【サイプロ・小説】追憶ノ欠片6 | 無題警報

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「広っ」

それが優希の最初の感想だった。

今までは玄関先から中をチラ見する程度でしかなかったが、改めて中に入ってしっかりと内装を見回すと、やっぱり金持ちなんだな…と気づかされる。

「・・・そんなに驚く事ですか?」

梨桜が相変わらずの無愛想な態度で言う。

「当たり前だろこの野郎。俺ん家なめんなよこの玄関2つ分くらいしかないぞ」

「優希、それは盛りすぎ」

「ごめんなさい嘘です」

玲から有り難いツッコミを頂戴したところで、優希は率直に本題を切り出す。

「さて・・・話したい事は沢山あr」

「お茶でも飲みますか?淹れますよ」

「お、悪いな」

「uんだがって無視すんなてめえら!!!」

そうだった、と優希は思い出す。

梨桜と玲、この2人が一緒になると自分へのイジリが激しくなる事を。



リビングでは広すぎて落ち着かないから梨桜の部屋に行こう、という玲の意見に賛成し、3人は場所を移す事にした。

途中で可愛いメイドさんに見とれる優希をシバきながら、玲は梨桜に気になっていた事を尋ねる。

「梨桜、お前さ」

「なんですか?」

「寂しくないのか?こんな広い家に1人っきりで」

「・・・・・・・・・・」

一瞬、梨桜の顔に影が射す。

しかし、それを払拭するかのように、梨桜は悲しく、笑った。

「寂しくはないですよ、長月さんやみんながいますから」

長月さん、と言うのはあの綺麗なメイドさん(by優希)の事だろうか。

襟を掴まれ、引きずられながら喚く女好き(優希)をよそに、玲と梨桜は部屋へと向かっていく。



「・・・何か、言いたい事は?」

梨桜が紅茶をすすりながら言う。

「学校・・・まだ来れないか?」

先程までの「もっと可愛いメイドさん見せろよコラ」的なテンションとはまるで別人のように、優希は聞く。

「・・・怖いです、まだ」

少し、その声は震えているようにも見えた。

「お姉ちゃんなら、あんな事くらいで挫けたりはしないんだけどな」

「・・・お姉ちゃん?」

梨桜の口から聞きなれない単語が飛び出し、優希は首を傾げる。

「・・・2人になら、話しても大丈夫かな」

ぼそっと呟いた後、梨桜は伏せていた顔を上げ、言った。

「・・・僕には、双子のお姉ちゃんがいたんです」

ゆっくりとした口調で、梨桜は続ける。

「僕達は本当に仲が良かった。でも、両親が離婚して僕達は離れ離れになったんです」

ゆっくり、ゆっくり。

針の穴に糸を通していくように、梨桜は慎重に言葉を紡いでいく。

「独りぼっちになった僕は、みんなの記憶から莱花がいなくならないように、僕自身が莱花になる事にしたんです」

莱花と言うのは、姉の名前だろうか。

玲の方を見ると、玲も真剣な面持ちで話を聞いていた。

「だからこんな格好をしてるわけです」

ここまで聞いて、優希は思う。

自分は梨桜の事を何も知らないんだな、と。

付き合いは長いが、梨桜が女の子の格好をしている理由を考えた事もなかった。

いや、気になった事はあるのだが、特に気に留めずに流してしまっていた。

「莱花は僕なんかよりもっと明るくて、凄い人だった」

寂しげな笑みを浮かべ、梨桜は続ける。

「僕には、莱花になる事なんて出来るはずがなかった。失敗して、びびって、逃げて、気付いたらこうなってた」

いいのか、と玲は思う。

ただ聞いているだけでいいのか、と。

寂しげに話す梨桜は、とても小さく、弱く見えた。

まるで、放っておけば溶けて消えてしまう雪のような、そんな感じがした。

「僕は、どうすればいいのかな」

誰に聞くわけでもなく、梨桜が言う。

「こんな時、お姉ちゃんならどうしてたのかな」

「・・・違うだろ」

気付いたら、口を開いていた。

梨桜と優希の視線が集まるのを感じる。

「その莱花って子がどうなったのかは知らねえけど、いつまでもいない奴に頼るのは、間違ってる」

自分が言えた事ではないかも知れない。

だが、溢れ出す想いは止められない。

「俺達がいるだろ?目の前に」

まだ、間に合うかも知れない。

既に壊れてしまった自分と比べれば、梨桜はまだ助ける事が出来るはずだ。

「一言でいいんだよ。それを言えば、俺達が守ってやるから」

少しカッコつけすぎかも知れないな。

でも、これで十分だ。

「・・・・・・・・・・」

梨桜が俯く。

何かを言うように口を動かしているようだが、上手く声が出せないのか、玲達の耳には届かない。

ぎゅっと握った梨桜の小さな拳に、透明な液体が溢れ落ちる。

「無理はすんな。俺達はいつまでも待ってるからさ」

優希が、微笑みながら言う。

しばらくの間、梨桜は泣いていた。

やがて、顔を俯かせたまま、言った。

「・・・助けて、くれますか」

優希は優しく微笑んでいる。

「守って、くれますか」

窓から入ってくる風が心地良い。

「僕は、2人に頼ってもいいんですか・・・?」

優希が自分に意味ありげな視線を向ける。

その意味を察して、玲は腰かけていたベッドから立ち上がった。

自分達と向かい合うように椅子に座っている梨桜の元へ行き、頭を軽く撫でる。

そして、優希の期待に応えるため、梨桜にもう1度外の世界に踏み出してもらうため、玲は口を開き、言葉を紡ぐ。

「ああ、もちろん」


────続く────
こんばんは、るかです。
いやあ…長かった追憶ノ欠片もこれで終わり…ではありません。
まだ続きます。
それにしても、今回は玲が大活躍でしたね。
優希なんてメイドさん見てるだけでしたからね。
ともあれ、今回は書きたかった事が素直に書けたので、良かったです。
次回、お楽しみに。
では、今回はこれで!