親父の胸倉を離すと、母ちゃんの泣き声を背中に、
そのまま家を飛び出した。

考えてみると、
今日、親父は、一言もしゃべらなかった。

いや、今日だけじゃない、あの日以来、
親父の言葉をまともに聞いた記憶がない。

僕が、一人で、親父を攻め続け、
最後に言ってはならないことを言ったのだ。

『親父さえいなっかたら・・・』

言ったというよりも、気づいたら、つぶやいていた。

その瞬間、今まで、聞いているのか、いないのか、
呆然と座っていた親父が、立ち上がって、
躊躇いも無く、僕を殴ったのだ。

僕は、人が、冷静に、怒りを露にする様を初めて見た。




親父に殴られたのは、別に初めてのことじゃない。

小さいころから、何かとよくビンタされたし、頭を叩かれた。

殴られたのは、初めてじゃない。

しかし、拳で殴られたのは、初めてだった。

おいおい、もう28歳だよ。28歳。

28歳にもなって、親父に殴られた。

しかし、28歳だから、ビンタじゃなくて、拳殴ってくれたのかもしれない。

拳で、殴るということは、ある意味、対等である証拠だ。



そして、親父の胸倉をつかんだのも、初めてのことだ。

咄嗟のことで、自分でも、なぜ、あんなことをしたのか良く分からない。

殴られた後、気づいたら、親父の胸倉をつかんでいた。

そう、気づいたら、母ちゃんが、叫んいた。

『やめないさい!もうやめて!』

と。



いつから、こんな関係になってしまったんだろ、俺と親父は。


いや、ごまかすことはない。あれは、半年前・・・


あの忌まわしい、事件があった、その後からだ。