オタク1 | クドのわふわふ>ω</ブログ

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作詞や作詩、たまに小説書いたり論文書いたりしてます

「会いたかったぁー、会いたかったぁー、会いたかったぁー、イエス―――」

「はあ………」
 親父の部屋のドアを開けて溜息をつく俺。
俺は携帯電話を開ける。七月七日金曜日の六時五十分と表示された画面が表れる。
部屋に入ると塞ぎたくなるほどに大音量のA○B48の曲が流されている。周りの壁を見ると○KB48の生写真が貼られている。そして写真の他にもA○BやS○Eの曲やグッズの類が積み上げられている。
「爪切り、爪切りと………」
 人気急上昇中のアイドルの曲を気にせず爪切りを探す俺。俺の家には爪切りが一つしかないから困る。しかもそういう生活必需品は大体親父が所有している為、部屋まで取りに来なければいけない。
「はあ………」
 爪切りを見つけてドアを出ると俺はまた溜息をつく。そして俺は心の中で叫ぶ。
気持ち悪いんだよおぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!
別にAK○を批判している訳では無い。人気だからこれからも頑張って精進して貰いたいと思っている。俺が批判しているのは我が家の最高権力者。蓮見洋二のことだ。親父の職業は警察官。堅物として通っている。そして毎日犯罪を撲滅すべく必死に汗をかいて働いている。
しかし、我が家での親父は少なくとも型物では無い。はっちゃけてはっちゃけてはっちゃけている。家に帰ると直ぐにA○B48のPVを見て踊りを練習しているし………まあ簡単に言うとアイドルオタクだ。
俺はオタクが嫌いだ。
その根源は親父やその他の人物から来ている。
「はあ………」
 既に三回溜息をついた俺は蓮見和磨。八月十三日生まれの神奈川に在住の高校二年生。見た感じよくいる主人公と同じく中肉中背。手短に言うなら凡人だ。エロい話にも時には乗るし空気だって多少は読む。最近の高校生はそれぐらいの輪に入る能力は身についてい
るものだ。特質した趣味は持っていないが小説も読むし好きなアーティストの曲だって聞く。普通でいるのって中々大事なことだと思う。
 だが、
 
 俺は完全な凡人では無いのかもしれない。
それは簡単な話、関わっている人間が凡人で無いからだ。例えば不良グループの中に凡人を一人入れるとその人まで不良扱いされる。それと同じ現象が俺にも起きている。
 我が家の姉、蓮見奈々子は乙女ゲーム愛好者。そしてBLもいける口である。つまり乙女ゲームとBLの併発オタク。オタク用語では腐女子と言うらしい。
 今は詳しく言わないが母と弟もオタク。さっきの例の通り表すとオタク達の中に入れられる凡人がこの俺。世間から見るとオタクと思われてしまう。
 爪を切った後、俺は呟いた。
「学校行かないと………」
 俺は東京の高校に電車通学で通っている。神奈川から高校まで四十分程度だが俺は早めに登校する。一度ギリギリに電車に乗り、通勤ラッシュにより降りられずに遅刻したことがある為、俺は余裕を持って登校している。
「行ってきます」
 母親は弁当を作る人間では無いので家にあった菓子パンとサンドウィッチを手にして俺は玄関を出た。


 ――――――――――――――――――――――――――――――、
 長い学校の授業が終わり、現在は昼休み。俺はいつものように悪友二人と机に弁当を置き、近くの椅子に腰かけ飯を食べる。机の位置は窓際の一番後ろ。涼しくて快適な場所である。
「それで、マキコちゃんの胸がGカップあったんだけどよ…………」
 一人はリアル充実(彼女無しだが友達多いという意)の男、街部真輔。エロいことが大好きで高校生と言う年を考えると健康体の人間である。そして今その男は女子がいるにも関わらず堂々とグラビア雑誌を広げていた。
「そしてその男がトイレで少女を待ち伏せておいて襲った訳。それが本当にえげつないんだよ。僕は思うけど……あれは酷いね。本当に…………」
 もう一人は中の上の顔立ちの末代司。真輔と同様エロが大好きな男。今一緒に食事をしている三人の中では一番顔が格好良いのだがモテない。その理由は簡単でエロいから。しかも好きなエロはレイプや強姦系。そして何故か俺と街部の名前を一部省略する男だ。
 そしてそれを俺は適当に相槌を打ちながら飯を口に運ぶ。
「「おい、聞いているのか?」」
 二人は顔を近づけて俺に言う。
「ああ、聞いてるって。エロがなんたらだろ」
「「省略するな!」」
 ああ、全く聞いてなかったよ。右から左に全て聞き流していました。
 そんな俺の様子を見て街部が口にする。
「お前……もしかしてエロに興味無くなったのか? いや……それは男として……お前、もしかして三次元で無く二次元に興味を持ち始めたのか?」
街部は引き気味で聞く。街部は三次元には興味があるが二次元には全くと言っていいほど興味を示さない。それどころか二次元を敬遠している人間だ。
 
