アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170129
【晴】《28日の続き》
三味線で弾き語る男の人の唄は、私にとって全く未知のものに触れているのと同じだったが、子供が踏み込んではならぬ、甘美で物哀しい大人の世界の事なのだという事は、何となく理解する事が出来た。
音を聞きつけて近所の人達が次々と庭に集まり、誰が音頭をとるでもなく半円の人垣が出来ると、三人は音と踊りに一区切入れて見物の人達に向き直り、深々と頭を下げたあとに、男の人が「ご近所の皆様ひとときお騒がせを致します。この度またご当地におじゃまさせて頂き、相変らずの拙い芸ですが、お退屈凌ぎにお目にかけますので、今年もまたよろしくお願い申し上げます」と、文字通り芸居がかった挨拶をした。
「久し振りだね清さん。相変らずいいノドしてるじゃないか」
「おかみさんも娘さんも益々芸達者になったね」
顔見知りの人達が次々に声を掛け、庭の一隅に小さな祭の花が咲いた。
「本場のジェルソミーナは一人だけど、このジェルソミーナは二人だな」
下の兄が腕組みをしながら呟いた。
私は直ぐに、今、兄の言ったジェルソミーナが、最近話題になっているイタリア映画「道」のヒロインの事だと気付いた。
その途端、目の前で踊っている二人の女の人の姿と、映画の中のジェルソミーナが重なって、私は自分でも驚く程大きな感動の渦に巻き込まれて行った。
私は、清さんが、あのザンパノのように、ジェルソミーナに辛く当たるような事のないように黙って祈りながら、静かで物哀しい踊りを見入っていた。http://www.atelierhakubi.com/
三味線で弾き語る男の人の唄は、私にとって全く未知のものに触れているのと同じだったが、子供が踏み込んではならぬ、甘美で物哀しい大人の世界の事なのだという事は、何となく理解する事が出来た。
音を聞きつけて近所の人達が次々と庭に集まり、誰が音頭をとるでもなく半円の人垣が出来ると、三人は音と踊りに一区切入れて見物の人達に向き直り、深々と頭を下げたあとに、男の人が「ご近所の皆様ひとときお騒がせを致します。この度またご当地におじゃまさせて頂き、相変らずの拙い芸ですが、お退屈凌ぎにお目にかけますので、今年もまたよろしくお願い申し上げます」と、文字通り芸居がかった挨拶をした。
「久し振りだね清さん。相変らずいいノドしてるじゃないか」
「おかみさんも娘さんも益々芸達者になったね」
顔見知りの人達が次々に声を掛け、庭の一隅に小さな祭の花が咲いた。
「本場のジェルソミーナは一人だけど、このジェルソミーナは二人だな」
下の兄が腕組みをしながら呟いた。
私は直ぐに、今、兄の言ったジェルソミーナが、最近話題になっているイタリア映画「道」のヒロインの事だと気付いた。
その途端、目の前で踊っている二人の女の人の姿と、映画の中のジェルソミーナが重なって、私は自分でも驚く程大きな感動の渦に巻き込まれて行った。
私は、清さんが、あのザンパノのように、ジェルソミーナに辛く当たるような事のないように黙って祈りながら、静かで物哀しい踊りを見入っていた。http://www.atelierhakubi.com/