〈ねむりびと〉は誰にとっても見果てぬ夢。
 この見果てぬ夢は一番美しくてきれいな銀の夢。
 それは〈しろがね〉の夢。
 
 〈しろがね〉の夢は〈くろがね〉の無と戦う。

 この見果てぬ夢ははてしのない夢。それは〈まぼろし〉の夢。
 〈ねむりびと〉は誰にとっても見果てぬ夢で、それは夢のまた夢。
 夢見ることさえありえない夢。
 けれどもそれは虚しい夢ではなく実りある夢。
 〈現つ〉へと実現してやがて〈虚ろ〉ではなくなる夢。

 〈無〉が循環して〈無限軌道〉を描く。
 二つの引き裂かれた〈歴史〉と〈人生〉のあいだに
 結び目がある――ノットがある。

 ノットは〈時〉の〈節目〉であり〈否定〉であり〈蓋〉である。
 それは〈否〉を定め、〈無〉に〈蓋〉をして
 〈0〉をふたつにする〈蓋〉である。
 この〈蓋〉によって〈空〉が生まれる。
 〈蓋〉がなければ〈空〉もない。

  この〈蓋〉は〈一〉なるものである。
 そして〈二〉は〈無の蓋〉によってせき止められた〈0〉である。

 ノットによって永劫回帰が創られる。
 この蓋の上にきみは腰掛けて〈歴史〉と〈人生〉の〈間〉を区切っている。

 〈0〉と〈8〉は所詮はむなしい〈記号〉でしかない。
 こんなことに意味があるのかないのか僕には分からない。
 僕は迷いながらこの架空の楼閣を結びながら現実を創造する。
 天地創造は迷いながらの創造でしかありえない。

 このノットの〈結び目〉が僕の〈むすめ〉、エウリュノメ、
 その名の意味は「すべてを呑みほすもの」、
 つまり底知れぬギヌンガガップの虚淵を意味する。

 それは向こう側の〈0〉の宇宙へと見開かれた
 目の裏側の世界に続く秘密のブラックホールだ。
 でも、向こう側を覗いてはいけないので、その目は塞がれて盲い、
 〈8〉の宇宙の方へと飜されて〈ねむりびと〉の〈黒い瞳〉になる。
 それが世界の不可能性の核心。

 それは太陽の占星記号をつくる。
 ラーの瞳、金色の猛禽ホルスの鷹の目だ。
 それが〈無限〉――永劫(アイオーン)の不可能性の核心となる。

 大宇宙の構造の秘密を探ろうと、
 ホルスはそこから天と地に分裂し上下の〈空〉なるものを駆け巡る。
 もちろんエウリュノメが鷹匠で二体を同時に放つのだ。

 彼女自身は何も見ない。使い魔のホルスが目の代わりを努める。
 ホルスは彼女のところに〈夢〉を運んでくる。
 そしてエウリュノメはそれを全て呑みこみ鵜呑みにする。
 餌を運んでくる親鳥を信じて巣のなかで待つ巨大な郭公の雛鳥のように。

 けれどもそれは托卵であり刷り込みなのだ。
 真の親鳥は〈不如帰=時鳥〉であって
 〈空を天翔ける隼〉のホルスたちではない。
 ホルスもエウリュノメも騙されているのだがそれを知らないでいる。

 ホルスたちは瞳を巡らして上下の天空の限界を――〈天蓋〉を捜し求める。
 けれども〈天蓋〉はみつからない。
 〈蓋〉をしているのは、他ならぬ
 それを捜し求める自分の瞳であることに気づかないのだ。

 上下の空なるものの限界と中心核を捜し求めることは空しい。
 けれども天空は蒼く晴れやかであれば美しい。
 それは君の眼球が青く澄み渡っているからだ。

 ホルス=ラーの眼球の核心は暗黒の瞳孔である。
 それはブラックホールで底知れぬ闇の穴に続く。
 それも空なるものであるが真の自我の核心に、
 また大宇宙の炉芯につながっている。

 それは暗黒の〈虚無〉だがその本質は〈火〉でできている。
 黒き火のセトまたの名をスルトという。
 それは大宇宙を生かしているが、
 やがて大宇宙に吹き出して全てを焼き尽くすメギドの火となる。

 それは太陽の真のすがたで、真の意味での太陽黒点だ。
 天文学者がみている宇宙は幻影に過ぎない。
 すべてはホルス=ラーの眼球の核心から投射されるイマージュであり、
 空なる宇宙卵〈0〉の虚妄な天蓋のスクリーンに描き出された壁画である。

 宇宙旅行を夢見ること――それは本当は愚かなことだ。
 きみはどこにも行かない。
 〈壁画〉を見る限り〈時空の壁〉は背景に退いて遠ざかってゆくだけだ。
 きみはそのうつろに留まる。

 けれども星空を愛でるのなら、きみはいつまでも好きなだけそこにいていい。
 これが天空の城ラピュタの掟だ。
 いずれ〈時〉が来ればそれは自然に熟して割れる。
 むやみに急いでそれを破壊しようとしてはいけないし、
 また破壊することもできない。

 〈人生〉が美しいきれいな夢であるなら
 それを汚したり壊したりしてはいけない。

 ハルマゲドンはそこではついには素晴らしい童話に変わる。
 ハルマゲドンとアポカリプスはメールヒェンに仕えるものだ。
 さもなければきみはいつまでも歴史を輪廻転生するだろう。
 愛を捨てるなら、きみは地獄を創り続ける。

 それはいつまでも見果てぬ恐ろしい無間地獄の夢だ。
 けれどもその無間地獄はいつでも止めることができる。
 恐怖の大王はついにはきみの作り出した
 架空の怪物であるに過ぎないのだから。

 きみは無力ではない。美しい夢を意志するのだ。
 すると恐怖の大王はきみの万能の魔法の力の前に崩れ去り、
 天の雲間は晴れて、天空の城がきみを迎えに来る。

 そうやって真の人生を最後まで生き抜いた人は
 その人生でキリストをもブッダをも追い越して〈神〉に近づき、
 宗教という最後の幻影をつきぬけてハルマゲドンの勝者になれる。

 美しい人生、それが本当のハルマゲドンだ。
 魔法はだれにでも使える。なぜというに、
 きみはたったひとりの宇宙の支配者だからだ。

 それは超能力ではない。
 ただ奇蹟は美しい人生のために起こるのだ。

 やがては誰もが〈弥勒〉に達する。そしてそれはきみである。
 きみは主君の〈君〉であり宇宙卵〈0〉の卵央の〈黄身〉なのだ。
 僕は君に仕えるもの、君のために天地を創造し、
 天地を暴く二重神の働きをする。