オタク8 | クドのわふわふ>ω</ブログ

クドのわふわふ>ω</ブログ

作詞や作詩、たまに小説書いたり論文書いたりしてます

 
 何? 何で? 何このリア充的展開は? そんなに俺のコーディネートが上手だったのか? そうだったら唯、お前良い仕事したよ。
「きゃー、可愛い」「最高にプリティー」
 ………可愛い? プリティー? ピンクを基調とした服でも着させられたか?
「唯、目を開けてもいいか?」
…………嫌な予感がしてきたぞ。
「あははは、良いですよ。ふふふ」
 唯は笑いを堪えられずに笑い入る。
 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクドクドクドク――
 緊張と不安が復活して心臓の鼓動が速くなっていく。
 ゆっくりと、ゆっくりと、恐る恐る目を開く。
 目を開けて左と右を見る。
「……………御月、仔那珂」
 左から御月、右から仔那珂が俺の腕に抱きついていた。最初は何かの冗談と思っていたが幻覚では無いようだ。御月は胸元が開いた白い天使のコス。仔那珂は初○ミクのようなコスプレをしている。二人ともよく似合って可愛い恰好だ。
 そして振り返って唯を見ると、俺を見てまだ笑い入っていた。
 唯のコスプレは………というよりこいつ……らぶ☆メイのメイド服着てやがる。だから選ぶのに時間が掛からなかったのか。納得だ。
 二人に密着されるとトマトのように顔が赤くなる。そして思う。これが夢ならしばらく夢を見さして下さいと。
 そして頬を赤めつつ、近くに鏡があったので俺は自分の姿を確認する。
 まずは俺の姿の両手を見る。左手には黒猫の手袋。右手には白猫の手袋が付けられている。そう、黒白の猫手の手袋
をつけている。
「…………………………」
 次に足を見る。スリッパはもふもふの羊のような素材。そして黒白の長靴下サイハイソックスを履いている。
「…………………………………………………………」
 最後にズボンと服、その他を見る。しかし、俺が穿いていたのはズボンではなく赤のタータンチェックのミニスカート。服は赤と白を基調とした物で胸元に赤のタータンのリボンが付いている。頭にはでっかいピンクリボンと猫耳がついている。更に化粧をして長い睫を付けて本物の女の子のようであった。
「………………………………………………………………………………………………………」
 自分で自分の姿を見た瞬間、顔の火照りは紺碧の表情へと変わる。
「……唯」
「ふふふ、あはは、何ですか?」
 背中を丸め笑入っている唯。ツボに入っているらしい。
「何これ?」
 両手につけている猫手。もふもふ羊のスリッパ。黒白のサイハイソックス。赤のタータンチェックのミニスカ。そしてピンクリボンと猫耳。これら全てが男らしい格好良さから遠ざかっている。
「蓮見さん可愛いですよ。それに良かったじゃないですか。二人に気に入られて」
 反省の色無しで笑い続けるコーディネーター。
 その一言で二人ははっと我に返り、腕に抱きよせていた手を離す。
「いや、これはつい和磨君が可愛くて」「うんうん。別に和磨を気に入った訳じゃないわよ」
 二人は顔を真っ赤にしている。今になって抱きついた恥ずかしさが戻ってきたんだろう。
「…………はあ」
 肩を落として脱力して床に手をつける。
 ついに女装してしまった………はあ、結局二人は俺が好きなんじゃなくて女装した姿が好きってことね………全然嬉しくないです。でも唯との約束事でどんな服でも文句を言わないと誓ったから何も言えないな。
 俺が落ち込んでいると二人はフォロー(?)してくる。
「和磨、そんなに落ち込まないでよ。とても似合っていたわよ。光河くんと同じくあんた女装の才能あるって。だから元気出して」
「和磨君、とても似合っていたよ。あの姿なららぶ☆メイの人気メイドに君臨すること間違いなし! だから元気出してよ」
 二人は多分元気づけようと声を掛けてくれている。しかし、その言葉により俺は更に深い溜息をつく。

