アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170202 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170202

 【晴】《1日の続き》
 「東坂」を越えて五十部に入った葬列は、坂の下で直ぐ右に折れ、山沿いを北に上って行く。

 北関東の冬特有の冷たく澄んだ空気を通して、大岩毘沙門天を中腹に抱えた大岩山と、大岩の谷を囲む稜線が、寒々と眼前にあった。

 人家は山裾に疎らにあるだけで、大岩の谷は冬枯れの野と田が、吹き荒ぶ赤城颪に震えていた。

 あまりの寒さに尿意をもよおした私は、近くの人に断って列を離れ、道の脇で用を足している内に、葬列はみるみる遠ざかって行き、鼻のように突き出た里山の突端から、谷を横切る道に踏み入れて行った。

 先頭に立つ何本ものノボリ旗がほとんど真横にはためき、百人近い人達は全て顔をうつむけ前のめりになって強い向い風に耐えている。

 私は長い放尿が終わっても、しばらくの間葬列に目を奪われていた。

 耳に入るのは吹き荒ぶ風と、何かが飛ばされて発てる音だけ。
黒茶色に冬枯れた山と野の中を、のろのろと進む黒い帯のような葬列には、子供にもはっとする程の美しさがあった。

 あの列の中心に、おじいちゃんの眠る棺があるのだ。

 私は棺の中のおじいちゃんが、列の前後の人達を指図して進ませているような気がした。

 折からの陽に列の中の所々が金色に光るのは、きっと墓に供える供物の類に貼った金紙の反射だろう。

 この様子だと葬列はかなり遠くまで行ってしまったらしい。

 私は急いで田のあぜを選びながら、直線に近い道を走って列を目指した。http://www.atelierhakubi.com/


著者: 陳 建功, 岸 陽子, 斉藤 泰治
タイトル: 棺を蓋いて