アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170220 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170220

 【曇のち雨】
「そろそろフキノトウが出てるだろうから、明日学校から帰ったら、お前少し採って来ておくれ」

 晩飯のあとに祖母が私に言ったのを聞くと、今度は母も「そうだ、もう遅い位じゃないかい。なるべく沢山頼むね」と、祖母のそれに重ねた。

 (あ〃、もうそんな時期か)と、私は子供なりに季節の移ろいをしみじみと思ったが、そのあと直ぐに(あんなの少しも美味くねえのに、大人はなんでフキノトウなんか食べるんだろう)と考えてしまった。

 それでも枯草の下を掻き分けて、若草色のローソクの火のような形の花芽を摘むのは、結構面白いものだった。

 次の日の帰宅後に、母の用意してくれたザマを背負い、毎年出掛けて行く場所に行ってみると、先客がすっかり摘んだあとだった。

 仕方がないので渡良瀬川の土手下にある、ちょっとした穴場まで行ってみたが、ここも誰かが摘み取った跡があって期待外れだった。

 あと残された場所といえば、私の知る限りでは対岸の御厨用水の桜の下だったが、そこは完全に縄張りの外になってしまい、もし余所者が踏み込んでいるところを、地元の悪ガキ共に見付かったりしたら、まず無事に帰る事は出来ないだろう。

 それでも、収穫なしで帰宅した時の、ガッカリした祖母と母の顔を想像すると、何とかザマに半分位は持ち帰りたいので、思い切って越境する事にした。

 緑橋を向こう岸に渡ると、土手の上にのぼらずに河原に降り、土手下の薮の中に身を隠しながら目的地に向かった。

 冬の河原は、丈高い雑草や芦、名前もよく分からない木が密生していて、子供一人を何の造作もなく隠してくれる。

 その中を掻き分けながら、私は用水のある場所の近くまで進み、この辺と見当をつけた所で土手にあがると、少し離れてはいたが近くまで来ているのが、眼下の景色で確める事が出来た。

 ここはもう群馬県なのだ。http://www.atelierhakubi.com/


著者: 阿部 清
タイトル: 野ブキ・フキノトウ―株増殖法・露地栽培・自生地栽培促成栽培・加工



著者: 高橋 昭, 渡辺 あきお
タイトル: ふきのとうみつけた