 実のことを言うと、俺はまだ皆に家族がオタクだということはバレていない。そして学校では俺はオタク嫌いと通っている。
「んな訳ないだろ。俺はオタクが大嫌いだ」
 強気な姿勢で言うと街部は俺の肩をポンポン叩き笑う。
「ははは、分かっているって。お前はオタクじゃない。オタク達は気持ち悪い。お前もそう思っているんだろう?」
「当たり前だろ………」
 俺はそう返事をしたが内心気持ちが渦を巻いていた。
 自分では無く両親や兄弟が否定されているような気分の悪さ。その気分の悪さは油汚れのように染み付いて取れなかった。
 そんな会話をしている隙を見て、俺の菓子パンをちぎって口に入れる末代。そして末代は二人にしてはならない質問をした。
「和、菓子パン貰うね。そう言えば二人とも、彼女を作ったりしないの?」
「今はな……」「いらん!」
 二人同時に口にする。
 末代は街部の一言に溜息をつく。
「はあ、真の場合は欲しいけど作れないんだろ」
「知ってるなら聞くな!」
 街部は末代の頬をつねる。
「痛い、痛い、痛い、痛い………それならどんな子がタイプなの二人とも?」
 末代の質問が出た直後に答える街部。
「十朱と洞爺!」
「タイプを聞いたんだけど………」
「だって二人ともクラスのマドンナ的存在だろ。まあ十朱の性格はマドンナと離れているけど顔は美人。それに胸もでかいし。洞爺は奇麗だけど皆近づけない。高嶺の花のような女だよな。あの二人と付き合えるなら俺は死んでも良い」
 街部は手を握り締め「付き合いてえ」と漏らしていた。
 周りを見ると街部が話していた洞爺御月が一人で弁当を食べていた。見た目は最高レベルの顔。髪は黒いロングで一本のくせ毛も無い奇麗な髪。彼女の右手には小説サイズの本がある。彼女のことだから芥川龍之介、夏目漱石、などの文豪の純文学を好むんだろうな。俺の家族とは無縁の人だ。
 でも、
「寂しくないのかな、一人で……」
 俺は刹那に感じたことを呟く。
 その問いに街部は素の顔のまま答えた。
「寂しい訳ないだろ。あの人はあの位置が一番合っているんだよ」
「そんなものなのかな…………」
 確かに苛められている様子はない。それどころか皆からは近づけないほどに尊敬されている。でも…………俺にはそんな彼女が寂しそうで仕方なかった。
 そんな会話をしている時、もう一人のマドンナがドアを強く開けて入る。
「キモイ、オタク! 目障りだから消えて!」
 ドアの前では、二次元のアニメについて盛り上がっているオタクグループが声を上げてていた。
『で、でも』
「でもじゃないからさっさと道を開けなさいよ」
『は、はい………』
オタクグループは机をドアから離れた所へ持って行き、小さい声で再び話を続行した。
「全く、これだからオタクは嫌いなのよ」
 彼女はオタクグループが道を開けたにも関わらず愚痴を零していた。
 彼女の名前は十朱仔那珂。もう一人のマドンナとは対照で我儘なお嬢様のような性格である。髪の色は茶色、Bのローマ字が書かれたヘアピンを髪に付けている。鋭い性格ではあるが顔は本当に奇麗である。トップモデルにも引けを取らない顔である。
「あー、昼食の時間が短くなったじゃない」
 彼女はパック型のジュースを手に持っている。どうやら下の階にある自販機コーナーでジュースを買っていたようだ。
 そして彼女は開いている席へと腰を下ろす。そこには彼女の机に合わして食べる友達もいる。十朱の友達は皆群を抜くほど奇麗な顔立ちをしている女の子だった。それでも一番奇麗なのは十朱であった。
「ほらな、奇麗だろ。十朱と洞爺」
「…………………」
「僕は洞爺さんの方が好きだな」
 街部の質問に答える末代。俺は無言。
「司、お前は馬鹿か。確かに洞爺は奇麗で高嶺の花だ。だが十朱も可愛い。俺は十朱の方が好きだ」
「でも性格がねえ………」
「ふっふっ、性格は付き合ってから俺好みにすればよい」
「まず付き合えないだろ。真」
「うるせえ!」
 末代と街部はいつもの調子で会話を進める。そんな中気分が乗らない俺は二人の会話に挟まれたまま口に菓子パンを運んでいた。
七月七日は既に熱い。記録的猛暑が年々伸びていく日本では当たり前の光景になっている。こんな暑い日にイチゴジャムがふんだんに入っている菓子パンを口に入れる俺。例え窓際で涼しかろうが喉の渇きは著しい。正直菓子パンを持って来るんじゃなかった。
 しかし、他に食べ物が無い。だから俺は菓子パンを口に入れるしかない。
 そんな気分最悪な状況で末代はもう一度聞く。
「で、結局、和はどんな子が好きなんだ?」
 しばらく悩んだ後、俺は口にした。