「はあ…………」
 これで俺は本当に非オタクと言い張れるのか? 自信なくなってきたよ。
 そんな俺を見て唯が近寄る。
「蓮見さん、今日の女装は完璧でした。私が見込んだだけはありますよ」
「お前な………全く」
 こいつは全然反省していないな。
「どうだ、コスプレは楽しかったか?」
 まあ、こいつが楽しければ結果オーライだろ。
「そうですね。楽しかったです」
「そいつは良かったな」
 そして彼女は口にした。
「だから……お試し期間の延長をお願いします」
 彼女はにっこりと微笑みかける。
「唯………」
彼女がお礼を言った刹那、俺は怒りの感情よりも安心感が高まった。友達は必要ない。いても不になるだけと言っていた彼女が改心したのは俺にとって吉報だった。でもオタクの素晴らしさを俺から学んだのは語弊だぞ。俺は非オタクなんだ。
 どちらにしても彼女の改心には口元が思わずにやけてしまう。
「これからもたくさん遊ぼうな」
「はい、次も違うコスを私が選んでおきます」
「それは止めてくれ」
 「えー」とつまらなさそうに唯は不満の語を漏らす。当然これからは女装する気は一切ない。俺はオタクでも無ければコスプレイヤーでもないんだ。
 そして唯は俺にお礼を言った後、二人にも頭を下げる。
「御月さん、十朱さん、今日は本当に有意義な一日を遅れました。これからもよろしくお願いします」
「うん。バイトでも頑張ってね」
「はい」
「勿論よ。今日が初対面だったけどとても楽に話せた。また遊びましょう」
「はい」
 そしてムードが良い方向へと進んでいき、コスプレ服を元ある場所に戻した俺達は気持ちよく店を出ようとした。
 が、
 仔那珂のある疑問で雰囲気はぶち壊れてしまう。
「そう言えばさ、何で唯と和磨は一緒の試着室から出てきたの?」
「ああ、それ私も気になっていた」
 二人は不思議そうに首を傾げる。
「……………………………………………」
 その疑問が出て数秒後、俺は手が汗ばみ、口がからからに乾燥する。
 唯を一瞥する。すると唯は言い訳をしろと目で訴える。
 ………そうだよな。自然な感じで誤魔化すしかないな。
「それはあれだ。えーと………」
 弁解の語が頭に浮かばない俺。どう言い訳をしても逆効果。選んだコスプレ服を見てもらおうと思った、ではルール違反とされる。だったらどう言い訳を? よし、ここは二次元の言い訳で乗り切ろう。オタクの二人ならこれで流してくれるはず。
「着替えている途中にワープしちゃった♪」
 お茶目な様子を最大に出してウィンクする。
 しかし、オタクの方も現実は見えているようだ。
「何言ってんの、あんた? わーぷ? 馬鹿じゃないの?」
「和磨君、そんなこと言って恥ずかしくないの? ワープなんて非科学的なことは現実で起こらないよ」
 仔那珂は塵虫を見る目。御月は黒い笑顔。
 それならここはこれで乗り切るしかない。
「こんな質問に答えていたら唯の為の秋葉時間が短くなる。だからさっさと秋葉巡りに行こう!」
 ぎこちない笑顔をして二人に説得する。これは言い訳の施しが効かない。だったら話を流して忘れてもらうしかないだろう。
 そして俺と目があった唯は右手拳を上にあげる。
「そうですね。行きましょう。行きましょう」
 その言葉で二人は折れ、同意する。
「そうね、唯の為の時間が勿体無いものね。でも……うーん」
「むう、和磨…………」
 しかし、二人はまだ疑っているのか不満の顔を出し続けた。
 太陽が沈み始め紅に染める頃、俺は重い足を棒のようにして帰っていた。
「ふう、今日は色々と疲れたな……」
 あれから俺達は秋葉原の店を転々と紹介し続けた。疲労は溜まったが試着室の件を言及されなかったのは不幸中の幸いだ。
 自宅が見え始めた頃、俺は後ろから声を掛けられる。
「和磨!」
 声の主を見る為、体ごと振り返る。
「仔、仔那珂………どうしたんだ?」
 振り返るとグッズの袋を片手に持った仔那珂が後ろにいた。
 まさか、唯への秋葉紹介が終わったからって試着室の件を聞きに来たのか?
「あのさ……用があるんだけど」
 頬を紅潮させた仔那珂はやや下を向き話しかける。
 そんな彼女の言動に対して俺は直ぐに頭を下げた。
「ご、ごめんなさい」
「は? いや、何で謝るの?」
 首を傾げる仔那珂。
「え? 違うの? 唯から何も聞かなかったのか?」
