騒ぎの火種をこの都市・この城に持ち込んだのは、そう、シュチャーク博士だった。
彼は数日考えた。古代兵器の設計図である可能性は高いと思った。しかし、それだけでは断定的なことはいえなかったからである。
帝都に着いた日、博士はインドゥア城を長いこと見上げていた。
濃い黒紫に染まった街並み。その地面には、本の形をしたブロックが隙間なく敷き詰められ、同じ形のブロックで造られた建物が整然と立ち並んでいる。
街の周囲は木と本型のブロックで覆われ、街のさらに上方には、ひときわ大きなインドゥア城がそびえ立っていた。
空は薄暗く、街のあちこちに日陰が広がっている。その中では、兵士たちが通りや城門を見張り、街の秩序を守っていた。
博士は城門の前まで歩いていった。
しかし、すぐに門番へ声をかけることはできなかった。
城門を見上げては、手元のノートに目を落とす。数歩歩いては立ち止まり、また城門を見上げる。
「……やはり、報告すべきじゃろうな」
小さくつぶやき、博士は再び歩き出した。
「そこの者、何をうろうろしている!」
門番の兵士が博士を呼び止めた。
「す、すまん。わしはシュチャークという古代の研究をしておる者じゃ。ヌイーグッド様にお伝えしたいことがあって参ったのじゃが……」
ヌイーグッド――この世界を治める、最高権力者である。
古くから受け継がれてきた秩序と伝統を重んじるこの王家は、めったに人前に姿を現すことがない。その素顔を知る者は、ごく限られているという。
博士は手にしたノートを握り直した。
「お伝えしたいこと? いったい何の用件だ?」
「古代の遺物についてじゃ。詳しい話は、直接お伝えしたい」
門番は博士の様子をうかがったあと、しばらく考え込んだ。
「わかった。ヌイーグッド様に確認してくる。ここで待っていろ」
兵士は城門の奥へと姿を消した。
しばらくして戻ってくると、博士に向かって告げた。
「よし、ついてこい。ヌイーグッド様のもとへ案内する」
「う、うむ。よろしく頼む」
博士は緊張した面持ちでうなずき、兵士の後について城内へと足を踏み入れた。
「ヌイーグッド様。連れて参りました」
門番の兵士がそう告げると、博士は部屋の奥にある玉座へと目を向けた。玉座は分厚いカーテンに覆われ、王家の姿は見えない。
「し、し、失礼いたしますっ! わ、わわわ、わしは古代の研究をしております、シュチャークと申しますっ!」
博士はカーテンの方へ向かって、何度も頭を下げた。
「ほ、本日は、その……ええっと……あの……」
言葉に詰まり、手元のノートをぎゅっと握りしめる。
「うむ。そなたの活躍、何度も耳にしておるぞ。あの古代の黄金都市を見つけたのもそなただと聞く」
「はっ! あ、ありがとうございますっ! あの、いえ、その、わしなどまだまだでして……!」
博士は背筋をぴんと伸ばした。
「お、お褒めにあずかり、恐悦至極に存じますっ!」
勢いよく頭を下げた拍子に、手にしていたノートを落としそうになり、慌てて抱え直す。
「そ、それで本日は、その……じ、実はお見せしたいものがございまして……!」
「おい、そこの! 我のところまで持ってこい!」
「はっ!」
門番の兵士は博士のもとへ歩み寄り、ノートを差し出すよう促した。
博士は緊張した面持ちでノートを手渡す。兵士はそれを受け取ると、玉座を覆うカーテンの前まで進んだ。
すると、カーテンの隙間から一本の手が伸びてきた。
兵士がノートを差し出すと、その手はすっとノートをつかみ、カーテンの向こうへと引っ込んでいった。
「……これは?」
カーテンの向こうから、ヌイーグッド様の低い声が響いた。
「そ、それは……古代の遺物でして……。いえ、ただの遺物ではないかもしれません! 古代兵器の設計図である可能性が……しかし、まだ断定はできず……いや、でも……万が一……」
博士はノートを見つめながら、ぶつぶつとつぶやき続けた。
そのとき――
バンッ!!
「ええい! 何が言いたいのだ!!」
カーテンの向こうで、ヌイーグッド様が玉座の肘掛けを激しく叩いた。
「い、いえっ! あ、はい……その可能性が……」
「皆の者、よく聞け! 古代兵器の設計図が、何者かによってこの国に持ち込まれた! これは脅威! 脅威なのであるっ!」
カーテンには、玉座から立ち、片手を高く天に上げ、皆の者に伝える誇らしげなシルエットが映し出された。
「皆の者、戦闘準備にかかれ! ……待て、その兵士!」
「はっ!」
このノートの手がかりとなる出来事があったことを、ヌイーグッド様は思い出し、ひとりの門番の兵士に問いかけた。
「数日前に空から降ってきて、この大事な帝都に傷をつけた者たちがおったなっ?」
「はっ! その者たちは今、牢屋の中に捕らえられています! ですが、それが何か……?」
「今すぐにその者たちを秘密の間へ連れてこいっ!」
「はっ!」
門番の兵士は敬礼すると、急いで牢屋へと向かった。