#9 石川県の方々は本当に優しいです
今回は、まず「大学入試共通テスト」では、どんな問題の出し方をしてるかを、ちょっと見てみます。英語リスニングの第一問は、まず英語の短い文を聴いて、その文と同じような意味の英文(paraphrase)を選ばせる問題です。そうすることで、①各単語の音を聞いてちゃんと聞き取れること、に加えて、②聴き取った英文の意味がわかってるか、を同時に試験してるんですよね。例えば2022年度共通テスト リスニング第一問 A 問1 を見てみましょう。放送されるスクリプト「There weren't very many people on the bus, so I sat down.」(印刷された選択肢)① The speaker couldn't find a seat on the bus.② The speaker didn't see anybody on the bus.③ The speaker got a seat on the bus.④ The speaker saw many people on the bus.この問題で試されている能力は、まず放送スクリプトを耳で聞いただけで、紙に書けるくらい①正確に、音が聞き取れてるか?さらに、②その意味をちゃんと理解してるかどうか?です。先に見た石川県の問題でも、Aさんの2番目のセリフ「Do you have time?」が正確に理解できているかをテストしています。A: Hi, Tom! Today's homework is very difficult.B: Yes, but I finished it just now.A: Really? I need your help. Do you have time?Question: What will Tom say next?(Answer)a. Yes. It's five o'clock.b. Yes. I'm glad to help you.c. Yes. You are kind.なお、石川県の問題で間違い選択肢になぜ「a. It's five o'clock.」なんてのがあるかというと、 もし、その前のセリフが「Do you have the time?」だったら、「今、何時かわかりますか?」という意味になって「a. It's five o'clock.」が正解になるからなんですね。timeの前にtheがつくか、つかないかで意味が違うことを理解してるかも試しているんですね。ちなみに、このtheは、話し手と聴き手の両方の頭の中で、同じひとつの物を思い浮かべるときに使うtheです。「現在時刻」というのは、その場にいる人みんなに共通して同じものですからね。実は私も、昔この間違いをしたことがあります。アメリカの大学を卒業してすぐにスリランカに渡り、現地NGOでボランティア教師を約1年やったのですが、その時、アメリカ東部の名門大学の学生団体が卒業研修旅行でスリランカにやって来て、私も同行したんですね。そこで、彼らのボランティア活動の現場にいて、ある学生に”Do you have the time?”と聞かれたんですが、自分は彼女を手伝うために「今、時間があるか?」を聞かれたんだと勘違いして、Yes, how can I help you?みたいな答えをしました。するとその学生はキョトンとして何度か同じ質問をし、私もキョトンとして同じような答えをしてるうちに相手が気付いて"Do you have a watch?"と聞きなおしたので、自分も勘違いに気づいたということがありました。なおこれは私の主観的な言い訳になりますが、私が留学した西海岸は、同じアメリカでも英語表現が東部と微妙に違うことがあるんですね。例えば高速道路を西海岸ではfreewayというけど東部ではhiwayというとか。今、何時か訊くときも、西海岸ではストレートにWhat time?というのがほとんどで、”Do you have the time?”なんて、お上品な聞き方する人あまりいなかったから、わからなかったんじゃないかという気がします。ともあれ、私もこの時に、間違えたお陰で、このフレーズ”Do you have THE time?”の意味を、一生忘れないくらい、ばっちり覚えました。だから皆さんもどうぞ失敗を恐れず、実際の英会話に臨んでください。ところで、実は石川県のリスニングは毎年、第一問は、会話の「一番最初のセリフ」を、聞かなくても答えが出せるんですよ。ちょっとやってみましょう。(放送スクリプト)A: Xxxxxxx ! Xxxxxxx.B: Yes, but I finished it just now.A: Really? I need your help. Do you have time?Question: What will Tom say next?(Answer)a. Yes. It's five o'clock.b. Yes. I'm glad to help you.c. Yes. You are kind.ほらね?Aさんの最初のセリフがわからなくても解けるように出来てますよね。では、一番目の英文は全く無意味なのでしょうか?そうではありませんよね。Aさんの最初のセリフ「Hi, Tom! Today's homework is very difficult.」は、問題を解くために、キーワードとなる重要なフレーズ「Do you have time?」が、「いきなり」流れる前に、これが「友達同士の会話なのか」、「お店などでの会話か」など、どんな「場面」なのかを推測できる情報を与えてくれてます。そして「Do you have time?」というセリフの前に会話のやりとりがあって、それが「文脈」としてヒントになり、「今、何時?」ではなく「今、ヒマ?」という意味だとわかりやすい様に配慮されています。ついでに他の年度も見てみましょうか。石川県立高校入試 '25 No.1A: Xxxxxxx.B: Mom, I can't find my watch.A: I saw it on your desk. Have you checked your desk?Question: What will John say next?(Answer)a. No. I like to study.b. No. I'll take a look.c. No. It's ten o'clock.これだけで十分に正解は、b.とわかるでしょう。なお隠れている最初のセリフは「What's wrong?」ですが、これを聞けば、少なくとも、お互い全く知らない他人同士の会話ではないな、という「場面」の推測ができます。さらに音声が年輩の女性の声なので、もしかしたら家族の会話かなということまで想像できますよね。さらにいえば話者の声の高さや発音、間の取り方などに慣れておく心の準備をするための教育的配慮をしてくれているのではないでしょうか。仮に最初のセリフが聴き取れなくても、そんなに慌てなくていいよ、その次のセリフをよく聞いてね、と。とても親切ですね。だから最初のセリフが放送されているとき、ポカンと口あけて、鼻クソほじりながら、聞き流したりしてはいけません(笑)つづいて '24A: Xxxxxxx.B: Yes, Mom. I'm checking the things I have to take.A: I heard that it'll rain on the second day of your trip.Question: What will Mark say next?(Answer)a. I'll take my unbrella.b. That's a good idea.c. This is the second trip.(最初のセリフはA:Are you preparing for the school trip, Mark?)'23A: Xxxxxxx.B: Yes, it's my favorite sport. Why?A: I'm going to a baseball game next week.Question: What will Tim say next?(Answer)a. it was a great game.b. That sounds fun.c. You look sad.(最初のセリフはA: Hi, Tim! Do you like baseball?)'21A: Xxxxxxx.B: Thank you, Aki. We went to the same junior high school.A: I see. How long have you known each other?Question: What will Takashi say next?(Answer)a. Three times.b. Everyday after I came to this city.c. For about 10 years.(最初のセリフはA: Takashi, you and HIroshi are good friends.)石川県の高校入試出題者は、英語学習者のためになる問題の出し方をしてくれていて、ほんとに親切ですね。私も石川県の能登に来て、都会では信じられないほど親切で思いやりのある人たちと毎日接して、「能登は、やさしい人が多い」と言うのは本当だなあと日々感じてます。皆さんも是非、一度お越しください。