1話 結晶感染

廃教会を出た翌朝。

アルとルナは、
王都から離れた交易都市《ヴァルネス》へ向かっていた。

人混みに紛れ、
追跡を撒くためだ。

しかし街へ近づいた瞬間、
異様な光景が広がっていた。

城壁の一部が、
紫白い結晶に覆われている。

兵士たちは避難誘導を行い、
街中には怒号と悲鳴が飛び交っていた。

「結晶災害だ!!」
「感染者を隔離しろ!」

ルナの顔が青ざめる。

「……また」

アルは街を見つめる。

空気中に漂う濃密な魔力。

森で見たものより遥かに深刻だった。

その時。

街の奥から爆音。

巨大な結晶柱が空へ突き刺さった。

同時に、
魔物化した人間たちが暴れ始める。

「人が……変異してる……?」

アルは息を呑む。

皮膚が結晶化し、
瞳が紫色へ染まった住民たち。

彼らは苦しみながら、
理性を失っていく。

ルナは震えていた。

「私のせいだ……」

だがアルは首を振る。

「違う」

「でも――」

「お前一人で、街全体をこうできるわけがない」

アルは周囲を観察する。

結晶化は、
街の中心から広がっていた。

つまり原因は別にある。


2話 災害級個体

アルたちは街の中心部へ向かう。

そこで見たものに、
二人は言葉を失う。

巨大な結晶樹。

まるで生き物のように脈動し、
街全体へ結晶を広げている。

そしてその根元には――

黒衣の男。

廃教会を監視していた、
紫結晶の男だった。

男は静かに笑う。

「初めまして、器」

ルナが怯える。

アルは前へ出る。

「お前が原因か」

「半分正解だ」

男は指を鳴らす。

次の瞬間。

結晶樹が裂け、
内部から巨大な怪物が現れる。

人型。

だが全身が結晶で構成され、
内部には無数の人間の顔が浮かんでいる。

「……なんだよ、これ」

男は愉快そうに答える。

「失敗作の集合体だ」

ルナが目を見開く。

「失敗作……?」

「結晶適合実験の成れの果てだ」

怪物が咆哮する。

街が揺れる。

その魔力量は、
これまでの暴走個体を遥かに超えていた。

男はアルを見つめる。

「見せてみろ。“対災厄因子”の力を」

アルの表情が変わる。

「……何を知ってる」

だが男は答えない。

怪物が突進。

戦闘が始まる。


3話 崩壊都市

怪物の一撃で、
建物が吹き飛ぶ。

アルは《マナ・バースト》を発動。

超高速で斬撃を叩き込む。

しかし。

刃が通らない。

結晶装甲が瞬時に再生する。

「再生速度が異常すぎる……!」

怪物は結晶砲撃を放つ。

紫閃光が街を薙ぎ払う。

アルは住民を庇いながら回避。

だが被害は広がっていく。

その時。

王国騎士団が到着した。

白銀鎧の精鋭部隊。

指揮を執るのは、
若き女騎士団長――セリス。

長い黒髪と鋭い赤眼を持つ剣士。

彼女はアルを見つけるなり剣を向ける。

「魔法剣士アル!」

周囲の騎士たちが包囲する。

「その少女を渡してもらう!」

だが次の瞬間。

怪物の咆哮が響いた。

結晶波動。

騎士たちの一部が瞬時に侵食される。

「なっ……!」

隊列が崩壊。

怪物は無差別に暴れ始める。

セリスは舌打ちした。

「こんな時に……!」

アルは低く言う。

「敵は俺たちじゃない」

セリスは険しい顔でアルを見る。

だが怪物は待ってくれない。

街が壊され、
人々が逃げ惑う。

セリスは剣を構え直した。

「……一時共闘だ」

アルも頷く。

二人の剣士が同時に駆け出す。


4話 共鳴

アルとセリス。

二人の連携は凄まじかった。

セリスの高速剣技が装甲を削り、
アルの魔法剣が内部を破壊する。

しかし怪物は再生を続ける。

終わりが見えない。

その時。

ルナが結晶樹を見つめながら呟く。

「……あれが核」

アルが振り返る。

ルナの瞳が、
淡い紫白に光っていた。

「わかるのか?」

「うん……声が聞こえる」

ルナは苦しそうに胸を押さえる。

結晶樹から、
無数の悲鳴が響いていた。

“助けて”

“苦しい”

“終わらせて”

実験体たちの残留思念。

ルナは涙を流す。

「この人たち、まだ中にいる……!」

アルは決断する。

「核を壊す」

セリスが驚く。

「正気か!? 街ごと吹き飛ぶぞ!」

アルはルナを見る。

「できるか」

ルナは震えながら頷いた。

「……やる」

その瞬間。

ルナの魔力がアルへ流れ込む。

紫白と金青白。

二つの魔力が共鳴する。

アルの剣が、
これまで以上の輝きを放った。

黒衣の男が初めて動揺する。

「まさか……共鳴した?」

アルは地を蹴る。

超加速。

空間すら歪む速度。

「《ブレイドソード・ルミナス》!!」

光刃が結晶樹を貫いた。

巨大な閃光。

次の瞬間。

怪物も結晶樹も、
一斉に崩壊を始める。

街に静寂が戻る。

結晶化した住民たちも、
ゆっくり元へ戻っていった。

アルは剣を突き立てながら膝をつく。

限界だった。

ルナが駆け寄る。

「アル!」

だが遠くでは、
黒衣の男が笑っていた。

「素晴らしい……」

男の身体は結晶へ変化し始める。

「やはり器は本物だ」

セリスが剣を向ける。

「貴様、何者だ!」

男は最後にルナを見た。

「もうすぐ“門”が開く」

次の瞬間。

男の身体は砕け散り、
紫結晶となって消滅した。

残されたのは、
不気味な言葉だけ。

“門”。

それが何を意味するのか、
まだ誰も知らなかった――。