「う、うん……」
「じゃあ何の用だ?」
「え、えっとね……」
 言葉を渋る仔那珂。何か言いづらいことでもあるのだろうか?
「仔那珂、どうしたんだ、こんな所で?」
 仔那珂が言い渋っていると、俺の後ろから爽やかな青年の声が掛かる。
 顔を上げると仔那珂は眼を皿にして口にする。
「お……お兄ちゃん………」
「そうだよ。どうしたんだ? こんな所で?」
 振り返ってみると長身の爽やかイケメンボーイが立っていた。確か議員さんだったっけ? でも仔那珂からは苦手意識を持たれている人だよな。
 それにしても仔那珂がお兄ちゃんって呼ぶなんて新鮮だな。
「あなたは誰ですか? もしかして彼氏?」
 先に質問される俺。そしてその答えも自分より先に仔那珂が答える。
「違うよ、お兄ちゃん。その人はクラスメートの子」
「ははは、それは失礼。初めまして僕の名前は十朱修一です」
「ああ、ども。蓮見和磨です」
 萎縮しながらも握手を交わす。
「それよりもどうしたの、お兄ちゃん?」
 ぎこちない笑顔を向け、震える言葉を口から発する。
「ちょっと議会の方針でね。各地に挨拶に行っていたんだよ。議員はたくさんの地域に行かなくては務まらないからね」
「ああ………そうなの」
 彼女はぎこちない笑顔を続ける。平生を保ち続けようとするが明らかに言動がおかしい。
「それよりも偶然会ったんだ。お兄ちゃんと一緒に帰ろう。もう暗くなるからね」
「いや……もうちょっと友達と話していたいし」
「仔那珂、これ以上暗くなったら危ない。だからお兄ちゃんの言うことを聞きなさい。荷物も持ってあげるから」
 そして荷物へと手を伸ばすお兄さん。
「ダメっ!」
 彼女が手を振り払おうとして荷物が地面へと散乱する。
「こらこら荷物に傷がつくだろ……え? 何だ、これ」
 お兄さんは落ちたゲームソフトを手に取る。普通だったら荷物を袋に戻すのだろうが、お兄さんは袋に戻さずに地面へと再び置いた。
 その行動に至った理由は簡単。議員のお兄さんはオタク文化撲滅に表明してオタクが大嫌いだからである。
「「……………」」
 そのお兄さんに俺達二人は言葉が出ず、項垂れることしか出来ない。
 するとお兄さんは、砂埃が付着したゲームソフトをまた手に取り、仔那珂の目の前に立ち見せる。
「仔那珂、これは何だ? BLパラダイス、BL大衆、ムキショタ3・5番外編、これら全て何だ? 何を買っているんだ、お前は?」
「……………………………………………………………………………………………」
 一つずつ手に取り、また所定の位置に戻すお兄さん。お兄さんは声を上げず表情は怒りに満ちていた。
どうする俺?
 どうするって………既に答えは出ているよな。
 当たり前だ。
 女の子泣かせてまで非オタクを語っても何の価値も無い。
 でもこのお兄さん、議員さんだから引っ込みようにないな。議員は例え自分の意見が間違っていてもその時は変えようとしない。
だからそのゲームを残す手段はこれしかない。
「お兄さん、さっきから何を言っているんですか?」
「は? だからこれらのゲームやグッズを全て処分すると言っているんだ」
 お兄さんは正しい。百%正しい。仔那珂のことをどう言おうがこれらを捨てる判断は変わらないだろうな。
 先に謝っておく。すみません、お兄さん。この嘘だけはお兄さんにも自分自身にも使いたくなかった手段なんだ。
「お兄さん、さっきから何言ってんの? 何で俺のゲーム捨てられなくちゃいけないんだよ?」
「はあ? 何を言っているんだ? これは仔那珂の物だろう?」
 お兄さんは頭に疑問符を何個も浮かべ困惑している。
「違う。俺の」
 自分に指を差す俺。
「じゃあ何で仔那珂がその荷物を持っていたんだ? これはこの子のだからだろ」
「持たせていたんだよ。重いから」
「女の子である仔那珂に持たせていたのか?」
「うん。重いからな」
 とんでもないことをしれっと口にする。
「なっ!? 君、女の子に荷物を持たせたのか。いや、それよりも――」
 議員のお兄さんは顔に縦線を引く。そして恐る恐る質問した。
「――君はホモなのか?」
「はい!」
 スポーツ少年のように元気よく答える。するとお兄さんは口をカタカタ震わせて肩が上に上った。
 勿論今の言動はフィクション。そして俺は嘘で塗り固められた言葉でお兄さんに止めを刺す。

