それは突然始まった。
地球上の人間が、動物に変身し始めたのだ。

猫に変身する者。犬に変身する者。狸に変身する者。狐に変身する者。
その他いろいろ。
特に法則性のようなものはなかった。

小学生。政治家。医者。社長。大学生。学社。警察官。教師---。
どんな人でも動物に変身した。

「この未曾有の危機に、わが国の国民は一体となって---」
そう演説していた大国の大統領は、リスに変わってしまった。つぶらな瞳とつやつやの毛並みがきれいなシマリスだった。

「これはまさに量子論的な宇宙の始まりであり、エントロピーの増大による---」
テレビで解説していた物理学者は、うさぎに変わった。黒くて、耳の長いうさぎだった。うさぎに変身した後も、物理学者は冷静に解説を続け、喝采を浴びた。リスになった後、落ち着きなく走り回る大統領と対照的だった。

ある有名な女性の歌手は、コアラに変身した。コアラに変身した後も、歌手は続けて、人間だったときによりも、かわいいということで、人気が出た。一つだけ困ったのは、コアラは夜行性であり、昼間のテレビやコンサートなどができなくなったことだった。

変身した後も、その人間たちは人間であったときの記憶や能力を失わなかった。ただ変身後の動物の習性の一部または全部を、身につけることになった。

ぼく自身は猫に変わった。普通の三毛猫である。変身は嬉しかった。猫は大好きな動物で、ときどき猫になってみたいと思っていたからだ。仕事はちょっと困った。児童書専門の本屋を経営していたからだ。本の持ち運びのために、熊になった友達に手伝ってもらうことにした。

猫と熊の本屋は人気が出て、売上も上昇した。特に友達の絵本の読み聞かせが好評だった。「くまさん、くまさん」と子供たちは言いながら、友達のまわりに輪を作り、友達が読む「くりとぐら」に熱心に聞き入っていた。もちろんのその中には、犬や馬やねずみや鹿といった、動物たちがいたことはいうまでもない。ぼく自身は、以前より本を読まなくなり、店の陽だまりで、うとうとと居眠りをするようになった。

この「変身」が始まっても、大規模な混乱は起こらなかった。もちろん、動物に変わったことの絶望して自殺する人はいたが。世界はずっと平和になった。例えば、習性が違いすぎて、馬と猫ではどうしても軍隊を作れないのだ。殺人も減少した。動物たちは無駄な殺し合いはしないが、その習性が生かされるようになったからだ。

変身は、それからも世界の各地で進行した。果たして、すべての人間が変わってしまうのかというのが、あらゆる人の今一番の関心事だ。

ふと思いついて、ぼく自身は小説を書き始めた。世界で初めての猫の小説家になろうと思ったのだ。題は『吟遊猫』。青猫が詩を口ずさみながら旅をするというお話。猫になった後も、練習をしたので、やや不自由ながらキーボードを打つことができる。だから仕事の合間に、パソコンに向かう毎日。

ただ一つの問題は、居眠りをしてしまうことだ。ディスプレーの前でうとうとと舟をこいでしまう。一日に、2、3行書ければいいほうだ。まあ、いいさ。時間はたっぷりある。とにかく何年かかっても、この小説を完成させるつもりだ。

いつも読んでくださり、ありがとうございます。終わりごろ「青猫」が出てきますが、これは以前青猫さんが http://tukiakarinosita.ameblo.jp/、海になった私のことを書いてくださったので、そのお礼です。