について彼らが収集した証拠は憂慮すべきものであり、重要なものであるとモラー・チームのメンバー(複数)が彼らの親しい仲間に不満を告げた」と書いている。
〇 これらの記事は、特別検察官が公表されることを意図して自ら要約版を作製していたが、バー司法長官が自身の要約を重視して特別検察官チームア作成した要約版を公表する留保することを選択したことを示唆している。「チームのあるメンバーは、特別検察官チームが公表されるであろうことを意図して作成した報告書の様々な部分に関する要約した情報をバー氏が開示しなかったことに格別失望した」とポスト紙は報じている。
〇 実際に、ポスト紙では、ある米国政府高官が「モラー・チームはその情報が国民に公開されることを想定していた。そこで、『彼らは彼ら自身の言葉で共有されることとなる彼らの要約版を作成した。実際のケースで判明したような、彼らの仕事についての司法長官による要約版を想定はしていなかった』」と発言している。
〇 バー長官の3月29日付の上院と下院の双方の司法委員会委員長宛書簡で、バー長官は、報告書が公開される前に適切な消去を行うプロセスにおいて特別検察官が「協力しつつある」と述べていた。これらの最近の報道記事が正確であり、かつ、特別検察官のチームが必要のあった場合に最小限の消去を行う形で要約版を作成したのであれば、これらの要約版はできるだけ速やかに公表されるべきである。
〇 この(モラー・チームの既に作成している要約版を提出すべきという)行動は、4月1日付の当職らの書簡で明らかにした理由すべてにより、完全で消去が行われていない報告書とそれを裏付ける証拠を連邦議会に提供することに代わるものではないこと、また、連邦議会は、記録全体に対する権利を有している。
〇 連邦議会は、できる限り多くの情報を国民と共有する共通の義務を負っており、さらに、特別検察官の要約が3月24日に提供したバー司法長官の作成した要約に合致するものであるなら、バー司法長官が今後証言に立つときに論じたいと下院司法委員会が希望している大きな懸念を低下させることとなるであろうと思われる。
〇 モラー氏の説明と貴職の説明との間に大きなずれがあるのかないのか、アメリカ国民はそれについても知る権利がある。
〇 司法省の今朝(4月4日)のプレス声明は、これらのモラー・チームが作成した要約版の存在を否定していなかったことは重要である。司法省は、単に「『秘密報告書』のすべての頁が『(大陪審の)刑事手続きに関する連邦規則6(e)条[xii]に基づき保護される資料を含んでいる可能性がある』というマークが付けられていたことを示唆したが、実際にこれらの要約版が経験を積んでいる検察官によって公表されることを意図して作成されたものであるなら、予防的に警戒したマークを付けたことが、非常に短期間での公表の障害となるはずはない。
〇 特別検察官チームと司法長官との間で意見の不一致があることが報じられたことを踏まえ、議会側は、連邦議会に対する特別検察官の報告書の連邦議会への開示と国民への公開に関するもの、さらに特別検察官が達した主要な結論と彼の捜査の結果を要約すると主張した司法長官の3月24日の書簡に関するものを含む、特別検察官のオフィスと司法省との間の報告書に関するすべてのコミュニケーションを司法長官が作成することを要請する。
〇 報告書の刑事手続きに関する連邦規則6(e)条の対象となる審査を特別検察官のオフィスが完了した場合、ナドラー委員長にそのことを通知すると3月27日の電話会議で司法長官が示唆していることから、そのことがすんだのか否か、まだ済んでいないならいつその審査は終了するのかを連邦議会に通知することを要求する。
〇 司法省は、4月4日のプレス声明で、「司法省は、報告書が連続的または断片的な形で開示されるべきであるとは考えていない」と述べたが、その内容を選択して開示することは残念ながらすでに起こっている。司法長官は、大統領に関しての報告書の含意を最小に見えるような方法で特別検察官の結論の解釈をすでに提示していると述べ、遅滞なく、要約版を開示することが、アメリカ国民が事実に関し自ら判断することを可能にする第一歩である。
ナドラー下院司法委員会委員長は、このようにバー司法長官に対して、モラー報告書の即時全面開示の要求に加えて、既に存在していると報じられているモラー・チーム作成の要約版と同チームと司法省との間のすべてのコミュニケーションを司法委員会に提出することも新たに要求しました。連邦議会は、司法省に対しては、議会での予算審議の中での追求権を有していますが、さらに宣誓の上での証言や書類の提出を命じることのできる召喚状の発行権限をナドラー委員長に新たに付与しています。
当面注目されるのは、議会民主党側があくまでモラー報告書の全面的な公開を要求し続け、司法省長官がこれを拒み続けた場合、これに対して議会民主党側はどのように対応してくことになるかというなるものと思われます。
4月9日火曜日、バー司法長官は、下院における司法省の予算に関する委員会に出席し、モラー報告書全部を議会に提出することをはっきりと拒否し、「1週間以内に」公開できない部分を削除したバージョンを提出できるだろうと述べています[xiii]。今後、民主党側がこれにどう対応するのか、召喚状を突き付けてあくまでも全面公開を求めていくのか、注目されるところです。