「オタク以外の女の子全員」


 学校が終わり玄関で携帯を開けると、午後五時二十分を表示していた。
「さて………寝るか……」
 帰宅部の俺は、帰った後直ぐにベッドに直行しようとする。大半の帰宅部生徒は家に帰ったら寝るかゲームするか勉強のどれかであろう。最後の選択肢の勉強を選ぶ人間が数少ないのを俺は知っている。勿論俺はノー勉派だから直ぐにベッドへと飛び込もうと考える。
 しかし、俺の甘い時間は来なかった。
 目が合った瞬間、俺は直立体勢のまま固まる。脇汗を掻き顔に縦線を入れる俺。
「…………………」
 無言で一ミリ、いや、一ナノも動けない俺。『ダルマさんが転んだ』の止まった状態である。別に家に熊が出たから驚いている訳では無い。誰が出たかと言われたら簡単に答えることが出来る。姉だ。姉が出たのだ。熊より恐ろしい姉が。
「和磨か、学校から帰って来たの? 早いね。まだ朝だよ」
 大学生一年生の姉はパジャマ姿で話しかけてくる。髪はぼさぼさで眼鏡をおでこに掛けている変人である。実際視力は高いはずなのだがキャラづくりとか何かでそこに掛けている。
 でも………そんな姉の紹介はどうだっていい。だから言わしてくれ。今は午後五時二十分。朝でもなければ昼でもない。夕方に近い時間帯だ。
 だが俺は訂正の言葉を入れずにそのまま立ち去ろうとしていた。
 しかし、姉が俺を見逃すわけがない。両肩を掴んで満面の笑みで俺に言った。


「和磨、乙女ゲームかBLゲーム買ってきて」

 ………ほらな。熊より恐ろしい姉だよ。弟に乙女ゲームかBLゲームを買いに行かせようとするなんて……ホント頭の螺子が取れているんじゃないのか?
「嫌だ」
「買ってきてよ、和磨」
「嫌だ」
「買ってきて」
「嫌だ」
「買え」
「嫌だ」
「バラすよ」
「買ってきます」
 結局買うことになった俺。ちなみにバラすというのは姉がオタクのことである。我が家では別にオタクを隠さなくても良いと思っているのが姉と母親。そして逆が俺と父親と弟。俺は家族にオタクがいると思われたくない。だから口止め料の代わりとして姉の欲しがっているゲームを秋葉原に買いに行くしか方法は無かった。
「あの……買いに行くんですけど寝てからでは………」
「ダメ」
 姉は目を擦りながら口にする。
「は~い、分かりました」
 姉に頭を下げて敬語口調になる。もう怖い………。
 親父、蓮見洋二はA○B48とS○E48のアイドルオタク。
 姉、蓮見奈々子は乙女ゲームとBLゲーム好きのオタク(腐女子)。
 母親、蓮見真由子が関○ャニ、ア○シ、SM○Pなどのジャニーズオタク。
 弟、蓮見光河はコスプレオタク。
 そして俺は玄関で叫んだ。

