トンネル | 不思議、大好き!

不思議、大好き!

文章はすべてフィクション。ほぼ1話完結。

トンネルの中は暗くてジメジメしていた。歩いていると、額から汗が滲んで襟足から玉になって落ちる。着ているTシャツは古い汗と新しい汗でグッタリしていた。

辺りはオレンジ色に包まれていた。自分と自分以外の境界線がハッキリと映し出されている。僕は他の何物とも同化せずにいた。

暗いが夜とは違う。普通、暗さは自分と自分以外の物とを未分化にするが、オレンジ照明はそれを許さない。トンネルとはそういう処で、僕は僕という殻の中から溶け出しては行けない。

トンネルの中でも今日があり明日がある。デジタル時計を見ると、16時14分を知らせていた。脚が自然と前を進むように、刻々と時は前進し続けている。

トンネルの中でも、喫茶店でも、これは変わらない。

でもこういう仮説もある。今いるトンネルという世界の一部分が光速以上で移動すれば、時空が歪み、時は進むスピードを緩め、または止まるか遡るかする。でもそれはあくまで仮説であって、実証されてはいない。

こんなのあまり現実的ではないし、雲を掴むような話だ。あくまで現実とはデカルト座標のような中を進む直線上にある。そして僕には、これ以上の考察は能力を越えていた。

だけどつまり、ここで歩みを止めても、後ろに戻っても、結局はそうした進みの中にいるのだ。暗かろうが、僕と僕以外の物とを隔てようが隔てまいが、そういう現実の中に身を置き、こういう大前提の中で生きるしかないのだと思い知るより他はない。

何台かの車が僕の隣を通り過ぎる。一直線の通り道をすごいスピードで通り過ぎる者もあれば、楽しげな音楽をやかましくならしながらゆっくり通り過ぎる者もあった。僕以外の者は僕とは違う進み方をしている。

無いわけではない。この進みの前提となる知覚を覆す術が本当に無いわけではないのだ。そう思い返す。

トンネルの中は暗くてジメジメしている。こめかみから汗が流れた。新旧相混ざった汗が僕にまとわりつづける。