本ブログ7回目は、トランプ大統領の「国境の壁」建設費をめぐる動きの今後と「緊急事態宣言」の可能性とその問題点について報告します。
1月25日、トランプ大統領は、過去最長となった連邦政府の一部閉鎖を解除し、その原因となっていたメキシコ国境での壁建設費を含まない2月15日までのつなぎ予算を受け入れることを決め、署名しました。しかし、政府再開を発表するに際して、トランプ大統領は、「我々は、強固な壁か鉄製の障壁を建設する以外に選択肢はない。議会が公平な合意を得ることができなければ、政府は2月15日に再び閉鎖するか、法律や合衆国憲法で認められている緊急事態に対処する権限を行使する」と発言しています。[i] 今回の合意に伴って、国境警備問題については超党派の委員会での検討が行われることになっていますが、トランプ大統領は、あくまで国境の壁あるいは障壁にこだわる姿勢を堅持しています。
1月29日に予定されていたがペローシ下院議長の要請で延期されていた上下両院合同会議でのトランプ大統領の一般教書演説は、ペローシ下院議長が1月28日月曜日に送った書簡に応じる形で、2月5日火曜日に開催されることとなりました。[ii]トランプ大統領は、この一般教書演説という晴れの舞台を利用して、これまでの大統領としての実績を強調しつつ、再度内外に国境の壁建設予算の重要性を強調し、2月15日までに、議会サイドで壁建設についての何らかの合意を取り付けようとするものと思われます。
しかしながら、民主党側は、民主党が同意する国境警備問題(テクノロジーの高度化等)については大統領と交渉する意向があることを表明しましたが、そもそもトランプの壁についての資金は今後も受け入れるつもりはないという姿勢です。ペローシ下院議長は、自身の壁についての姿勢はずっと明確だった、と述べています。[iii] したがって、民主党側には、国境の壁の建設について、妥協する余地はないように思われます。また、共和党側にも壁の建設を求めて政府機関の閉鎖を再度強行することには抵抗感があることから、2月15日までにトランプ大統領の要求している壁の建設を受け入れることのできる合意が成立することはかなり低いように思えます。
そうすると、この事態へのトランプ大統領による対応は、これまでも何度か発言して、実際に行使することを取りやめている緊急事態宣言による大統領権限の行使という手段を使ってでも壁の建設を強行するという戦略を行使するということになる場合もありそうです。これは、政府機関再開を求める世論に対してトランプ大統領が譲歩したことを強く批判している強硬派[iv]に対して、トランプ大統領が、民主党の反対があってもあくまで一貫して壁の建設を追及しているということを誇示することになり、自身の支持層に対するアピールともなり得るからです。
では、現在の状況下で、トランプ大統領が緊急事態を宣言し、国境の壁を建設することには法律的問題はないのでしょうか?ブレナン・センターの「自由と国家安全保障プログラム(Liberty and National Security Program)の共同ディレクターであるエリザベス・ゴイティン女史は、The Atlanticsにおいて、この問題について、以下のように論じています。[v]
[米国大統領は、1976年に連邦議会が成立させた「国家緊急事態法」に基づき、国家緊急事態を宣言する広範な権限を有している。国家緊急事態を宣言した後、大統領は、これまで数十年間にわたり制定されてきた法律の123箇条に規定されている特別の権限を行使することが可能になる。これらの法律は、軍の展開、農産物輸出、エネルギーの生産等政府のすべての領域にわたる大統領による行為の根拠となっている。患者が自らの意思を知らせることができないときに、極端な状況の範囲の中で医師が行うことのできる具体的な措置について患者が明記しておく事前医療指示(advance medical directive)のように、同法で定められているこれらの権限は、事態が急速に進展していることから、連邦議会が対応をすることができないような危機において、どのような権限を大統領が必要とすると思われるかということに関して、連邦議会が最も合理的な推測を行って定めている権限を表している。
したがって、緊急時の権限は、大統領が連邦議会を回避することを認めるためのライセンスではない。逆に、国家緊急事態において大統領が行使できる権限は、連邦議会が付与した権限だけなのである。これらの権限がいかに協力であろうとも、すべてのケースにおいて大統領の権限は、立法府による委任(legislative delegation)によるものであり、真の緊急事態が即時の行動を必要とすることから、前もって付与されたものでしかない。したがって、連邦議会がその意思を表明する十分な時間を有しているような状況下で、連邦議会の意思を妨害するために緊急事態権限を行使する大統領とは、意識を持っており、明確に救命されることを要求している患者に対して、救命措置を否定する事前医療指示に従おうとしている医師のようなものである。
トランプ大統領は、連邦議会に議論を行い、審議を行い、投票する機会を与えるべきであり、そのような観点からは、連邦議会にその機会を与えたという意味では正しいことをした。しかし、連邦議会が壁建設資金を予算化することに引き続き反対している場合、それは米国憲法が大統領に対して尊重することを命じている決定なのである。国家緊急事態法は、決して連邦議会を自らの意思に屈服させることができない大統領が利用することのできる憲法上の次善の策であることを意図して制定されてはいないのである。]
エリザベス・ゴイティン女史はおおむねこのように述べており、トランプ大統領は、連邦議に壁建設に対する予算を配分しないという決意を確立するため十分な時間を与えており、緊急行動に関する合法的な正当化を失っていると同時に、憲法の意図する立法府と大統領との間のバランス・オブ・パワーを覆そうという意図を明らかにしているとしています。
このようにみてくると、トランプ大統領が最終的に緊急事態宣言を行い、国境の壁建設を強行しようとしていることは、明らかに本来的な緊急事態への対応のための正統な大統領の行為ではなく、国家緊急事態法の趣旨にも反しているのではと思われます。したがって、トランプ大統領が実際に宣言を行い、何らかの具体的行動をしようとしても、これを差し止めようとする訴訟が提起され、最高裁判所での決定に時間がかかることが想定されることから、当面、壁建設が実際に実行される可能性は低いものと思われます。しかしながら、トランプ大統領は、緊急事態宣言をすることで自らの支持層に自らの強硬姿勢をアピールすることから、メンツを保つことのできる出口を確保することになるのかもしれません。
[iv] https://www.washingtonpost.com/technology/2019/01/25/trump-caves-or-genius-right-wing-splits-after-trump-ends-shutdown-with-no-wall-funding/?utm_term=.a2b3d687cf52&wpisrc=nl_most&wpmm=1
Drudge Report、保守系政治解説者アン・コールター、ブライトバート等が壁建設の公約違反だとしてトランプ大統領を批判しています。