「こんな家に生まれるんじゃなかったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!」

 俺こと蓮見和磨、今のところ非オタク。
 そして非オタクの俺は変装して玄関を飛び出し、オタク達の聖域、秋葉原へと旅立った。

 午後六時四十五分、現在俺は秋葉原駅の前に立っている。恰好は知人にバレないように普段着では無い。黒いサングラスに青のキャップ、そして極めつけにマスクを着用している。
「よしっ、いざ出陣」
 俺は前屈みの姿勢で突き進む。速度的にはロウペース。しかし、油断してはならない。周りを見渡すと人ごみに囲まれている。コスプレイヤーはチラシ配りのメイドさんぐらいしか見当たらないがオタク達はたくさん歩いている。クラスにもオタクはたくさんいるのでバレないように歩かなくてはならない。
「よしっ………『とらのあな』に行くか!」
 進もうとした瞬間立ち止まる。そして入口近くで耳を澄ますと聞き覚えのある声が聞こえる。

『マジで!? 『ニャミスちゃん』のねんどろいど、もう出たの? 買いてえ!』
『でも売り切れ、しかも再入荷はまだらしいから某達が入手するのはまだかと……』
『嘘だろ! それはショッキングブルーだよ。全くイヤマジでマジで』
『再入荷を願うしかないでござるな』
『遅いってぇ~』
『仕方ないでござるよ。しかし』

 学校では有名なオタクのツートップ、桐原と前園の声が聞こえる。どうやら『とらのあな』まで買い物をしにきた模様。
「……………タイミングが悪いな……」
 変装をしてきているとはいえ、まじまじと見られると正体が分かってしまう。更に言えば、俺はクラスでオタク嫌いとして通っている。もしあの二人に見つかったら文字通り『死』あるのみである。
 したがってここはスル―が吉。
「ふう………危なかった~」
 それにしてもあいつらの会話は俺には理解不能だ。
 そして一息ついて俺は携帯電話を開く。時間は午後七時丁度。桐原と前園の姿が『とらのあな』から離れない為に俺は次の場所へと移動した。
「次はラジオ会館にする………か」
 『とらのあな』が無理でもただ照準を変えれば済む話!
 そして俺は大急ぎで『ラジオ会館』へと移動する。
 しかし、負の連鎖は繋いでいくものだ。

『マジやばす! ミイナさんのグッズ来た! 可愛い!』
『いやいやいや、夕月のグッズの方が完成度高いって。だから夕月の方が可愛い』
『はあ? 真琴様の方が断然可愛いって』
『ふざけるな! ミイナさんの方が可愛いに決まっているだろ!』
『いや、夕月の方が可愛いねえ!』
『それなら真琴様の方が可愛い!』
 ……………………………………………………………………………………………。
『ミイナさんだ!』『夕月だ!』『真琴様だ!』

 …………誰でもいいだろ。
 俺は白い目且つ遠目でクラスメートの三人を見る。
 『ラジオ会館』前にいる人間はオタク公言をしていない前田、生田、佐藤。まさかオタクだったとは………でもまだ彼らは大丈夫だ。オタクを賛成していなければ否定もしていない。だが俺は否定している。見つかったらリンチされるんじゃないだろうか?
 しかし、あれだな。アニメというのはたくさん名前があるんだな………それにこんなにたくさんのアニメファン……でも馬鹿には出来ないな。好きなものなんだから。どちらにせよ非オタクの俺は場違い極まりない。
 しかし………ここも駄目か……。
「次は『アニメイト』に行くか――」


「はあ………」
―――――――結局萌系の有名店には入れなかった。アニメイトの後もゲーマーズなどを回ったが結局知り合いやクラスメートが屯していた。
 溜息をついても時間は戻らない。知り合いに会うのを覚悟で今から店に行くか………それは無理だな。姉がオタクなのを隠す為に来ているのに俺の姿がバレたらそれこそ恥さらしだ。それだと何の為に来ているか分からなくなる。
 今俺は名も知られていない適当な店を回って来ている。勿論警戒の目は緩めない。
「………色々な物があるな……」
 引き気味で店内を見渡す俺。
 店内は色々な種類の萌グッズが置かれている。アニメグッズ、コスプレ服、十八禁ゲーム、全年齢ギャルゲー、ホモゲー、他には痛車グッズなど多数ある。萌系の有名店に比べたら多少品数が劣るがそれでも凄かった。
 
