■ | Not Found 第3章

我孫子武丸の新刊が出たらしいので読書家の俺は早速本屋に行った。
俺は本屋に行くと、いつもまず遺跡のコーナーに向かう。
アンコールワット。
過去、カンボジアの民族達は、どうしてこんなモノを創ったのだろう。
実に素朴且つくだらない問いを投げかけてしまう。
遊び心にしては複雑すぎて、実用性という意味では雑すぎる。
なんなんだろう。凄すぎるし、恐すぎる。芸術なんて単純な言葉じゃ片付けられない。
インドシナ半島、死ぬ前に1度は行ってみたい。
一昔前、本屋にいる時間は長かった。本屋にいるとやけに落ち着いたからだ。
しかし最近、それがちょっと苦痛になってきた。
本屋の規模がでかければでかいほど、それは顕著になる。
理由はこうだ。
本屋には、何万冊と本がある。それは自分が一生かかっても読みきれない量だ。
一生かかっても知り得ない事が、少なくともこの本屋にはある。
自分が読んでない本の量だけあるって事だ。
つまり簡単に言えば、自分がいかに無知かって事を、
最近本屋に行くと、いやがおうにも思い知らされる気がするんだ。
でも、そんな嫌な思いをしても、なんだかんだで時間が空けば本屋には立ち寄る。
俺はひょっとしたらお勉強が好きなのかもしれない。
いや、俺がここで言うお勉強ってのは、国語だとか数学だとかの事じゃない。
あれは文部省が、ガキどもに偏差値なんていう糞みたいな数字を競わして、
いかに民主主義ひいては経済至上主義に適した人間かどうかを見定めるものだ。
偏差値なんてくそくらえ。あれこそ本当に糞。偏差値42の俺が言うから間違いない。
まあ、そんな事はどうでもいい。
なんつーか、俺が言うお勉強ってのは、自分にとっての大切な情報を得る事、だ。
な。それだったら基本的に好きってか、これは生まれてきたからには必須事項だろ。
どうだ、意味わかんねーだろ。あー、やっぱりお前らじゃ駄目か。
この話を今すぐ誰かに聞いてもらいたい。
こういう時は、こりゃもうあいつしかいねー。あいつとゆっくり話がしたい。
携帯電話を取り出す。身体が覚えている唯一の番号。ベルが鳴る。
あいつはいつもの様に、面倒くさそうに電話に出る。
「ご飯?おごり?おごり?」
受話器の向こうから聞えてくる声は間違いなくあいつだ。
「30分で来いや」ガチャ。カッコイイね、俺。












 

※ちなみに来ませんでした。