アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170114 | アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草

アトリエ雑記…肖像画職人の徒然草/170114

 【晴】
 学校前を流れる「逆さ川」に架かる石橋を渡り、正門をくぐって直ぐの左側に、我が校の二宮尊徳像が立っている。

 石像の台座の前に座らされて、二宮尊徳についての説明を受けたのは、入学して間もなくの事だった。

 以来、石像の前を通る時には、なぜか居ずまいを正してしまうのは私だけではなかった。

 ある時、授業が終わって校門を抜ける直前に、一緒にいた仲間の中の長谷川が、「あのなー、二宮金次郎と同じように本を読みながら道を歩くのは、本当は悪いんだってよ。なぜって、もし前も見ねえで歩いてたんじゃ危なくって仕様がねえって、うちのあんちゃんが言ってた」

「バカヤロー、二宮金次郎の時代は、自転車も車もねえんだよ。だから本読みながら道歩いたって、誰にもぶつかりゃしねえんだよ」

 家住が口からツバを飛ばしながら長谷川をどやしつけた。

「そんな事ねえさ。昔だって馬や荷車があったし、カゴだってあったじゃねえかよ。そんなら今と同じで、前も見ねえで道歩いてたらよ、やっぱし何かにぶつかるかもしんねえじゃねえか」

「二宮金次郎がいた所は物すげえ田舎で、人も馬もほとんどいねえ所なんだよ」

 腕っ節の強い家住は、長谷川の首を抱えてグイグイとしめつけながら言った。

「痛え、痛え、首が痛えよ。苦しい、息が出来ねえよ」

 のたうち回る長谷川を横目で見ながら、私や小野寺、そして宮内や沼、岡島も板橋も腕組みして考えてしまった。

 長谷川の言った事は今まで思ってもいなかったし、そう言われれば確かにそんな気もする。

 物事は見方によって、随分と違って来る事を、私はその時つくづく知った。http://www.atelierhakubi.com/