「ちなみに俺お兄さんがタイプ。試食しても良いかな?」

「…………………………………な、何を?」
「お兄さんを」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ」
 お兄さんは一瞬にして顔を真っ青にし、仔那珂を連れて帰ろうとする。
「仔那珂、こいつは危ない。直ぐに帰ろう」
 そんなお兄さんに詰め寄る俺。
「大丈夫ですよ。俺女に興味一%もありませんから」
「はあ、近寄るな。近寄るな。このホモ野郎」
 お兄さんは地面に背中をつき俺が密着する。大変汚い絵面である。
「お兄さん、もしもオタク文化廃止が決定したら、俺とホモ仲間が全員お兄さんを奪いにいきますから」
 顔を近づけると、お兄さんは全力で俺を引き剥がして全力疾走で逃げる。
そんなお兄さんの問いに仔那珂は黙って下唇を噛んでいた。
「仔那珂、黙っていないで答えなさい」
 怒りに満ちた小さい声が仔那珂に掛かる。仔那珂はまたしても質問に答えない。
「ふう………仕方ない。君は何か知っているかい? 和磨君?」
「……………………………………」
 無言で俺は何も答えない。というより答えられなかった。お兄さんの眼力は凄く俺に喋らせる権利さえ奪ってしまった。
「まあいいや。他人にまで家庭を持ち込めるのは得策では無いな。それによくよく考えれば仔那珂の持っていた袋からこれらが出てきた。これは仔那珂のだろうな。仔那珂いい加減話せよ」
「「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」」
 長い沈黙が続く。いや、実際は短かったのかもしれない。しかしその時間は永遠にも感じられるほど長かった。
 そして沈黙を破ったのはやはりお兄さんだった。
「がっかりの言葉に尽きるな。兄をやってきて今までで一番お前に落胆させられた」
 お兄さんが心に突き刺さる発言をする。言われた本人の仔那珂は目を強く瞑り、必死で拳を固め、歯を食いしばっている。
 しかし、そんな妹の様子に関係なく話を続けるお兄さん。
「仔那珂、お前は本当に愚妹だ。謙った言い方でなく、本当に愚かな妹。何で分らないかな? 兄と父が議員でオタク文化を消そうとしているのにそれに反発したようにオタクになるとは最悪だ―――」
「うぅ………ぅぅ……………」
 彼女は必死で我慢をする。お兄さんの言葉の途中に漏れている声は聞いていて気分が優れなかった。
「―――二次元に執拗して馬鹿なのか、お前もあいつらも? ただの絵じゃないか。そんな物に何の魅力がある? そしてああいう馬鹿共が罪を犯し人の道に反した行動ばかり取る。お前も同じだよ。仔那珂。本当に失望した。他にもたくさんあるぞ―――」
 お兄さんはまだまだオタクへの批判を続けようとする。
 この話は俺に関係ない。何故なら俺は彼女と違いオタクでないから。逆にこれは良い機会なのかもしれない。無関係の態度を取り続けてもうオタクとは縁のない生活を送ることが出来る。元の生活に戻れるかもしれないんだ。
 彼女は見ると目を強く瞑っていた。しかし、涙を止めることは出来ずに地面へと大粒の涙が零れていく。
 学校では傲慢でいつも強気な彼女が涙を流している。
 あのいつも強気な彼女が。泣いている。
 でも知ったことか。俺には関係がない。関係がないんだ!