 携帯を開くと現在八時三十五分を表示している。残りの時間はこの薄汚れた店内で姉が欲しがってそうなゲームを見つけるか………。
 姉が好きな乙女ゲームは体育教師を攻略するようなもの。それとBLゲームは筋肉ムキムキなおっさん同士が激しくホモ行為をしているゲーム。
「姉が好きなゲームって需要が無いから見つからないんだよな………」
 腐女子が好むBLゲームは華奢な体の男達が愛し合う物。でも俺の姉はそれが好きでは無いから探さないと見つからないんだよな……。
 姉の欲しいものが見つからず青息吐息の俺に、助け舟が出る。
『はいはいはいはい~、当店自慢のワゴンゲームセールです。好きなゲームを持ち帰って下さい。年代物から新しいものまであります』
『『『きゃ――――――――――――――――――――――――――――!』』』
 爽やかお兄さんがたくさんのゲームを積んだワゴンを押してくる。それと同時に押し寄せる腐女子の皆さん。腐女子の目の血走り具合に呆気にとられた俺。
 その腐女子の輪に紛れ込む俺。そして姉の欲しがりそうな物を手当たりしだい探していく。
「爽やかボーイとダンディーマスター………」
 華奢な体つきの男の人と口髭を生やしているマスターが抱き合っている。
「違うな……」
 手に取ったそのゲームを積まれたゲームの一番下へと戻す。
 近くにあったゲームを手に取る。
「花ざかりの男達…………」
 説明には主人公が男、男子校で同姓同士愛し合うゲーム………と書かれている。
「これも違う…………」
 そして俺は次々と姉が欲しがらない物を手に取っていく。
「若ダービーと若旦那のゲーム………」
 勿論却下。
「女主人公が五十歳離れたお爺さんを攻略する乙女ゲーム」
 年齢差ありすぎだろ!
「ジャニーズ風の男と弱々しい病人顔の男のBLゲー………」
 これは色々と問題があるだろ……勿論却下。
 そして……探すこと十分。ようやく姉の目当ての物を見つける俺。
「ムキショタ3?」
 ムキショタ3という名のゲームを手に取る。それはムキムキマッチョな男性と若くて小さな男の子が抱き合っている絵柄だった。
「………見るに堪えない絵だな……でもまあこれならムキムキマッチョがいるし姉も許してくれるだろう」
 それを持ってレジに行こうとするがそのゲームが動かない。
「…………あれ? 何で?」
 ゲームを見ると逆方向から掴んでいる人発見。現在俺とその人でゲームの綱引き状態である。 その人は俺と同じく変装をしているような服装だった。マスクを着用して茶色のサングラスをかけている。更に夏だと言うのにニット帽を被っていた。
「あの~、手を離してくれませんかね? これ持って帰らないと俺世間から殺されかねないので」
 最高の笑顔で口にするがマスクをしていたので相手には映らない。
 そして相手も同じような口調で返す。
「いやいやいや、あたしもこれは手放せないんですよ。だから今のうちに手を離してください」
 ははは、この人手を離すどころか力を強くしやがったよ。
「いや~、本当にお願いしますよ。手を離してください」
 相手が女だろうと力を強める俺。
「ははは、嫌です。っていうかあなた男ですよね? だったらレディーファーストで譲って下さいよ。それに男の人がBLのゲームを買うのはどうかしていると思いますよ」
 敬語口調の彼女は更に力を強める。
「あっはっは、そんな欧州方面のレディーファーストは日本で通じないよ。それにこのゲームは俺の為に買うものじゃないからね」
「だったら離して下さいよ」
「断る。命が惜しいんだよ、俺は」
 二人は更に力を掛けて綱引き状態は続いていた。しかし、女の人は力の限界なのかいきなり力が抜けた。そして俺の引っ張る力により女の人は俺に覆いかぶさるような状態になった。
 そしてその勢いにより二人とも、サングラス、帽子、マスク、が店内の絨毯に落ちる。
「イタタタタ………」
「あ~、もう痛いぃ~」
 思い切り打った腰を右手で押さえながら目を開ける俺。
 そして、
 俺は長い間の後、顔が目の前にある彼女の名前を呟いた。
「………………………………………………………………………………………………………十朱?」
 彼女も眼を覚まして俺の名前を小さく口にする。
「………………………………………………………………………………………………………蓮見?」
 二人はお互い目を逸らす。
 七月七日七夕の日、彦星と織姫が出会うこの価値ある日に最悪な出会いをしてしまった。十朱仔那珂と俺、蓮見和磨。
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………(気まずい)」
 目の前の女の子はクラスでも有名な十朱仔那珂。でもそれは俺の勘違いに違いない。だって彼女はクラスで一番、二番を誇るオタク嫌いの人だから。オタクの人が近づいた瞬間に距離を取って「キモッ!」「目障りなんだけど」と言った暴言を吐く女。
 そんな彼女がここでBLゲームを買いに来るはずがない!
 勘違い、勘違い、勘違い、勘違い、勘違い……そう思わしてくれ。