悪意のない楽しさ | 不思議、大好き!

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文章はすべてフィクション。ほぼ1話完結。

今日さ、新宿で靴を買ったんだ。うん、この靴 。結構まともな造りで、完全防水らしいんだ。

夕方頃、雨がかなり降ってきたでしょ。それで履いてた靴がびしょ濡れになっちゃってさ。気持ち悪いなぁって思ってたら、近くに靴屋があって、なんとなく入ったんだ。

そしたら、すぐに俺より10歳くらい若い男の 子が目に付いたんだよ。

え、何でって?

なんかさ、イケメンというより美男子って感じの男の子だったんだ。もちろん俺はソッチの気はないよ。でもすごく良い笑顔しててさ。

髪は無造作ヘアで色は黒、笑うと口角がキュッと上がってえくぼができんのよ。

そうそう、洗顔フォームのCMに出てきそうな 男の子。

それで、その男の子の仕草がまた変わっててさ 。ずっと横に揺れてるんだよ。まるで愉快なリズムにノってるみたいなんだ。

喋り方も、まぁ揺れてるからかもしれないけど 、リズミカルでさ。

あっ、ううん。若者特有のだらしない感じは受けなかったよ。それはたぶん、様子が楽しそうで、笑顔に清潔感があったからだと思うよ。

でね、なんか色々説明してくれて、その男の子は靴について結構知ってる風なんだけどさ、俺の質問に対する回答の精度が低くて、四割ぐらいしか分からなかったなぁ。

え、確かに俺の理解力のせいかもしれないけどさ、だってメンズの靴の説明で突然レディースの雑誌持ってくるんだよ。それじゃあよくわからねぇって、しかもその靴の写真がすげぇ小さいんだもん。えっ!?、もちろん新宿といえどもその男の子の瞳孔は開いてなかったよ。

そんで始終揺れるから、余計わかんなくてさ。

でもさ、なんか楽しそうなんだよね。だから微笑ましくなっちゃってさ。まぁゴアテックがどうのとか、ビブラムがどうのとか分かんなくてもいいやって思ってさ。

うん、そうだね。おまえの言うとおりだよ。世 の中には2種類の楽しさがある、悪意のある楽しさと悪意のない楽しさ。

その男の子のは悪意がないんだよ。ちゃんと言葉も頑張って敬語つかってくれてるし、清々しい笑顔で対応してくれてるしさ。そして何より、俺に関係なく、純粋に、働いてることや生き てることが楽しいって感じを受けるんだ。

そういうのってあんまりないことだよ。

まぁ彼も実際はそんなに純粋じゃないかもしれない、単純じゃないかもしれない。でもさ、人に生きていることが楽しんだよって自分の姿だけで伝えるってすごいことだよ。映画でさえ、緻密に練られた物語が必要だってのに。

こういう笑顔って俺にもあったのかなって、彼を見ながら思ってた。高校の時はそうだったかもね。そうそう、ゴールデンエイジってやつ。

でもさ、彼は高校生とかの守られた年代や何しても楽しいと思える精神段階はとうに過ぎてるんだよ。学生はまた違う。学生になってバカ騒ぎして楽しんでる連中にはあんな清々しさは出せない。

うん、ひとりいるよ。大学時代のカンがそうだ ね。カンの楽しそうな姿や笑顔は大好きだよ。

カンやその男の子と俺はどう違うんだろうって 考えちゃったよ。うん、そりゃ違うさ、人が違 うんだもん。でもそういう意味じゃなくてさ、 やっぱり人生楽しい方が良いじゃない。

そう、それこそさっき言ったみたいな悪意のない、純粋な楽しさ。誰かを傷つけたり、誰かをバカにしたり、わざとバカやったりして楽しむんじゃなくてさ。それで、それを見た人も楽しい気持ちにさせる人生の楽しみ方、俺に靴を売ってくれた男の子のように、そこにいるだけで人生の楽しみ方がなんとなく分かるみたいにさ。

俺には何が足りないんだろう。何が欠けてるんだろう。一体何が。