幼かった私は友人に置いていかれた寂しさと知り合いに会えた安堵から、
今にも泣き出しそうだった。
真っ白になってしまった頭に、一つの疑問が激しく点滅する。
(どうして夕子ちゃんがここにいるのだろう?)
夜の森、さらにその奥にある防空壕の跡。
大人だって耐えられない気味の悪さだ。
だいたい悪ガキだった私ならともかく、お嬢様を絵に描いたような彼女にとっては、
この場所はほとほと似つかわしくない場所だった。
「どうしてこんな所にいるんだろう、って思ったでしょ?」
考えを読んだかのように夕子ちゃんが言う。
「うん………それに、その犬………」
「マルって言うの。私が飼ってる犬。夜は誰も遊んでくれないでしょ?
だからマルと一緒にいるの」
地面に置いてある懐中電灯の明りを避けるように、大きな犬が座っていた。
私達を怯えさせた声の正体はマルのものだったらしい。
雑種………だったと思う。暗がりで、しかも犬の種類なんてろくに知らなかった私だ。
彼女の言葉がなかったら、犬と判別することすらできなかったかもしれない。
「私ね、夏休みの一ヶ月くらい前から学校休んでたでしょ。
今は元気だから信じられないかもしれないけど、すごい大変な病気にかかっちゃったの。
後天性……難しい名前だから忘れちゃったけど、お日様にあたると具合が悪くなっちゃうの」
これも大人になって知ったことだが、何万人に一人の奇病だった。
医学が発達した今ですら治療法はない。
可哀想だった。そんな病気にかかったのは彼女のせいじゃない。
「少しづつ………少しづつ慣らしていけば、いつかまた太陽の下でも遊べるよ」
必死だった。
私が夕子ちゃんを好きだったからだけではない。
たった十歳の子供の身体を蝕む理不尽な運命を、子供ながらに憎んだのだろう。
「最初は夕方とか、明け方とか。陽が弱いうちならきっと大丈夫だよ」
困ったように、それでも嬉しそうに微笑んだ夕子ちゃんの顔が忘れられない。
「うん……でも、やっぱり具合悪くなるの怖いから。夜でも私と遊んでくれる?」
私は力強く頷いた。
時間はある。ゆっくり治していけばいいのだ。
そんなふうに考えていた。
秋が来る前に、彼女と別れることになるとも知らずに。
-To Be Continued-