「黙れ! もうそれ以上口にするな、ゴミ野郎!」
 
 『関係ない』そう思っている頭とは違い口と体が勝手に動いていた。
「んなっ………き、君には何一つ関係のない話だろ」
「関係ないか………じゃあお前には何の関係があるんだよ」
「なっ、お前だと……僕はこれに大いに関係がある。僕はこのオタク文化廃止に議員として賛成の意を表明しているんだから」
「えっ、何だって!? あんた議員さんだったのか!?」
 敢えて驚いた表情を見せる俺。実際このお兄さんが議員さんだとは仔那珂にも聞いている。だが今は知らないフリをする方が得策だろう。仔那珂がお兄さんのことをペラペラと話したと知ったら面倒なことになる。
「そう言う訳だからこのゲームは没収させてもらうよ」
 お兄さんは一つ一つ袋に落ちているゲームを入れていく。
「ぃや………や…………………」
 仔那珂は声を押し殺していたが漏れてしまう。そりゃそうだよな。大事な物だったんだから。あの中にはプレミアな物も入っている。何よりもあれは今日の思いでの結晶だ。あれが無くなってしまったら今日の全てが弾けて無くなってしまう。
 さて、ここが分岐点だ。
 
「はあ、はあ、はあ、仔那珂すまない。その男は男性以外には無害だから先に帰らしてもらう。早く帰ってくるように」
「………………………………………」
 黙って頷く仔那珂。
「ああ、お兄さーん」
 甘い声を出して手を伸ばす俺。その手はお兄さんを掴むことは無かった。正直掴みたくもなかった。
「仔那珂の兄討伐完了!」
 そして俺は笑いながら仔那珂に親指を立てる。
 すると仔那珂はBLゲームを落としたまま俺に抱きついてきた。
「え?」
 それは軽いハグではなく、締め付けられるような強いハグ。
「お、おい……仔那珂?」
 両腕を巻きつけられて抱かれている俺は、後ろに手を回すことも出来ない。回せても回す勇気は無いのかもしれないが。
「ありがとう、和磨。あたし本当は怖かった。もしあのまま和磨が庇ってくれなかったらあたしはあたしを保ち続けられなかった。ありがとう」
「お、おう……任せとけ」
 ……痛いぐらいに締め付けられている俺は彼女の重い思いもまた感じ取ることが出来た。
「ごめん、あの時あたし本当のこと言えなくて……」
 彼女の涙で俺の胸が湿って涙は止めどなく溢れ出てくる。
「……………………………………………………」
 彼女の涙を見てはいけないと思い紅に染まった空を眺める俺。
 紅の空を眺めている間に俺は思う。
 あれ? これ死亡フラグじゃないの? 大体主人公に幸せが訪れた時に来るものって死だよな。ははは、笑えねえ。
 背筋がぞくっと震えて俺は身震いする。
「それよりもさ、このゲーム拾おう」
まだお兄さん以外は見ていないけど他の人がここを通るだろう。その時にBLゲームを野晒しにしたままだと白眼視されかねない。
「ああ、うん」
 彼女は俺から離れる。目が充血していた。そして少し残念な気持ちになりつつも俺は早急にゲームやグッズを袋に入れていく。
 ゲームを半分入れた頃に彼女が口を開く。
「和磨、さっきの言葉本当じゃないよね?」
「さっきの言葉?」
