形而上学的主体性の定位(位置付け position)乃至は定立(thesis)の様式として、次の三つの様態が対比される。

【1】存在論的主体性〈存在者〉を定立するエクスターズ
   (脱魂 extase:ekstasis)
【2】倫理学的主体性〈実存者〉を定立するイポスターズ
   (定礎 hypostase:hypostasis)
【3】様相論的主体性〈背教者〉を定立するアポスターズ
   (隔離 apostase:apostasis)

 これは第一哲学=形而上学は何か或いは何であるべきかについての
 問題設定の討議場での立場(position)の相違をも表している。

 エクスターズ・イポスターズ・アポスターズは、
 いずれも仏語訛りのギリシア語で、
 「立つ(立っている)」を意味する共通の語根〈stase(stasis)〉に、
 それぞれ異なる接頭辞〈ex(eks)外に〉〈hypo 下に〉〈apo 離れて〉が
 ついたものである。

 ギリシア語の接頭辞の多くはラテン語と同様に
 前置詞(pre -positon[前・先に置かれていた場所(前定位)])から
 派生する。

 しかしこの三つのうちで〈eks〉だけは別で、
 副詞(adverbe すなわち動詞 verbe を形容するもの)起源である。
 このことはやがて意味をもってくる。

 ek-, eks-, exo-は副詞語源で「外に、すっかり、外の」を意味する。
 エクスターズ(ekstase, ecstasy)は普通、
 「恍惚」(魂が体外に出ること)を意味する語である。
 これは仏教用語で「解脱」といってもよい。
 哲学用語としては、通常「脱自」
 (自分自身ないしそれ自体から外に抜け出ること)
 と訳され、ほぼ「意識」(対自存在)の同義語として
 サルトル等の実存主義哲学に用いられている。
 
 hypo-は前置詞語源で「下に、不足」を意味する。
 
 apo-は前置詞語源で「…から、離れて、…しまう」を意味する。