アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170128
【晴】《27日の続き》
徳正寺のマユ玉市も終わり、正月気分を味わえる材料が、どこを捜しても見当らなくなって来た頃になると、三人組の旅芸人が、踏切脇の飯島旅館に寝泊りしながら、緑町から栄町、そして通5丁目辺りの元町を門付けして歩いた。
男の人の三味線に合わせて、若い女の人と少し年かさの女の人が歌い踊る姿は、色鮮やかな衣装と化粧と相俟って、そこだけが現実離れしているような気がした。
「ごめんください。またお庭先をお借りします。おかみさんお久し振りで、またお世話になります」
「あら、よく来ましたね。早いもので、あれからもう一年経ったんだね。皆さんもお変わりないようで何よりです」
「ハイおかげさまで家族一同何とか年を越しまして、またこうしてお伺いする事が出来ました」
「本当にね、達者が一番ですよ。体さえ丈夫なら、人間何をしたって食べていけますからね」
「全くで、こちとら体が丈夫なだけがとりえで、あとは何もありませんですからね」
「人間なんて座って半畳寝て一畳って言うじゃないですか。達者で働ければ、お天道様と米の飯はついて来ますって」
「私達も、それだけが頼りで、こうして皆様のお情けにすがって稼がせて頂いております。それじゃあおかみさん、ちょいとばかりお庭先をお騒がせ致しますんで」
「あ〃どうぞどうぞ、ご近所の人達も楽しみの事でしょうよ」
母はそう言うと、ギリ場のゲタを引っ掛けて庭先に出て行った。
門付けの人達は、工場の庭の片隅に立つと、一言二言打ち合わせたあとに、少しの間気息を整えた。
やがて三味線にバチが入り、短い前奏が終わると、膝を揃えてその場に控え、片手の指先を地面について礼の姿勢で静止していた女の人達が、ゆっくりと立ち上がって舞い始める。
男の人は三味線を弾きながら、これから拙い芸を披露するので、どうか見物して下さいといった意味の口上を、静かにそしてゆっくりと歌い、その声は次第に張りを増して、周囲へと流れ伝わって行った。http://www.atelierhakubi.com/
徳正寺のマユ玉市も終わり、正月気分を味わえる材料が、どこを捜しても見当らなくなって来た頃になると、三人組の旅芸人が、踏切脇の飯島旅館に寝泊りしながら、緑町から栄町、そして通5丁目辺りの元町を門付けして歩いた。
男の人の三味線に合わせて、若い女の人と少し年かさの女の人が歌い踊る姿は、色鮮やかな衣装と化粧と相俟って、そこだけが現実離れしているような気がした。
「ごめんください。またお庭先をお借りします。おかみさんお久し振りで、またお世話になります」
「あら、よく来ましたね。早いもので、あれからもう一年経ったんだね。皆さんもお変わりないようで何よりです」
「ハイおかげさまで家族一同何とか年を越しまして、またこうしてお伺いする事が出来ました」
「本当にね、達者が一番ですよ。体さえ丈夫なら、人間何をしたって食べていけますからね」
「全くで、こちとら体が丈夫なだけがとりえで、あとは何もありませんですからね」
「人間なんて座って半畳寝て一畳って言うじゃないですか。達者で働ければ、お天道様と米の飯はついて来ますって」
「私達も、それだけが頼りで、こうして皆様のお情けにすがって稼がせて頂いております。それじゃあおかみさん、ちょいとばかりお庭先をお騒がせ致しますんで」
「あ〃どうぞどうぞ、ご近所の人達も楽しみの事でしょうよ」
母はそう言うと、ギリ場のゲタを引っ掛けて庭先に出て行った。
門付けの人達は、工場の庭の片隅に立つと、一言二言打ち合わせたあとに、少しの間気息を整えた。
やがて三味線にバチが入り、短い前奏が終わると、膝を揃えてその場に控え、片手の指先を地面について礼の姿勢で静止していた女の人達が、ゆっくりと立ち上がって舞い始める。
男の人は三味線を弾きながら、これから拙い芸を披露するので、どうか見物して下さいといった意味の口上を、静かにそしてゆっくりと歌い、その声は次第に張りを増して、周囲へと流れ伝わって行った。http://www.atelierhakubi.com/