「あの……お兄さんがタイプって言葉」
「……な訳ねえだろ。俺は女が好きだ」
 少々気持ち悪さを覚える。確かにあの人はモテそうな顔つきだが俺は同性愛者ではない。
 質問の解に彼女は安心したように小さく口にした。
「良かった……」
「?」
 疑問符を浮かべながらも俺は言及せずにゲームを拾う。
「そう言えばさ、仔那珂俺に何か用事があったのか?」
 唯への秋葉紹介が終わって、俺を追いかけて来た。結局何の用だったのだろう?
 すると仔那珂は手をポンと叩く。
「ああ、そうだった! 当初の目的を忘れるところだった」
「当初の目的?」
 当初の目的が試着室関係でないことを願うよ。
 俺が顔に出さずに覚悟をしていると、リボンの付いた赤い箱を差しだされる。
「ん? 何だ、これ?」
 不思議そうに呟く俺。
「これはあの……家に帰ってから見て!」
「家に帰ってから? ここで見たらいけないのか」
 危険物? でもそれを俺に渡すわけもないか………。
「うん、ダメ。でもあたしが見えなくなってからだったらいいわよ」
「?」
 不思議そうな顔を続けると仔那珂は携帯電話を右耳に当て慌てながら口にする。
「ああ、お兄ちゃんから電話来た! じゃあバイバイ! ああ、そのBLグッズの袋はしばらく預けた! 頼むね。和磨」
 そして慌てるように去って行く。
 ………………………………………………………………………………………………いつもと様子が違う仔那珂に手を振る俺。
「さっき着信音鳴って無かったよな? マナーモードにでもしていたのか?」
俺はもやもやを感じながらも、袋を左手に赤い箱を右手に持ち帰宅する。
 
玄関前、俺は彼女の言葉を思い出す。
「確か仔那珂が見えなくなったらこの箱を開けても良いって言っていたよな。それなら今開けるか」
 赤い箱の袋を丁寧に剥がす。そして中身を見た時俺は眼を細めた。
そしてその開けた箱を持ったまま家の扉を開ける。

パンッ! パパンッ! パパパンッ!

 扉を開けた瞬間に鳴る破裂音。そして頭に降りかかるカラフルの紙テープ。しかし、不愉快では無い。それは玄関前で見た赤い箱の中身が教えてくれた。

「「「「誕生日おめでとう!!」」」」

玄関の靴前で四人がクラッカーを持って一斉に俺の誕生日を祝ってくれた。
四人の行いに俺は肩を竦め笑い「あのさ、俺もう高校生だよ」と口にする。
 厳格な親父が腕を組み低音の声で喋る。
「何歳になっても誕生日は華やかにするものだ」
 次にお母さんが目を細めて肩を叩く。
「大きくなったわね。和君」
 次に弟と姉が同時に祝ってくれる。
「兄ちゃん、おめでとう」「おめでとう。また一つ大きくなったわね、和磨」

「はははっ、皆ありがとう」
 
俺が今持っている右手の赤い箱に入っていたものは二つ。メイド喫茶らぶ☆メイの食券五千円分。そしてもう一つは仔那珂と御月の手書きのバースデーカード。
 内容はまだ読んでいない。いや、恥ずかしくて上手く読めないかもしれない。
 二人に渡された大事な赤い箱を持ち、家族を見て、俺は笑ってもう一度口にする。
「ありがとう」

八月十三日、蓮見和磨は十七歳になった。そして俺はまた一つ大きくなった。