アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170222 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170222

 【晴】
 栄町の稲荷神社の初午祭の日、本殿脇の神楽殿では、昼間は神楽と演芸、夜はのど自慢が開かれ、沢山の露店も出て賑やかだった。

 祭の日は大抵の所で仕事が早じまいになり、職人を抱えている家では、心ばかりの酒席が用意されて、あちこちでわき上がる哄笑が、祭の雰囲気を盛り立てていた。

 学校から帰ると直ぐ母のもとに走りより、こんな日だけの特別な小遣いを貰って、外で待っている仲間と一緒に神社に向かった。

 稲荷神社は、我が家の工場からは目と鼻の先だったが、道の途中には友達の家が多く、一軒一軒声を掛けて行くので、結構時間がかかる。

 緑町の隣の栄町は、多く露地があるのが特長で、それがまた子供達にとっては魅力だった。

 昔からの長屋も沢山あって、善良な人達が肩を寄せ合って暮しているのが、町内を通り抜けて行くだけでもよく分かった。

 境内に入ると、神楽殿では小休止なのか、舞台には誰もおらず、本殿の石囲いの上に固定された拡声機から、古い流行歌が流れていた。

 例え舞台で神楽が奉納されていても、特別に興味があって観る訳ではないが、遊んでいる目の端見えていたり、あの独特の笛太鼓の調子を、聞くとはなしに聞いていると、何だか祭の真ん中にどっぷりと浸っている気がして心が満たされた。

 何も演じていない神楽殿の前の広場には、所々に佇む人の姿があるだけで、おおかたは露店を冷やかしたり、本殿前に集まって手を合わせたりしている。

 辻の斜め向かいの平野のおばさんの店は、もんじゃきや焼きソバ、お菓子、ところ天などを目当ての子供達でいっぱいだった。

 いつも遊びに来てオダをあげている堀越おばさんも、今日はせわしなく店を手伝っているのが、ガラス戸越しに見えて、私は何となくホッとした気分になっていた。

 平野のおばさんは、子供のヤッさんと二人暮しで、おばさんの細腕一本の稼ぎが二人の生活の支えなのだ。http://www.atelierhakubi.com/


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