アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170221 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170221

 【晴】《20日の続き》
 土手を下る前に人の気配がないか、じっと目を凝らして様子をうかがい、安全を確めて用水に近付いて行くと、深く切れ込んだ水路に沿った桜並木の根元から、下に続く斜面には、目で見ても分かる程に、フキノトウが地面から顔を出していた。

 (しめた)と思い斜面にとり付き、夢中になって摘み始めると、ザマは見る見る内にフキノトウでいっぱいになっていった。

 これだけあれば大丈夫と、そろそろ引き上げようとした矢先に、「オイ、オメエそこで何採ってるんだ」と、頭の上から声がした。

 (ヤバイ)と思って上を見ると、斜面の上から顔が覗いて私を睨みつけていた。

 年齢は私と同じ位だろうか、上に上がってみると、片手に山羊の手綱を握っている。

 多分この辺の農家の子なのだろうが、余所者の私が無断で自分達のテリトリーに入り込んでいるのを、かなり怒っているのが、その顔にありありと出ていた。

 私は覚悟を決めてザマを地面におろすと、「ゴメンな、家の親とおばあちゃんに言い付けられて、フキノトウを採りに出たんだけど、いつもの場所には、もうなくてな、あちこち探して、とうとうここまで来ちまったんだ。まずければこれ返すけど、手ぶらで帰ると親がガッカリするから、それが残念だよな」と素直に話してみた。

 すると相手が意外にも「そうなんかよ、だったら好きなだけ採って行けばいいじゃねえか。どうせほとんどは花にしちまって、これ食べる奴なんてあんまりいねえからよ」と、笑いながら話してくれた。

「そうか、悪いな。それじゃ遠慮なく貰って行くけど、もしも親がもっと採って来いと言ったら、また採りに来ていいか。俺は渡辺だけど…」

「俺は斉藤ってんだ。あ〃いいよ。俺んちは、ほら、あそこの屋根の家だよ。今度来たら寄って声を掛ければ、俺も一緒に採ってやるよ。そうすれば渡辺もこの辺の奴らに気兼ねがねえだろう」と、用水の森の東の森の脇に見える家を指差しながら言った。

「ウン、その時は必ず寄るから頼むな」

「分かった、そこまで送るよ」

 斉藤は緑橋のたもとまで、私を送って来てくれた。

「バーイ」、「バーイ」

 橋を渡り終え家に着くまで、私の足取は羽根が生えたように軽かった。http://www.atelierhakubi.com/


著者: 高橋 昭, 渡辺 あきお
タイトル: ふきのとうみつけた



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タイトル: ふきのとう・Sketch



著者: 阿部 清
タイトル: 野ブキ・フキノトウ―株増殖法・露地栽培・自生地栽培促成栽培・加工